会長のコラム 201
5月のコラムです。
4月27日土曜から10連休となり、初体験の功罪は? そして皆様、如何お過ごしでしたか。我々世代は、混雑するこの時期の外出は避けたい気が先行します。外出もせずに有意義な時間消化で過ごしました。
私、月1回の定例会をもつ読書会に参加しており、この仲間に、出版業を営む現役バリバリの音楽好きの方が居られ、常々拙宅のシアター装置で、オペラを一作品通しで鑑賞したいと言う日頃のご希望をこの連休に成し遂げました。
この方は、大変な音楽好きの方で、オペラの全曲CDや抜粋CDを沢山お持ちですが、オペラの映像は見ていないのです。お仕事上の都合で、書斎で聞きながらと言うのが日頃の習慣のようです。と言うことで、映像によるオペラ鑑賞に拙宅にお招きしました。
選んだソフトは、リクルート社創業者の江副さんが、自費で制作したオペラ公演のDVD
でして、新国立劇場で公演したオペラ/椿姫です。イタリアのソプラノ歌手マリエッタ・デヴィーアを招き、東京フィルハーモニー管弦楽団の演奏で創った、ライブ録画版DVD を選びました。
本DVD の詳細は後で記すことにしますが、鑑賞後の感激ぶりは尋常を逸しての喜び様で、私もこのDVD を一気に全曲通して観劇するは初めて。と言うのは、このDVDの制作は日本製で、制作技術が明らかなことから、PCM-ステレオ、デジタル・シアター、5.1CHシアター、等の音響条件を比較試聴するのに好都合で、レファレンスに使用しているからで、恥ずかしながらこのソフトの素晴らしさに、今更であり、改めて江副さんが良いものを残して呉れたその功績を称えたものでした。
私が、このコラムを書き始めて201回を経過しますが、オペラ映像再生の記事を書くのは今回が初めてです。この機会を捉え、私事のオーディオに対するマインド、話題の新商品CM-2000に至る考え方等をご理解頂く機会と捉え、ここで改めて、機器の紹介やオーディオ環境のお話しをさせて頂く事にします。
オーディオをビジネスとしていなかった時期のことですが、スピーカー遍歴を、このコラムでご紹介したことが有りました。部屋の状況なども、オーディオ雑誌で紹介させて頂いていますが、話の都合上、少しばかり触れさせて貰います。
このシアタールームは、30年程前に純日本式の大工さんにお願いして建築したもので、18畳の広さの洋式ルームです。当時の浅知恵を絞ってそれらしき部屋に仕立てたものですが、今思うに初心者が陥る典型的な失敗作でありました。
大きな失敗点は、日本建築の大工さんによる2階フロアーに設置したことです。そこに、120吋のスクリーン、マッキントッシュのXRT-20型 スピーカー、真空管211の40Wシングル アンプ、JVCのプロジェクターなどがセットされていますが、時代と共に5.1CH のシアター機材の増設やプロジェクターの上位機種への移行等も試みています。しかし、オーディオ事業に本腰を入れることになってからは、先ずは2CHステレオを極めてからとの思いから、5.1CHは愚か、音質改善等の作業への投資はして来ませんでした。
と言うことで、評論家先生や業界関係者には、「見せない、聞かせない」ことにして居りました。しかし、先の音楽好きの仲間のように、オペラの良い所取りの「つまみ食い」は、勿体ないとの思いに我慢しきれない、オペラ鑑賞の楽しさを体験して貰いたい、と余計な悪い癖が疼き、この連休に実現したという事情が有ったのです。
さて、このソフトです。少し古いものですが、リクルート創業者の江副さんが私費を投じ、新国立劇場にマリエッタ・デヴィーアを呼び、ブルーノ・カンパネッラの指揮による東京フィルハーモニーの演奏による一流の舞台を創り上げたものです。
下記にソフト内容を記しておきます。
ヴィオレッタ : マリエッタ・デヴィーア
アルフレード : ジュゼッペ・フィリアノーティ
ジェルモン : レナート・ブルゾン
フローラ : ニディア・パラシオス
以下のキャストは、樋口達哉、泉 良平、などすべて日本人、合唱が藤原歌劇団合唱部、公演監督が五十嵐喜芳、と言う構成で、製作・著作がラヴォーチェ、でありました。
先月のコラム200にて、4K TV 受像用のチューナー付き録画機に付いて書きました。この録画機には、アナログ出力端子が付いていなかったことに付いて、補足が有り述べさせて頂きます。
