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colums会長のコラム

会長のコラム 237

6月のコラムです。前号では、家内の逝去に付いて書かせて貰い、多くの方々からお悔やみのお言葉を頂いて、恐縮致しました。先ずは「お悔み」有難う御座いました。この場を借りて御礼申し上げます。
私、両親の死と弟の死で、血縁者との死別を体験していますが、長年苦楽を共にした伴侶の死は、何物にも増して苦しい思いをし、恥ずかしながら不幸に負ける思いに至って仕舞いました。この様な体験は初めてです。
共に暮らした60年間は、人生の中で最も重要な期間で、両親と過ごした期間よりも遥かに永く苦楽を共にしたことになり、重要な期間を過ごしたこの事実は、何事にも代えがたい重みが有った期間、この宿命を初めて知る苦しみは、並みのものでは有りません。
今の私には、仕事が有り、心の癒しとして音楽が有り、少しユトリを感じ始めると、また伴侶の不在が悲しみとして現れる。時間に余裕が無い中で、石原慎太郎と曽野綾子さん   の共著が、今私の置かれている状況と同じ時期に上梓された「死と言う最後の未来」を読んで自身の修行の足りなさを感じさせられる。これが、私の近況で有ります。
私には音楽が有ります。音楽鑑賞を生きる力と考え、音楽鑑賞の文化を進化させることに情熱を持ち続けることで元気が出る。支えてくれるスタッフが、それを読み取り、オーディオ機器の進化に増々の力を発揮する姿を感じ取る。この点、決して綺麗事では無く、現実への気迫を感じる昨今です。
此処で、私のオーディオ機器事業を少し振り返って見ます。起業当時の事業は、磁気記録機器の(R/W)計測機器の開発製造だった事は前号でもふれました。この間にもオーディオ機器の事業化への夢は持ち続けており、土曜、日曜になると木更津の武蔵野音響社を訪れ、計測技術を生かしたお手伝いをしており、やがて、カートリッジのステップ・アップ・トランスのOEM事業へと進化することになり、この点、以前の本コラムにも記しました。
社長の菅野さんは、電気磁気学を勉強した人では有りませんが、本能的に「トランスが悪い訳は無い」と主張され、私も「その筈です」と言う会話が始まりでした。私流に従来品の発想を変え、試作品を聴いて貰うと、「これだ ! 遣ったぞ」とばかりに早速米国のオーディオ誌「アブソリュート・サウンド」が取り上げてくれ、光悦ブランドで注文を受けました。
「何が発想の転換か」は過去に専門誌に書いていますので割愛しますが、これに磨きをかけたのがその後の当社商品であり、その仕掛け人が開発部長の斉藤であります。そして、このブラッシュ・アップの技術にはまだまだ終わりは有りません。何故なら人間の視聴への感性は、底知れぬ深さを持って居る事からです。何と言っても、「デジタル」よりも「アナログ」が優れていると言う現象は否定できません。これは人間の感性が∞であることの証でもあります。
「音楽鑑賞への感性」これ無くして、オーディオ機器の開発は有り得ません。「視聴への感性」と言うよりも「美を求める人間の感性」と言い換えるべきかも知れません。

今月の音楽ライフです。
今月のコンサートは、6月26日14:00開演の神奈川フィル定期演奏会のみでした。本来の会場である横浜みなとみらいホールは未だ工事中であり、神奈川県民ホール 大ホールでの公演に演奏は兎も角、会場に不満を抱えつつ行ってきました。
当日の指揮者は三ツ橋敬子、ヴァイオリンがマルク・ブシュコフ、演奏曲目がムソルグスキー/交響詩「はげ山の一夜」、チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲、そして後ステージがボロディン/交響曲第2番でした。
指揮の三ツ橋敬子は、東京藝術大学 大学院卒業後ヨーロッパにデビュー、第10回ぺドロツティー国際指揮者コンクールにて、最年少優勝し、ヨーロッパを主に活躍、神奈川フィルを始め日本国内オーケストラとも共演し、2012年にはNHK交響楽団へのデビューを飾り、国内での地位を確立しているひとです。
ヴァイオリン マルク・ブシュコフは、ヴァイオリニストの家庭に生まれ、数々の著名国際音楽コンクールに優勝、入賞している人で、当日演奏された三ツ橋敬子指揮による チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲は、今まで経験したことのない、素晴らしい演奏に暫くの間、身体が固まってしまい、恥ずかしながらこのポピュラーな曲を何とも表現のし様がない状況でした。そして残念ながら、この様な静かな曲にこのホールの音響は益々悪さを発揮するのです。
後ステージのボロディン/交響曲第2番ロ短調、この激しい曲は三ツ橋の実力を存分に発揮する演奏であった様に思う。何と言っても、ホールの音響の悪さを吹き飛ばしてくれる、各楽器のフォルテ演奏が続く、しかもオーディオ・マニア諸氏が好む最右翼の曲、やはり指揮者の三ツ橋敬子はただ者では無いとの思いが湧いてくる。
コロナ禍の演奏会、神奈川フィルのスタッフの皆さんご苦労様でした。私、定期演奏会メンバーである事に、幸せを感じさせられるコンサートでした。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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