会長のコラム 102
天候不順の6月は、事のほか忙しい月でありました。特にオペラ公演は、メトロポリタン歌劇場公演の3演目に加えて合計5演目のオペラ公演で、それに何時もの神奈川フィル定期コンサートと多彩な音楽ライフでした。更に、2泊の伊豆温泉旅行、太陽光パネルの稼動開始と豊富なコラム題材に紙面を工夫するのが一苦労のコラム102号であります。
1.新国立劇場 プッチーニ/オペラ「蝶々夫人」
2.高輪オペラの会
3.メトロポリタン歌劇場日本公演の3演目
4.伊豆の温泉に2泊3日の旅行
5.神奈川フィル定期演奏会
6.太陽光パネルの稼動
1.新国立劇場 プッチーニ/オペラ「蝶々夫人」
新国立劇場6月公演のプッチーニ/オペラ「蝶々夫人」を6月6日PM6:30開演による初日公演を観劇してきました。
今年の8月は、岡村喬生さん起案による改定版「マダマ・バタフライ」がイタリアのプッチーニ生誕地トーレデルラードでのプッチーニ・フェスティバルにて公演されます。この公演は岡村喬生さんが生涯かけての念願公演でありまして、我々応援団としては当地に駆けつけないわけには行きません。その意味で、今月公演の新国立劇場オペラ/蝶々夫人は、事前おさらいを意識しての観劇でありました。
さて、新国立劇場のオペラ/蝶々夫人の公演ですが、震災以後は初日公演のキャンセルが続き、些かオペラ欠乏症を感じていたところで期待に思いを馳せていました。当日の蝶々夫人を演じるオルガ・グリャコヴァは、ロシア生まれ、モスクワ音楽院で学んだソプラノ歌手です。この人について私は知りませんでしたが、プログラムによるとなかなかのキャリアでありまして、メトロポリタン、ミラノスカラ座、ウイーン国立歌劇場、英国ロイヤルオペラその他、世界の名立たるオペラ劇場に出演しタイトルロールを務めた実力ソプラノ歌手と言うことであります。
オペラ「蝶々夫人」は、出だしから合唱をバックに歌いながらのプリマ登場と言う、典型的なプリマドンナオペラで、ここで早くもタイトルロールの実力が示されるのであります。観客は、そのときを逃さずに聞き耳をたてるものですが、なんとその声の素晴らしさ、これから始まるドラマの緊張がより引き締まるものを感じました。
このソプラノ歌手には、私、近年まれなる感動を覚える素晴らしいものでした。第一幕終了の休憩時間に、当日出演していた東京フィルハーモニーの主席コントラバス奏者の黒木さんに挨拶したところ、いきなり「今日のソプラノどうですか」と突っ込みが入り、ゲネプロ以降は楽団員の間でこのソプラノ歌手が話題との事でした。声の良さ唄の上手さもさることながら、蝶々さんの日本人的仕草の演技が何とも心地良く、過去の外人歌手にありがちな大味な演技とは全く別物であり好感がもてる舞台でありました。
夏の岡村喬生さんが起案する新作「蝶々夫人」のイタリア公演鑑賞の下敷きとなる素晴らしい公演でありました。
2.高輪オペラの会
年に3回公演される「高輪オペラの会」今月は、プッチーニ/オペラ「トスカ」が6/11土曜に高輪プリンスホテルにて行われ行ってきました。このスケールの大きなドラマチックなオペラをピアノ伴奏だけでどのように表現するのか、オペラのピアノ伴奏の名手である河原忠之がどう表現するのか、まさに興味津々と言うところでありました。
出演者は、トスカが羽田宏子、カバラドッシが樋口達哉、スカルピアが柴山昌宣と言う面々で、カバラドッシ役の樋口達也が若いだけに元気が売りでしたが、若さ故の修行不足を感じましたが将来期待出来るテノール歌手と見受けました。
ソプラノの羽田宏子さんは、素晴らしいソプラノ歌手でありますが、足が不自由なために舞台に出ての演技は出来ないと思います。コンサート形式のオペラやリサイタルのような舞台に限られる事は、この人の実力から考えて残念と言わざるを得ません。そして、テノールの柴山さんは中堅歌手と言うところで、当日の歌手陣を引っ張る役柄でもありました。
