会長のコラム 177
6月21日は、夏至であり1年の真ん中ですね、これから暑い夏を迎えると思うと、その時が年の真ん中の様な感じになるから人間の感覚は厄介なものです。私も80歳となり世が世であれば、姥捨て山、今では粗大ごみと言われるのは承知しており、せめて邪魔にならずに、他人の為になる存在であり続けるよう心しています。
私7月には懸案の心房細動の手術をする事にしました。担当医は、手術のリスクを並べたて、やれともやるなとも言いません。要は自己責任と言うことなのでしょう、私が手術をお願いしますと言ったところ、「うん、お歳を考えると今が最後のチャンス」と明快なお返事に安堵した次第で、皆さまとも、もう少しお付き合いを願っています。
最初に、オーディオの話にお付き合い下さい。以前からチャンネル・アンプシステムに取り組み、このコラムにも連載しておりましたが、ミッドレンジのWE-22Aホーンの音遅れ問題に遭遇し、デジタルによる解決以外に策が思いつかず気が失せていました。
ミッドレンジのWE-22Aを諦め、エールの500Hz fcのショートホーンに変えて時間差問題を位置調整で試みたところ、結果は上々で、WE-22Aホーンへの拘りを止めてチャンネル・デバイダーの商品化を急ぐことにしました。
それと言うのも、私が以前から疑問を感じていたスピーカーのネットワークにオームの法則が成立しない状況に我慢出来ない、これを打破し物理現象に忠実でありたいとの思いから、チャンネル・アンプシステムの完成に向けて、我がオーディオ人生を賭けるべく、完成を急ぐことにしました。
最近のスピーカー・システムには新技術が投入され、素材の進化なども有って素晴らしい商品が目白押しでありますが、ネットワーク設計時のオームの法則無視と言う事実は変わっていません。このことは、スタジオモニターがチャンネル・アンプシステムであることが常識であるという事実からも理解されます。進化した現代のスピーカーにチャンネル・アンプ方式を用いれば、それ以上の結果が得られる事は確認しています。しかも、オーディオ・マニアの方が最終的に行き着く着地点がチャンネル・アンプシステムであることは昔から言われています。しかるに、肝心のチャンネル・デバイダーに良いものが無いのが実態であります。その理由は、音楽を聴かない回路技術者が理論に走り、物理特性を追い求めて帰還技術を使ったオペアンプを使いチャンネル間の位相を無視するからです。最近ではデジタル技術によって位相も時間差もすべて解決出来るようになりました。しかし、音楽を再生するツールたるオーディオ機器にデジタルはAD/DA を繰り返すことから、現時点では極めて相性が悪く私は嫌いです、今のところは、理論が先行し音楽表現を無視することから起こる問題です。
我々の解決策は、位相対応策には6db/octパッシブフィルターの使用、チャンネル間レベル差の調整には我々の特許技術によるハイブリッドATTの使用、増幅回路としてのアクティブ素子は使用しない、寄って電源も使用しない、筐体の制振設計の徹底追及などのオーディオ機器に求められる技術要素を徹底的に採用していることにあります。
再生音に求める「質」の要素は、第一にステレオ感であります。LR2チャンネルのスピーカーから演奏者の舞台を見通すことが出来れば、自ずと音質は解決です、それをもってわれわれは高音質ステレオと言います。究極のオーディオ装置が、チャンネル・アンプシステムと言われますが、ステージの見通しと言う現象を実現している、チャンネル・アンプ装置は、スタジオ機器以外では少ないのが現状です。我々の目指す究極のチャンネル・デバイダーの完成にオーディオ機器の一歩前進をご期待ください。
6月1日新国立劇場にて16:00開演でワーグナー/オペラ「ジークフリート」に行って来ました。ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」四部作の3番目(第3夜)に当たる「ジークフリート」の公演で、新国立劇場の音楽監督に飯守泰次郎が就任以来、毎シーズン毎に一作が公演されています。今回は、四部作の第三作で6回の公演が予定されております、1演目で6回の公演と言うのは新国立劇場の出し物としては最も多い公演回数と言えましょう。当日の指揮が、飯守泰次郎、オーケストラが東京交響楽団でした。前回第一、二作の「ラインの黄金」と「ワルキューレ」までは、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で続いてきたのですが、今回の第三作「ジークフリート」は東京交響楽団に変わっていました。
これは、国立劇場と言う立場上均等にチャンスを、と言うことか、今回のシリーズはあと一作残して、来シーズンで終わるのですから、馴染んで来た東京フィルに演奏して貰いたかったとの思いが募ります。ワーグナーの楽劇/ニーベルングは、バイロイト音楽祭でも4夜に渡って演奏され、その4夜を1チクルスといって、シーズン中に6回程の公演が行われます。第3夜(第三作)に当たる「ジークフリート」は、バイロイトに於いても一晩かけて演奏されます。今回の新国立劇場での公演は、3幕で構成され一幕あたり約1.5時間で幕間に45分の休憩が用意されており、PM4:00開演で第一幕が85分、休憩45分、第二幕80分、休憩45分、第三幕85分、終演が21:45です。PM4:00の開演から9:45迄の約6時間の拘束となります。
