会長のコラム 128
最近のオーディオ業界の話しです、一時のUSB-DACによるデジタルオーディオ熱もスッカリ冷めた感があります。当社は、このブームが始まる初期に高級USB-DACを発売し高い評価を得たのですが、あっ!と言う間に10万円台から数万円台へと市場価格がシフトダウンし、市場の様子はまるで生鮮食料品のビジネスモデルの様になってしまいました。
その結果は、誰も良い思いをしないうちに、ブームは過ぎ去りユーザーが取り残された結果になってしまいました。それでも、当社の場合はS/PDIF用のDACとして、高い音質評価を得ていたので、ブームの時程では有りませんが、高級DACとして現役で存在しており、有り難いことと思っています。
しかし、このUSB-DACは場所を取らないしPCと共有と言うことで、将来、体の自由が利かなくなった時は、音楽ファンにとって有り難い存在になると信じています。安物をはやらせ生鮮食料品もどきビジネスモデルに追いやった企業経営者の方々、高齢化社会で役立つビジネスとおもうのですが、この様な用途にも真剣に目を向けてもらいたいと思います。
みじめな状況に追いやられたUSB-DACの状況ですが、他方で、ハイレゾ音源をブルーレイディスクに入れたパッケージメディアが目に着くようになっています。有名なショルティー指揮によるワグナーの指輪のデッカ版が、本家デッカによるマスタリングで発売されました。
この利便性は、優れものです。なにしろ、4夜に渡って公演する超長編オペラであり、全曲を収録したLP22枚に及ぶ大曲が僅か1枚のディスクに納まっているのです。しかも、そのフォーマットは24Bit48kHzのハイ・レゾリューションです。
そしてその音は、オリジナルのLPには及ばないものの、色々発売されているフォーマットの中でこれが、ベストと言っても良いでしょう。マニアを彷彿とさせるその音質はこれまた至福のものであります。しかし、残念ながらこのパッケージの再生となるとフォーマットの実力を発揮するハードが限られてしまうのが実情です。
高価なものが良いと言うわけでは有りませんが、パナソニックのBZT-9300 実売価格30万円と言うのが今のところ最良です。しかし、考えて見るとSACDプレーヤーなどでは1000万円以上と言うのがありますから、決して高く無いのですが、LDレコーダーと言うカテゴリーからすると、決して安く有りません。
私のお勧めは、手前味噌になりますが、当社のDAC HD7-192のS/PDIF端子にこのBZT-9300を接続すると単独使用のときより更に優れたパフォーマンスを発揮します。これはもう、ノイズで苦労する1000万円のSACDプレーヤーの必要は無いと断言できるものであります。
いまの業界の状況は、何時か来た道のアナログに回帰する傾向です。この現象は我々の望む処ですが、これまた安物、うさん臭い宣伝文句を謳う商品がちらちらと言う事で、先のデジタルオーディオの二の前の匂いが漂っています。本物を見分けるお客様の目(耳)、もう過去の轍は踏まないと信じております。
このアナログ回帰の現象は、当社の事業立ち上げ初期の「志」であるアナログオーディオそのものであり、世間が、業界が、それがどうあれ、当社のマインドであります。
フォノカートリッジもお陰様で、バックオーダーを抱える状況で、即納出来ずにお客様に多大のご迷惑をお掛けしている状況を一刻も早く改善するよう努力しております。一方技術開発の面では、コンピューターシュミレーション技術の進歩のお陰で、更に良い「音」を目指した開発へと技術者達は目を輝かしています。
加えて、素晴らしい日本製ターンテーブルが開発発売されました。価格が650万円もするのですが、我々としては良くぞやってくれたとの思いが先立ち、早速カートリッジの評価のために購入しました。これがまた凄い機械でして、フォノカートリッジの良いもの、悪いもの、曖昧なものをしっかり表現してくれるので、我々の商品開発業務に益々弾みが付くと言うものです。
6月の音楽ライフ
新国立劇場の来シーズンプログラムのチケットが発売中です。私は、既に初日公演の全てのチケットを購入しました。来シーズンもこのコラムに登場しますので宜しくお目通しの事お願い致します。そして今月の音楽ライフであります。
1.新国立劇場モーツアルト・オペラ/コジファントッテ