河原さんのピアノ伴奏は、予想通りドラマチックなオペラを表現してくれて歌手の実力を存分に引き出していました。僅かテーブル一つ隔てた場所で聞く本格オペラ歌手の歌と言うのは凄まじい迫力でありまして、このオペラの会は私にとって、欠かせない大切な機会であります。
次回は、11月と少し間があきますが、モーツアルト/オペラ「フィガロの結婚」です。
3.メトロポリタン歌劇場日本公演の3演目
5年ぶりのメトロポリタン歌劇場来日は、予定通りの日程で行われたものの、心配されていた出演者のキャンセルは、思いも及ばなかったアンナ・ネトレプコのキャンセルを聞かされましたが、流石オペラ劇場の名門だけあって、その代役陣が素晴らしく公演は成功裡であったと言えましょう。イタリアオペラの代表的3演目はどれも豪華絢爛、これぞ「ザ・オペラ」と言うものであり、私は久し振りの大満足感を味わうものでした。
私の観劇した順を追ってお話する事にしますと、6/12(日)15:00開演のマチネで東京文化会館にてのドニゼッティー/オペラ「ラメンモールのルチア」の公演でありました。この公演は、ほとんど当初と変わらないキャストであり、指揮は予定通りジャナンドレア・ノセダ、イタリアオペラの指揮者として名の通ったメトロ・ポリタンの定番指揮者です。そしてルチア役を演じるソプラノはい今が旬のティアナ・ダムラウです。この人は、ドイツ人でありますが、メトではイタリアオペラとドイツものへの出演が多いひとで、今回の公演でもその役を見事にこなし好公演でありました。演出、舞台、キャスト、オーケストラ全てがパーフェクトと言えたのではないでしょうか。総合芸術のパーフェクトとは容易なものでは無いでしょう。それほどまでに感激した公演でした。
次の公演が、6/17(金)19:00開演のプッチーニ/オペラ「ラ・ボエーム」で、NHKホールでの公演でした。ミミ役が、アンナ・ネトレプコの「どたきゃん」によってバルバラ・フリットに変わり、指揮者がファビオ・ルイジでした。この人は、メトの常任指揮者であり演奏は言う事なしでありました。問題は、アンナ・ネトレプコの直前キャンセルは残念でしたが、その代役のバルバラ・フリットは当初「ドン・カルロ」に出演予定だったものを振り替えたのですが、私はこの方が良かったと思っています。それは、ネトレプコに付いてのことです。日本では異常に人気が高い様に思います。確かに安心して聞ける今旬のソプラノ歌手ですが、変なイタリア語であるし、抑揚に欠ける一本調子とも言える歌唱など気になるところが有って、私は彼女の人気に疑問を感じています。それに彼女の「ラ・ボエーム」はレーザーディスクにて見過ぎぎみでしたから、バルバラ・フリットに変わって良かったと思います。この公演も、メトらしい豪華な舞台装置、演出それにオーケーストらはオペラファンを魅了するものでした。
最後の公演が、その翌日6/18(土)15:00開演のマチネでヴェルディー/オペラ「ドン・カルロ」、NHKホールでの公演でありました。このオペラは男が中心であります。タイトルロール役がヨナス・カウフマンのキャンセルのために急遽ヨンフン・リーと言う韓国出身のテノールに変わったのは真に残念でした。しかし、この役柄にぴったりであったと思います。確かにカウフマンに比べると若さ故か何か荒っぽさを感じ不満は残るのですが、何と行ってもバスのルネ・パーペの出演したことは圧巻でありまして、これでお合いことしましょう。
さてNHKホールでの公演は、毎度音が気になるのですが、何故か今回のメトに関しては、演奏の素晴らしさ故か全く気にならなくて、後でそう云えば今日はNHKホールだったなーと思う次第でした。公演の素晴らしさに気が付かなかったか、何か修理でもしたのか一寸気になるところでしたが、ニューヨークのメトロポリタン劇場はNHKホール並に大きく、そこで演奏するオーケストラは常々ホールの大きさに負けない演奏力を鍛えているとの事のようです。
