会長のコラム 035
久しぶりに技術の話をします。
オーディオ技術でのフィルター回路は、一般的な技術として通常よく遭遇します。例えばハイパスフィルターは図のように表され、この回路のカットオフ周波数は ω=1/CR で表されます、ω=2πf ですから、ここから周波数に対する必要な定数が算出される良く知られた技術です。
しかし、この数式が成立する条件は、供給側の出力インピーダンスが限りなくゼロである事と出力の相手側入力インピーダンスが限りなく無限大である事が条件です。このインピーダンスの関係は、フィルター回路に限ったことではなく、ATTやスイッチなどの素子に付いても同じ事なのです。
言葉を変えて表現すると、信号源、受信点で電力損失が起きてはならないと言う事です。実際に出力のゼロのインピーダンス(Zs)や無限大の入力インピーダンス(Zi)と言うのはこの世に有りませんから、限りなく近い値にすると言う事で多少の誤差を計算上織り込むことで実務上は処理します。
ここで、無限大インピーダンスをハイインピーダンス、ゼロインピーダンスをローインピーダンスと言い換えましょう。ローインピーダンス出力を実現するには、アンプを用いることです。そしてマッチングトランスを使う手があります。同様にハイインピーダンス入力を実現するのも、これと全く同じ事です。この場合、アンプを「アクティブ素子」と言い、トランスや抵抗を「パッシブ素子」と言います。
つまり、このハイパスフィルターには入出力側にアンプが必要と言う事です。さて、アンプはアクティブ素子で優れたインピーダンス変換器ですが、アンプほど音質に影響を与えるものは無いのです。オーディオに関る者の常識です。
このアンプがインピーダンス変換器であることを理解して頂けたと思います。それでは、アンプを使わずパッシブで実現出来るのがトランスですが、残念ながらトランスのオーディオ回路への研究は殆どなされていないのが実態です。そのため、トランスに対する一般的なイメージは悪いのですが、優れたインピーダンス変換器である事に間違い有りません。この点を掘り下げて考えてみることにしましょう。
オーディオ草創期ウエスタンエレクトリックが栄えた時代は、このマッチングトランスが多用されました。しかし、近年アンプのコストが安くなると手間と材料費の掛かるトランスは厄介者扱いになり、更に悪い事にトランス製作のコストダウンが計られて、益々トラス悪者説が一人歩きし始めます。しかし、今でもウエスタンのトランスが珍重されているのはその作りの良さにあり、下手なアンプよりも良い結果が得られると言うことがあります。
そのように考えると、現代の技術を以ってトランスをつくると材料や製作技術は当時より遥かに優れていますから、材料費と手間を惜しまなければ更に良いものが出来るはずと考えるのは良識ある技術者魂ではないでしょうか。
単に電気磁気学の理論に忠実に設計したからと言って、「音」の良いトランスが出来るほどオーディオは甘く有りません。「音」の判る技術者が電気磁気学を基にしてノウハウを積み上げてこそ良いトランスが出来ます。アンプも同じ事ですが、有能なアンプの回路技術者は大勢おります。ですから、アンプの性能を突き詰めてゆくと最後に到着する音が収斂されて個々の差別が無くなると私は考えます。
フェーズテックは、トランスをコアコンピタンスとして「音」を創ります。それによって、他社に無い「音」が造れるのです。回路技術と制震技術は有って当たり前と考ますから、敢えて声高に言う事はしません。これからのフェーズテックの「音」に期待してください。