2.高輪会オペラ プッチーニ・オペラ//蝶々夫人
3.新国立劇場 香月 修 オペラ/夜叉が池
1.新国立劇場モーツアルト・オペラ/コジファントッテ
6月3日月曜午後6.30開演で行ってきました。このオペラは決して長いものではないのですが、開演が午後6.30で幕間30分の休憩を挟んで終演が9.45でした、本来なら、ホテルに泊まるところでしたが、翌日は朝から来客予定があって、車をとばして横浜に帰ってきました。新国立劇場の駐車料金は800円を超えることは無く便利です。
このオペラは、モーツアルトの傑作のひとつで、公演機会の多い作品であります。当日の公演は、演出が際立って素晴らしく、私がいままで観たもののなかでは一番印象に残ったものでした。舞台背景は、現代と言っていいでしょう、キャンプ場を舞台としていました。
オペラ進行に無駄が無く、舞台背景との違和感が全く無いのです。演出の力なのかも知れませんが、私はモーツアルトの作品力を改めて感じました。
今更何を言うかと思われるかも知れませんが、改めて、モーツアルトは天才だと思うに至るのです。全編に渡って緊張と面白さが交互に訪れ、アット言う間の終演でした。
当日のオーケストラは、東京フィルハーモニー、コンサートマスターが荒井英治、指揮がイブ・アベルでした。
この指揮者は、メトロポリタンを初め世界の大所オペラ劇場に出演しているベテランであり、新国立劇場には2度目であります。
このオペラは、プリマドンナ・オペラではなく、性格の違う3人の女性歌手と3人の男性歌手が夫々重要な柄を演じるものです。女性歌手の1人、デスピーナ役に天羽明恵が出演しており、男性歌手全てと2人の女性歌手は外国人で、いずれも、世界で活躍する名歌手揃いのなかで、ひときわ小柄な天羽は気押されること無く声量歌唱力ともに頑張っていました。
2.高輪会オペラ プッチーニ・オペラ//蝶々夫人
6月22日土曜、午後12より、場所はいつものグランドプリンスホテル内のレストラン、イル・レオーネにて、プッチーニ オペラ/蝶々夫人に行ってきました。
出演者は、蝶々夫人が澤畑恵美、ピンカートンが水船圭太郎、シャープレスが勝部太でした。
ソプラノの澤畑さんは説明の必要は無いでしょう、バリトンの勝部さんは東京芸大の先生であり、この高輪会には常連の方です。そして、水船さんは大変お若い方で声量の豊かなテノール歌手でして、修行中ではありますが中々の聴き応えがあり、将来を嘱望されている方です。そして、伴奏が御馴染み藤原藍子さんでした。
70回と言うことで、関係者の力の入れようが、何時も以上のものと感じつつ充実した土曜の午後のひと時を過すことができました。
3.新国立劇場 香月 修 オペラ/夜叉が池
6月29日土曜 午後2時開演で行ってきました。オペラのマチネ公演で、年をとるとこのマチネコンサートは色々都合が良いです。
このオペラは、泉鏡花の戯曲を香月修がオペラ化したもので、新国立劇場からの作曲依頼によって出来たものですが、作曲者は以前よりこの戯曲に興味をもって、スケッチなどの製作に掛かっていたとの事です。
泉鏡花の戯曲「夜叉ヶ池」の物語は、岐阜県と福井県の県境に神秘的な雰囲気の「夜叉ヶ池」と言う池があり、そこに伝わり伝承されている物語を基本にした戯曲で、オペラ向きのストーリーであります。
私は、不勉強で日本の作曲や日本文学には極めて弱く、本作品も名前だけ知っている程度で、始めは観劇に行くのも気が引けていました。しかし、このオペラは中々のものであります。音楽も素晴らしく現代音楽的な不協和音の乱発も無く、馴染み易い綺麗なメロディーの連続であり、悲劇のストーリーを緊張させつつ進行していく、素晴らしいものであり、はじめの気分を一掃するものでした。
出演は、全て日本人で日本語の上演でした。そして全の役どころがダブルキャストで、当日の公演は、百合が幸田浩子、白雪が腰越満美、晃が西村悟、学円が宮本益光、でした。
公演が中劇場と言うこともあって、声の通りは申し分なし、オーケストラは東京フィル、指揮が十束尚弘で全てが日本製でありまして、国立劇場もやる事を確りやっているとの感を改めて認識しました。
国産オペラではありますが、趣味的に私のようにイタリアに傾注した者にとっても充分楽しめる舞台に仕上っており、関係者には敬服ししなければなりません。また、日本語の字幕もこれまた有効な手段でありました。