それにしても、チケット料金は高いですね、一人6万円で家内と2人で一晩12万円、3演目ですから36万円、私にとっても半端な金額ではありません。何とかして貰いたいですよ。しかし、ニューヨークに行ったと思えば安いし、もう先の無い人生だからと思う事にして、くよくよしないで残り少ない人生を楽しませてもらうことにしています。
4.伊豆の温泉に2泊3日の旅行
最近の温泉地情況ですが、湯河原、熱海、伊豆と云った嘗ての名門温泉場も様子が変わって、マンション化が進む一方で、一泊4万円以上の高級旅館や料理サービスなど旅館の特色を生かした高級割烹旅館や、リピーターの確保を主眼としたリーズナブルな料金体系の旅館など新しいタイプの旅館が出てきて、東京近くの温泉旅館も面白くなって来ているようです。
私が新進ベンチャーとして活躍した当時、上場や経営体系などの手法に付いて激しく論戦した経営者仲間達も今は引退して次世代の若手に引き継いでおられる方が多いです。
その人たちの中に、全国の温泉を巡り歩いて、良い温泉旅館にリピーターとして通うことを趣味にしておられる方がおりまして、今回、この方の特別お勧め旅館を周ってきたと言う次第であります。
特別お勧めと言いましても、始めに言いました一泊5万円クラスの高級割烹旅館ではなく、比較的リーズナブルな一泊2万数千円どまりの価格帯で、満足のいく温泉旅館と言うのがこの方の選ぶ基準になっています。
最初に訪れた旅館は、伊豆修善寺温泉の更に奥にある船原温泉郷の中の一軒宿であります。
温泉風呂は屋内と露天とがあってまずまずの温泉ですが、何と行ってもここの料理が素晴らしい事であります。旅館の主人が釣ってきた鮎の料理でありまして、洗い、カルパッチョ、塩焼き、たたきのなべ、一夜乾し、鮎の炊き込みご飯と言う様に料理し、会席風に出てくるのですが、これら全てが最高の味でありまして、私も家内も京都の割烹以上だと大満足でありました。
ここの旅館は、一日の客を数組しか取らないようですし、お子様連れのお客はご遠慮願っているとのことで、ポリシーがはっきりしていて、ほとんどのお客がリピーターとのことでした。料理長はオーナー自身でして、家族で経営されているようです。これだけコンセプトがしっかりしていると、必ずリピーターは付くでしょう。これこそ、人生の役を全うした人達の求める癒しそのものであり、昨今の温泉旅館不振など全く考えられない世界であります。
翌日は、伊豆高原の富戸温泉を経由して湯河原温泉に向かいます。ここ富戸温泉で訪れた旅館は日帰り温泉浴ができる旅館ですが、私達は昼食のみ頂くことで訪れました。この旅館は本店が横浜で割烹を経営されており、そのご家族で経営されておられるとの事でした。生簀の伊勢海老や魚介類を七輪で焼いて食べる料理でありましたが、オーダーにより当然刺身料理もあります。我々は炭火七輪の料理を注文しました。出てくる食材は全て生きているものばかりで、料理とは云わないかも知れませんが、季節外れの炭火七輪で焼く魚介はこれまた絶品としか云い様は有りません。この旅館は、みかん山の頂上に在って見晴らしが良い場所ですが、外での食事は既に真夏日でありまして、室内で冷房をがんがん利かせての七輪焼きですから、贅沢この上ない事であります。料理に茶碗蒸しや酢の物が出てきましたが、あまりパットしない味でした。これは炭火七輪焼きとは勝負にならないのか、或いは料理は大したことないのか判断出来ない状態でした。
この温泉旅館も山の上の一軒宿風で家族経営でありまして、ここの烏賊の塩辛なども、塩以外に何も入れていない、保存が利かない商業商品とは云えないもので、あえて持ち帰りをお願いしましたところ、丁寧に保冷箱を用意して頂くなど心温まる対応に感謝であります。こんな、手間のかかる事をやっている旅館だからこそ、生き延びることが出来る時代と言うことでありましょう。
