会長のコラム 019
雪の中の音楽堂
八ヶ岳高原ロッジに付帯する音楽堂は、ロッジが企画するコンサートによって特別な存在感を誇示している。 今年、1月15日と16日に行なわれた千住万理子リサイタルは、その企画の良さもあって、彼女の追っかけファンでなくとも、大いなる魅力を感じさせるものであった。
何分、ここは雪に閉ざされた交通の難所、ホテルのシャトルが迎えに来ると言っても野辺山駅までである、この小海線の野辺山駅は夏の名所清里の先で、中央線小淵沢駅からおよそ30分の距離であるが、JRの海抜最高地点駅を持つことでも有名な難所続きの鉄道である。この雪の時期、何時不通になっても文句が言えない交通事情である。この事からも、このコンサート企画が特異なものである事が理解できよう。
この音楽堂は、聞き手の目線の範囲が全てガラスと言う豪華さで、外の雪景色とガラスに映る千住真理子の姿が言いようの無い美しさを醸し出し、ストラデバリウスの音色と合いまって豪華なひと時を創っていた。
しかも、300名程度しか入場できない大きさからくる、音響効果の良さは他に例を見ないものである。私は、昨年も二胡の生音を聞きたくてここを訪れたのであるが、今回はストラディバリウスの生音を聞きたくて危険を冒して来てしまった。
1月15日の天気予報は荒れ模様との予報で、少し早めに家を出たが雪は降り続き、やっとの思いでホテルに着いたものである。その後、雪は夜通し降り続きコンサートの雰囲気を煽る事になる。 音響と言い、雰囲気と言い、言う事なしのコンサートに加え、此処のメインバーがまた素晴らしい、大きな薪ストーブに接したバーでのスコッチロックはこたえようが無い。
会場で新しい録音のCDが、サイン会付きで販売されていたので早速購入したのであるが、東芝もついにCCCDを止めたようで、このCDの音はなかなかのものであった。
翌朝は昨夜の反動で、駐車場は新雪に覆われ、どれが自分のものか見分けが付かない状態となっていた。「ああ俺はスキーに来たのではない、雪かきの出来る服装でも無い」と、昨夜のお伽の世界の代替に呆然自失の状態になってしまった。
このホテルは、コンサートに人を呼んでおいて、何を考えているんだろう。前回来た時も良い思いは残らなかったように記憶が蘇った。とにかく、走れるように雪かきをし、国道141号線を経由して中央高速に出たときは、地獄から這い上がった気分で、どっとつかれが出てひたすら仮眠を貪ったものである。天国と地獄を同時に味合うのも、そうは出来るものでは無いと、自分に言い聞かせている。