会長のコラム 008
先日、当社試聴室のお客様として、ロスアンゼルス在住の田口さんがお見えになりました、田口さんは現在フリーのマスタリングエンジニアとして活躍されていますが、氏の現役時代に開発したXRCDはあまりにも有名です。
当社試聴室の設備は、以前にもお話しましたが、アルテックA-5システムの純正ネットワークを外して、デジタルチャンネルデバイダーに入れ替え、低域を845PPアンプで高域を300Bシングルアンプで駆動しているシステムを使用しています。
XRCD初期に田口さんがマスタリングされたCDをこのシステムで聞いて頂きました。今回はこのときの話題を取り上げたいと思います。
我々がオーディオ機器を開発するとき、音像定位、音楽の鮮度、ライブの空気感等を追求するのですが、田口さんも同様な事を目指しておられるものの、その目標水準は我々のものを遥かにこえる深いレベルを追求しておられ、その姿勢に感動を覚えました。例えば、ドラマーがシンバルを叩くシーンでも、シンバルのどの部分を叩いているが判るほどに音像定位を追及しているのです、ですから、氏が作ったCDソフトが目の前で展開する様を厳しく指摘され、私達の自慢のシステムも容赦なく批判されるのですが、いちいち納得すると言う貴重な体験でした。
当日は、某マスタリングセンター長も同行され、意見交換に花が咲いたわけですが、CDソフト制作現場は、我々オーディオに携わる技術の原点であり、川上に当たる事を考えれば、我々が目から鱗と言うのもあたり前で、優れたソフトの提供が無いとオーディオの進化もそれまでと言う事になります。それにしてもマスタリングの現場の姿勢はさすがです。
オーディオは趣味の世界ですから、過去の名機が神社仏閣に相当する文化と言いながら、EMTにこだわるマニアも仲間です。狭いライブハウスで良くも無いマイクを使って演奏している姿、ボーカルならいざ知らず何故マイクが離せないのか。だから、生演奏よりCDの方が良い音と言われても仕方が無い。
されど生が良いと言う、この矛盾を感じないマニア諸氏にとり、オーディオは趣味ですから何でも有りの世界です。
しかし、「音楽」有ってのオーディオと言う原点を忘れると、やがては趣味のオーディオも萎えてしまうのではないでしょうか。