ゆっくり時間を取って昼食を済ませ、川名ホテルを右手に見つつ今夜の宿の湯河原温泉に向かいます。湯河原温泉は嘗ての高度成長期は熱海と並んで社用族で賑わった温泉街でありますが、今はみる影も有りません。そんな中で、超高級割烹旅館と運営方針の確りした特徴のある旅館が健全であります。今回訪れた旅館は、その超高級割烹旅館でありませんで、極めてリーズナブルな価格帯の旅館でありました。やはり一晩の客は数組しか取らないと言うか取れないのでしょう。ほとんどの客がリピーターと思われる人達です。そして、温泉設備とサービスは言う事有りませんで、やはりここの売りは料理です。
昨晩とまった旅館の鮎料理ほどの感激は有りませんでしたが、1泊2万数千円でしかも湯河原温泉地の中心と言うブランドです。これだけの料理を出せると言うのは、優れたパフォーマンスと言えるでしょう。何しろ横浜からは近いです。一寸気軽に行ける事を思うと私もリピーターになってしまいそうです。
5.神奈川フィル定期演奏会
今月の定期演奏会第273回は、6月11日(金)PM7:00開演のみなとみらいホールにて行われ行って来ました。今回の定期演奏会は久し振りに現田茂夫の指揮でした。現田茂夫は前常任指揮者であり、在任13年間にこの神奈川フィルを一流のレベルまで引き上げた功績を持ち、現在では名誉指揮者となっております。そんな事で我々神奈川フィル応援団としては特別な感傷を持つ定期公演でありました。
当日の演奏曲目は、前半が団伊久磨/交響曲第一番とラフマニノフ/パガニーニ/主題による狂詩曲、後半がチャイコフスキー/交響曲第五番でした。ラフマニノフでは外山啓介がピアノを弾きましたが、「若いのに良くやるな」との印象であり、客席からも盛大な喝采を受けていました。この様なとき、外国人アーチストは自分をアッピールする良い機会ととらえてアンコールに応じるのですが、彼は何が理由か判りませんがアンコールには応ぜず、折角のチャンスを逸したとの思いであります。重い曲の後だし、折角の喝采ですから軽くショパンのアンコールバージョンでも弾いてほしかった。多くの観客も望んでいました。
さて、チャイコフスキーです。現田さんはロシアものに対する思いを格別にお持ちのように感じています。この曲は、音楽愛好者にとっては若い時から、なじみの方が多いと思います。ムラビンスキーの指揮によるレニングラード交響楽団の演奏に強烈な印象を持つ音楽ファンは少なくないと思います。私もその一人ですが、当時のその強烈な印象は今で脳裏に染み付いています。しかし、近年オーケストラの演奏技術が進化し、演奏技法も各オーケストラとも同じ方向を向いてきている現代で比較してみると、当時のものがそれほど優れていたとは思えないから不思議です。今回の現田さん指揮の神奈川フィルの演奏も同様で、身近にこれほど素晴らしい演奏が聴けると言う事など、考え及ばなかったとの思いでありました。
6.太陽光パネルの稼動
6月の梅雨の最中に我が家の太陽光パネルが稼動しました。このシステムには、稼動情況がリアルタイムにて表示されるモニターが付いています。見ていると節電の意識が湧いてくるから面白いですよ。今どれだけ発電し、家中でどれだけ消費しているか、どれだけ余った電力を売電もしくは買電しているかが表示され、電力消費の無駄が何で有るかが気になって家中無駄な電気を探し歩くから、これはもう節電の意識改革にはもってこいのツールであります。
しかし、残念なことに、停電するとこのシステムは殆ど役に立たなくなると言う大変面白くない代物でもあります。この点を解決するには、売電する前に蓄電を可能にしないと満足なものに成らないようです。そんな簡単なことが何故出来ていないのか。色々考えてみると、どうもお上の規制があるようです。これだけ、節電に協力と言いながら太陽光のような決して安くない設備を入れているのに、使用者にとっても電力会社にとってもベストと言えないこの規制は何とかならないものなのか。そして、自分の敷地内に別棟が在っても住まいの屋根上で無いと補助金の対象に成らないと言うような訳のわからない縛りもあります。民主党の政治主導と言うのは何だったのでしょう。