会長のコラム 120
10周年記念モデルのプレゼンテーションに費やした10月でした、そして迎えた11月のコラム120号です。
10周年記念モデルのイコライザーアンプ:EA-1000、フォノ・カートリッジ:PP-300、モノラル・カートリッジ:PP-Monoの3機種ともに上々の結果を得て、評論家先生方の評判も頗る好評で、来年の売り上げ増に向けてチャンスであります。しかし、我々小世帯の経営は、これまた大変な仕事なのです。
11月の音楽ライフは、新国立劇場が2演目、神奈川フィルの定期演奏会、その他小さなコンサートが続きましたが、この内上記3演目の記述にとどめ、懸案のチャンネル・アンプ・システムの完成に、そろそろ結論を出すべき時期と思い、このテーマから記述する事にします。
チャンネル・アンプ・システム
チャンネル・アンプ・システムでは、チャンネル・デバイダーが中心の機材となります。しかし、市場良い商品が無いのが実態です。多くのアマチュア諸氏が悩むのはこの点である事を以前に書きました。
海外の有名メーカー品であっても例外ではありません。理由は、高次フィルターを使用しているからで、アナログ式高次フィルターは多量の帰還を掛けなければ実現しませんで、それがアナログ式デバイダーの諸悪の根源なのです。
最近では、デジタルフィルターの進歩が進み、チャンネル・デバイダー機能を備えた、デジタル・イコライザーが商品化されております。これらの機器は、理論的に優れた商品ですが、如何せんA/D、D/Aの繰り返しが必須となり、残念ながら音の鮮度は少なからず失われます。
「音」の鮮度に付いて言うと、「シンプル・イズ。ベスト」が原則で、高度な技術、高価な商品イコール高音質ではありません。チャンネル・デバイダーも同様で、最もシンプルなCRによるoct/6dBフィルター以外に実用となるチャンネル・デバイダーは無いと言い切るに至りましたが、よりシンプル化を計ったのが、私流の結論であります。
それは、ミッドレンジにホーンスピーカーを使いたいと言うのが、アマチュア諸氏の大勢で、だから、チャンネル・アンプ・システムにした、と言うマニアの方が多く、そこでBPFが必須うと言う事になるのですが、ここにBPFを使わずにハイパス・フィルターにするのが私流です。
ホーンスピーカーの特徴として、ホーンの低域カットオフ周波数近辺では音が乱れますから、その分を見越して、カットオフ周波数近辺で6dB程度落とす様にハイパス・フィルター常数を設定します。ミッド・ユニットの上限周波数以上の帯域は、無視して出しっぱなしとします。
と言うのは、ミッド・ユニットの上限F特性以上は動作しませんから、追い討ちを掛けて、ローパスフィルターを入れる必要は無いと考えます。その減衰特性を見ながら、ツイーター用のハイパス・フィルター常数を設定します。
「シンプル・イズ・ベスト」の決め手に、もう1つあります。フィルター素子のCR常数ですが、交流理論の原則から、「Hi受け、Lo出し」としなければ、計算式は成り立ちません。となると、入出力部、共にアンプが必要となります。しかし、「シンプル・イズ・ベスト」を極める為に、このアンプを使わないのが私流です。
この用途に打って付けなのが、フェーズメーションの提唱するハイブリット・パッシブATTです。何と言っても、このATTはハイインピーダンス入力、ローインピーダンス出力ですから、チャンネル・デバイダーにはお誂えと言うものであります。ただでさえ、複雑になるマルチ・チャンネル・アンプシステムです。
「シンプル・イズ・ベスト」を徹底的に貫いたのが、パッシブ素子のみで構成するチャンネル・デバイダーで、この手法によって音の鮮度とステージ感を再生する、オーディオ・システム創りに成功しました。
音楽の醍醐味を知るとオーディオの楽しみが倍増されます。この実験結果を私のお客様に導入してみました。手塩に掛けたシステムは、「誰が何を言おうと絶対に良い」と言うのがマニアの心理でありますが、全ての方々が無言の内に納得と言うものでありました。
次回は、もう少し具体的にお話しましょう。
新国立劇場11月公演オペラ「トスカ」
11月11日(日)14:00開演のマチネ公演に行って来ました。歳をとると、マチネコンサートが良いですね。食事や帰宅時間の心配が無く、この余裕が何とも言えない至福を感じるのです。
当日の公演は素晴らしかったです。兎に角、役者が揃っていたこと、東京フィルの演奏が良かった事、主席奏者の黒木さんがピットインしていて客席からエールを送った事、評論家の加藤浩子さんが、プログラムのメインに記事を書いていた事、等などでありました。
トスカを演じた、ノルマ・ファンティーニはプッチーニ歌いの別名があるくらいに、プッチーやヴェルディーを得意とし、イタリアはもちろん、広くヨーロッパ、メトロポリタン等で活躍する中堅ソプラノ歌手であります。