新国立劇場は、空調が整備された近代劇場ですが、バイロイト祝祭劇場に空調は有りません、しかも開演のシーズンはもう少し後の7月から8月にかけてですから、その尋常ならざる鑑賞環境をご想像下さい、劇場の外には救急隊が控えています。私も今の歳となれば行くのはもう御免であります。それでも、新国立劇場の観劇も決して楽ではありませんが、今の体力が続くなら毎回鑑賞に行きたいと思います。
この「ニーベルング」と言うワーグナーの楽劇は、良くぞ作ってくれたとの思いが募ります。昔、作家の五味康祐は、毎年行われるバイロイト音楽祭の実況FM放送を38-2Tr テープにアーカイブしていたといいます。現在ならハイビジョンのブルーレイディスクとなるでしょうが、当時としては想像を絶する費用が掛った筈です。それでも、現地に行くとなるとほとんど不可能な時代でしたから、その好きさ加減が半端ではないことが想像されます。私がオーディオ機器でお手伝いしていた植村 攻さん(大手都市銀行の海外支店長で、ご逝去されています)と言う方は民宿に泊まって聞きに行かれたと言う話をされていました。今では辺鄙なバイロイトにも近代ホテルがあり、バイロイト詣でも楽になりましたが、それほどまでに入れ込むファンが居たと言うことで、私などまだまだ修行が足りません。
6月17日(土) 神奈川フィル定期演奏会みなとみらいシリーズに14:00開演で行ってきました。指揮がカーチュン・ウォン、ピアノが松田華音、コンサートマスターが﨑谷直人、演奏曲目がラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番と交響曲第2番でした。
ピアノ演奏の松田は、2002年に6歳でモスクワに渡りモスクワの名門校を主席で卒業、多くの国際コンクールで一位を受賞している人です。指揮者のカーチュンは、シンガポール生まれマーラー国際指揮者コンクールで優勝し世界の名門オーケストラを指揮しており、ニュールンベルグ響主席指揮者に就任と言う人で、当日は若手新進の競演でした。
2曲のラフマニノフ作品は、言うことなしの名曲であります。最初のステージが、ピアノ協奏曲2番で何の説明もいらないポピュラーな名曲です。この曲は、出だしから難しい鍵盤タッチが有名であります、とにかくベテランピアニストでも「ド」から「ド」に届く1オクターブ以上の手の平を必要とし、しかも強打が必要と言います。私も入門時に夢中になった曲で最初に買ったLPがこの曲でした。交響曲2番はラフマニノフの3曲の内で最も演奏機会の多い曲であり、私も他の2曲は積極的には聞きません。と言うことで大変充実したコンサートでした。
いよいよ、明日からは、パレルモ・マッシモのオペラ公演が2日続きます、もう少し公演日程がバラケルとハッピーなのですが、仕方ありません。それでも幸せと言うことでありましょう。
6月18日(日)、19日(月) の両日イタリアのパレルモ・マッシモ劇場の引っ越し公演が東京文化会館で行われ行って来ました。両日ともに開演が15:00のマチネ公演だったので、鑑賞に集中出来ました。
演目は、18日がヴェルディ/椿姫、19日がプッチーニ/トスカで、椿姫にはソプラノのデジレ・ランカトーレ、レオ・ヌッチ、と現代イタリアの人間国宝的歌手の出演であり、トスカにはアンジェラ・ゲオルギューと言うこれまた現代最高のソプラノ歌手の出演でありました。
パレルモは、イタリアの最南端シチリア島の州都であり皇帝フリードリッヒ二世の生まれ育った、そして最後の皇帝として統治した地であります。劇場の生い立ちや、神殿のような造りの劇場は、オペラファンの憧れであり、私も何度か見学に訪れていますが、オペラを観劇する機会はありませんでした。10年程前にもこの劇場の引っ越し公演がありましたが、行けずじまいとなり、今回はどうしても行ってみたかった訳です。
日本のオペラ公演でこれだけの役者がそろう事は滅多に無いことです。ソプラノのデジレ・ランカトーレは、地元パレルモ生まれ、ザルツブルグ音楽祭に18歳でデビューと言う天才であり、その後ミラノスカラ座の改修こけら落し公演でムーティーに抜擢されブレイクした人です。そのデジレ・ランカトーレが椿姫のタイトロールを務める一方で、レオ・ヌッチのジェルモン役での出演、これはなにものにも代えがたいものでありました。このひとは、ヴェルディのオペラ/リゴレットだけでも1000回以上出演したと言われ、大の日本贔屓で、イタリアの人間国宝とまで言われている人です。75歳とは思えない声量とバリトンの艶、しかもその演技力にも定評のある人です。今回の公演では、何はともあれ、この人の声を聴いただけでも私は100%満足と言うものでありました。
もう一つの演目が、プッチーニ/オペラ「トスカ」です。タイトロールのトスカ役に当代最高にして最も魅力的なオペラ歌手アンジェラ・ゲオルギューであり、その相手役のカヴァラドッシ役にマルチェロ・ジョルダーニです。このマルチェロと言うひとは、ベッリーニ、ロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニを得意とする地元シチリア島の生まれで、まさしく「ザ・イタリアオペラ」の代表の様なテノール歌手であります。オペラは総合芸術などと気取った御託も結構ですが、これぞイタリアと言うこの楽しさが何よりであり、私が求めてやまないもの、身体が言う事を聞かなくなったら、DVDとビデオアーカイブを観続ける楽しみがあります。長生きしたい、この希望を改めて感じた2つのオペラ公演でした。