会長のコラム 118
前号8月のコラム117は、バイロイト音楽祭の記事で一杯になってしまいました。よって、8月の117号にて扱うべき、恒例の松本サイトウ・キネン・フェスティパルを本号にて記すこと致します。
異常な暑さが9月中旬まで続きましたが、幸いな事に、コンサートは、今月から始まる神奈川フィルの定期演奏会と神奈川フィルの名手達と称する二つだけでした。
10月は新国立劇場の新シーズンの開始、そして、ウイーン国立劇場の引越し公演の3演目があり大物公演が続きます。
サイトウ・キネン・フェスティバル
8月25日、26日の2日間に渡って聴いてきました。このテェスティバルは、毎年8月初旬から9月初旬に渡って大小さまざまな公演が開催されます。
毎年の目玉公演である、オペラ公演とオーケストラ・コンサートがあります。私は、8月25日の土曜に、オーケストラ・コンサート、8月26日の日曜にオペラ公演へ行って来ました。
オーケストラ・コンサートの会場は、松本文化会館でした。サイトウ・キネン・フェスティバルの当初の会場は、オペラ公演もオーケストラ・コンサートもここで行われておりました。そして、数年ほど前に、まつもと市民芸術館が完成して以後は、オペラ公演がこちらの方に移動し、以後は公演目によって、分けて開催されるようになっています。
私にとって、ここ松本文化会館は、サイトウ・キネン・フェスティバルの初期を思い出す存在です。その当時は、世界一流のフェスティバルであり、将来はザルツブルグ音楽祭の規模に発展するものと思っていました。
だから、このコンサートに席が取れることに特別な思いがあり、懐かしい思いが湧いてきます。
オーケストラ・コンサートの演奏曲目は、前半がシューベルトの交響曲3番と比較的軽い曲で、後半がR・シュトラウスの大曲「アルプス交響曲」、指揮がダニエル・ハーディングでした。
ダニエル・ハーティングは、今話題の若手指揮者であるC・ティーレマンやグスターボ・ドゥダメルなどの若手大物と並び評される一人でありましょう。
プログラムによると、17歳のときに小澤の薫陶を受けたと記されていますが、彼はピリオド楽器演奏の理解からアーノンクールやラトルへと繋がるラインのイメージが強く、現在ではロンドン響の主席指揮者であり、新日フィルのパートナーとのことでもあります。
しかし、小澤の代理として、このフェスティバルの価値を維持し続けるには役不足と言えましょう。それが勤まるのは、バレンボイムのような大物を何か理屈を付けて引っ張ってくる以外に術は無いと思うのであります。
さて、演奏に付いてですが、「アルプス交響曲」は素晴らしいものでした。ベテラン揃いのオーケストラ・メンバーの醸す音に隙は無く、昨年のズビンメータ率いるイスラエルフィルを髣髴する思いで、久し振りの超一流オーケストラを聴く思いでした。
それにしても、小澤のいないサイトウ・キネンの存在はなんとも寂しいものです。
さて次に、オペラ公演としての演目であります。オネゲルの「火刑台のジャンヌダルク」ですが、私は演劇に付いて全く無知でありまして、このオペラの主演を演じるイザベル・カラヤンに付いても、指揮者カラヤンの娘と言う事実を事前のチラシによって知っただけであり、演劇俳優としてのキャリアは全く知りません。
この曲のサイトウ・キネンオーケストラによる演奏が、今回で2度目である事は承知していましたが、プログラムによると日本での演奏は、N協が2回、新日フィル、大阪センチュリー響などが演奏しているとの事で、それなりに評価された作品なのでしょう。しかし、オペラとしての面白さは私の理解の範囲では有りませんでした。
主役のジャンヌ・ダルクを演じる、イザベル・カラヤンは、舞台俳優であり歌手ではありません。アリアどころかレチタティーボもどきも歌わないのです。本公演では、オペラとは言っていませんで、劇的オラトリオと称しておりますが、プリマドンナが歌わないだけで、他は全くオペラと同じ形態であります。
専門家は、貴重な公演と言いますが、私はアマチュアのオペラ愛好家であり、音楽を楽しむファンの一人であります。残念ながらこの公演は面白く無いの一言であり、私に芸術の発展に貢献するミッションは有りません。
ただ、舞台の構成からオーケストラが客席から丸見えでありまして、コンサートマスターの矢部達哉の息使いが感じられ、オペラ公演としては得難い経験であった事が救いでした。
神奈川フィル定期演奏会
9月15日14:00開演、横浜みなとみらいホールにて行われ、行ってきました。2ヶ月間空いた後のコンサートでしたが、暑さの残る気候は決してコンサートに絶好とは言えない環境でした。
そのためかどうか、指揮が伊藤翔で、彼は今年の3月まで、当神奈川フィルの副指揮者を務めていたひとです。そして、コンサートマスターが清水醍輝と言うゲストコンサートマスと言う事で、何か2軍登場のようでありました。
出演者にはホルンの名手と言われるプジェミスル・ヴォイタと言う人で、プログラムによると色々な国際コンクール受賞歴を持ち、現在ではベルリン・コンツェルトハウスの主席を勤める傍らベルリン芸術大学にて教鞭をとっているとの事です。
このホルンと言う楽器は、どうも日本人には苦手な楽器のようで、オペラの演奏などでは外した「音」を聴かされるたびに、「今、生演奏を聞いているのだ」と感激が湧いたりするものです。
当日は、ウェーベルン/管弦楽のための小品が演奏されましたが、全然面白く無い、現代音楽では「音」を外しても判らないのではないかとさえ思ってしまいます。要は、上手いのか下手なのか判らない、これは、私の未熟さと言う事にしておきましょう。定期演奏会でもなければ、まず聞く事の無い曲ですからハイ。
このコンサートの翌々日に「神奈川フィルの名手たち」と銘打ったコンサートがありまして行ってきました。このシリーズは、このシーズン中に3回ありまして、私は全てのコンサートチケットを手に入れており、これから2回のコンサートが予定さけています。
普段は、オーケストラ・メンバーとして演奏している人達ですが、コンマスの石田さんやチェロの山本さんは何度かソロを聞いて、その素晴らしさにほれ込んでいます。他の奏者達も聞いてみたいと思うのが人情と言うものであります。それで、このシリーズにトライしたわけです。
しかし、この日のコンサートは、前々日の定期演奏会に出演したプジェミスル・ヴォイタのホルン独奏会の様相でして、神奈川フィルの名手は、その添え物と言うか賛助出演みたいなもので、しかも聴衆はホルン奏者か、ホルンを勉強している人が対象であるかのような、マニアックなコンサートでした。
当日演奏された曲も、作曲者が「シラヴィッキー」、「フォルケル・タヴィット」、「カール・ライネッケ」などと聞いた事も無い名前の人達ですから、日曜の貴重な時間を費やして残念な思いをしました。
コンサートのチラシを見れば判ったのですが、何分「神奈川フィルの名手たち」と言うキャッチばかりが、目に付いてしまい反省しきり、我ながらお粗末な結果でした。