そして、カヴァラドッシを演じるサイモン・オニールは、ザルツブルグ、バイロイト音楽祭への常連出演者で、ワグナー歌いとして活躍している人で、今年のバイロイト音楽祭にも出演していました。
たまたま、前日の11/10に日本人オペラ歌手による、オペラ「カルメン」を観賞し、その後に当公演の観劇でした。その為か、オペラ歌手の世界水準との差を如何ともなし難いものとして痛感した次第です。
今の我々には、安直に世界のトップレベルと接触出来る機会は、この新国立劇場だと思うのです。とすると、新国立劇場は世界トップクラスの歌手による公演がマストなのです。
日本のプロ音楽家の言う「日本人歌手を優先しろ」と言う声があると聞きますが、そうであれば、私にはそのミッションは御免であり、公演鑑賞に行くことは無いでしょう。そして、正面玄関での音楽関係の労組の方々は一体何を考えての抗議活動なのか、我々は時間とカネを払って芸術を鑑賞し、心を癒しているのです。
さて、このオペラの要である、悪役のスカルピア役は、センヒョン・コーと言う韓国人歌手でした。なかなかの声量と体格を伴う演技は悲劇のストーリーを盛り上げていました。
同じバリトンのアンジェロッティー役を演じたのが、今、活躍中の谷友博で、心情的にはスカルピア役をやって貰いたかったと思うのですが、残念ながら役どころが違うと言うことでありましょう。
神奈川フィル定期演奏会
11月23日(金)横浜みなとみらいホールにて14:00開演で行ってきました。
演目は、前ステージがベートーベン/P協5番「皇帝」、後ステージがR・シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」でした。
ベートーベンの「皇帝」は、高校生の当時からケンプのピアノによるレコードを聴いており今でもそのレコードを持っていますが、今では針を落とす機会は殆ど有りません。
たまたま、当日の演奏者ゲルハルト・オピッツは、ケンプの弟子に当たる人のようで、何か昔の自分を思い出したようで懐かしくもあり、今更「皇帝」と言う感じも有って、音楽に集中出来ないままに経過してしまい、終わってみると「今何だったのだろう」と自分の音楽の聞き方に疑問を感じてしまいました。
さて、R・シュトラウスですが、金聖響の神奈川フィル、石田康尚のソロ・バイオリン、ステージ一杯に広がったフルオーケストラは良かった。何しろ若々しく新鮮さを感じました。
この曲、比較的新しい演奏では、C・ティーレマンのウイーンフィルのCDが良いと思っていましたが、このC・ティーレマンと言う人は、年の割りに古い感じが拭えませんで、当日の神奈川フィルの演奏を聞いて、C・ティーレマンの古さを改めて感じてしまいました。
しかし、良い悪いは別にしてR・シュトラウスの素晴らしさを改めて感じてしまい、これこそ、定期演奏会の存在意義だなどと、偉そうな感じを描きつつ、このオーケストラの益々の成長を期待し、地元神奈川の誇りとして育って貰いたいと願った次第です。
新国立劇場オペラ公演ロッシーニ/セビリアの理髪師
11月28日(水)18:30開演で行ってきました。
何度見ても楽しいオペラです。この公演での主役の4人が全くの適役でこれ以上の役者はなかなか揃わないのではないかと思うくらいでした。フィガロ役のバリトンのダリボール・イェニスは、新国立劇場初登場なからヨーロッパの主要劇場の常連バリトン歌手です。
フィガロの人物像はかく在るべきと言う役柄で、声量があり、歌は上手い、背が高くハンサムで伯爵の手先としてこれ以上望むのは無理と思わせる役柄をこなしていました。
ロジーナを演じるメゾソプラノ歌手ロクサーナ・コンスタンティネスクは、ウイーン国立歌劇場の専属歌手の経歴がある、ヨーロッパで活躍する若手中堅です。
歌よし、声よし、美人であり容姿抜群でこれまた絶品、カサロバには及ばないかも知れませんが、それ以上の美人かも知れません。
アルマヴィーヴァ伯爵を演じるテノール歌手ルシアノ・ボテリョは07年ヨーロッパ・デビューした若手中堅ですが、ドラマティコテノールでは有りませんで、ロッシーニ謳いと言うところでしょうか、良く「ころころ」とロッシーニ節を謳っていました。
さて、オペラの進行上の大切な悪役を演じるバルドロ役のバス・バリトン歌手ブルーノ・プラティコはイタリア生まれでイタリアを始め主要オペラ劇場で活躍するベテランであり、新国立劇場公演の「セビリアの理髪師」には常連であります。
こうしてみると、新国立劇場の公演は演目に即した歌手をその時々に調達できる最高の歌手を揃えている様に思えます。贅沢を言えば、限がありますが、少なくとも現在望みうる最適のキャストを揃えていると言えましょう。有り難いことです。