本録画機の音声は、受像機に付帯するスピーカーで聞くには問題ないのですが、我々ハイエンド・オーディオを求める者には、受像機に付帯するスピーカーでは満足出来ません。本機にアナログ端子が付帯し無いことは、私が軽率であったと言うこと。アナログ回路は、おまけ的発想で付帯するものでは無いということ。これは、高級機のCD プレイヤーが、トランスポートとDAC が別筐体として分かれていることを考えると当たり前の事です。
当社もフェーズテック・デジタルのブランドを展開している当時、IC -DAC を用いて商品を発売していました。それでは、我々の出番がアナログ回路で勝負するしか術は無く、まるで、生鮮食料品のビジネスモデルの様相で、嫌気がさし撤退したことがありました。
しかし、最近はどうでしょう、DAC をデイスクリート回路で組み込む、或いは既成ICに手を入れて独自性を出す、などの傾向が出ていて、映像機器のオーディオ出力端子は、デジタル出力端子までで、それ以後の構成はユーザーの範疇でと言うことが当たり前であること、この傾向は、我々ハイエンド・オーディオ機器に携わる者にとって、グレードアップへの余白は大きな喜びを感じるのであります。
今月の音楽ライフです。
5月11日土曜 音楽評論家の加藤浩子さんが同行する、バッハ・ツアーに参加した人達の同窓会なるものが、今年も青山学院アイビールームで開催され、行ってきました。
今年は、ゲストに鍵盤奏者であり、指揮者でもある鈴木優人さんが参加され、ピアノを弾きつつバッハのゴールドベルグ変奏曲の解説をレクチャーされました。私、鈴木優人さんとは、ミュージック・ペンクラブ・ジャパンの50周年記念パーティーでお会いして、再度の出会いでありました。当日の愚妻を入れての写真を添付します。
当日は、神奈川フィルの今シーズン定期演奏会の初日であり、パーティーが予定されていましたが、スケジュールのバッティングは痛かったですが、神奈川フィル理事の大坪健雄さんも加藤浩子さんのパーティーにお見えになっており、言葉を交わすことが出来て大いにハッピーなひと時でした。
左から愚妻と私、鈴木優人さん、加藤浩子さん | 弾き語りレクチャーの鈴木優人さん |
5月17日新国立劇場に18:30開演で、モーツァルト/オペラ「ドン・ジョヴァンニ」に行ってきました。指揮がカーステン・ヤヌシュケ、オーケストラが東京フィルハーモニー。この人は、ヨーロッパの一流劇場で副指揮者として修業し、2011年からフランクフルト歌劇場のカベル・マイスターに就任し、最近ではヨーロッパの主なオペラ劇場に客演指揮者として活躍、新国立劇場初出演なるものの、東京フィルとの演奏は見事でありました。
当日のキャストです、ドン・ジョヴァンニがニコラ・ウリヴィエーリ、騎士長が妻屋秀和、レポレッロがジョヴァンニ・フルラネット、ドンナ・アンナがマリゴーナ・ケルケジ、ドン・オッターヴィオがファン・フランシスコ・ガテル、そして以下のキャストは全て日本人でした。
このキャスト構成は、極めてバランスの取れた恰好のもので、海外で活躍する芸術監督の大野和士の器量で有り、情報量によるものと思います。
このオペラは、モーツアルトの代表作でありますが、ストーリーの進行上で、品の悪さを表す部分も有って、演出によってはそれが強調されたりもしますが、当日の演出は見事でありまして、音楽の素晴らしさに引き込まれつつ、自然にストーリーが消化出来る素晴らしい出来でした。音楽監督が代わると公演の質が変わり、演目選びの方向性、そしてキャスト選びのポリシーも変わってくるので、我々会員としては嬉しい限りです。
今、私が定期公演に会員登録して、欠かさず観劇するのは、新国立劇場のオペラ公演と神奈川フィルハーモニーの定期公演の2つですが、いずれの公演も演目選びをせずに、全て行く事にしています。と言うのも自分の浅知恵で選んでいると、視野が狭くなり、やがては音楽の本質を見失う恐れを感じるのです。何と言ってもプロが選ぶ公演目は、我々の知る範疇は言うに及ばず、けた違いであることは当然と言うものであります。
このオペラ/ドン・ジョヴァンニも初心当時と今では、感じ取る内容が大きく変わり、オペラの楽しさ、モーツァルトの凄さ、等に、電子工学の技術屋ごとき私にも、神髄らしきものが理解出来てくる気がするのです。余命、限られた人生でありますが、得られたものをオーディオ機器の開発に反映したいと考えると、老いの人生も満更ではない、音楽表現に貢献、等と考えると猶更にと思うのであります。