会長のコラム 158
オーディオ機器の中でスピーカー程悩ましいデバイスはないでしょう、大きくて重い、しかも最も高価です。その悩ましいスピーカーに付いて、私の遍歴をお話しつつこの事に触れたいと思います。何か自慢話の様で気が引けつつも、話の行き掛り上と言うことで、皆様に何かのご参考になればと思い、敢えてお話します。
私が、本格的なスピーカーを購入したのは、最初がアルテックA-7、次がタンノイ・オートグラフ、次が現在も使用しているマッキントッシュのXRT-22と続き、それぞれ、10年単位で変わっています。これらの大型スピーカーは、変わる度に部屋も変わっています。今考えると、自分でもオーディオの「音」の正体が解かっていなかったから随分無駄な遠回りをしたと思います。それと言うのも、このコラムでもたびたび言っていることで、良い音とは何かと言う基本を理解していなかった。繰り返しになりますが、「生音楽の再生」などは神を冒涜するもので、人間技ごときに出来るものでは無いと言う事、出来る事は「如何に生らしく再生するか」と言うことであり、「らしさ」は音楽を聞く人によって、何がその人の琴線に触れるかと言う事、つまりは、聞く人の音楽に対する理解度であり、ひいては、人生の哲学に迄及ぶと言う事なのです。これが、私のスピーカー遍歴から判った結論なのです。だから、その遍歴もマッキンのXRT-22 で止まってしまい、しかも満足して止まっているのではありません。面倒だから手を付けないだけです。
今では、スピーカーの泣き処、スピーカーの持って生まれた宿命などに思いが至り、チャンネル・アンプ方式以外に無いと結論付けるに至っています。
これからの話しの進行で、「スピーカー」と言った場合は、ダイナミック型に限っている事を前提とします事ご理解下さい。スピーカー・ユニットは、周波数によってインピーダンスが変わります。そして、そのインピーダンスは周波数のみならず、消費する電力に依っても変わります。再生帯域ごとにユニットを設けるマルチスピーカーでは、帯域毎のユニットに周波数を分ける為のネットワークが必要です。このネットワークの定数は、ユニットのインピーダンスに依って設定されますが、悪い事に、そのインピーダンスが定まらないと言うところに問題があります。スピーカー・メーカーの技術者は、カット&トライを繰り返し妥協点を定めますが、理論にそぐわない世界で有る事は歴然であります。だから、スタジオ・モニター・スピーカーではネットワークを使用せずにチャンネル・アンプ方式が主流となっています。しかも、使用するメイン・アンプは全てと言って良い程にデジタル・アンプを使用します。それは、価格と容積以外にデジタル・アンプを使用する理由は有りません。言い方を変えれば、それ以上にネットワークは、使いたくないと言う事に他ならないのです。お分かり頂けましたでしょうか、プロの世界たるレコード製作の現場ではネットワーク・スピーカーは嫌われるのです。
と言うことで、私もチャンネル・アンプ・システムにチャレンジして、悪戦苦闘の末に、どうやら最終結論に至ったと考えています。過去、多くのマニアの方々が何故苦労したか、それは、良いチャンネル・デバイダーが無かったからです。スタジオ・モニター・スピーカーの様にスピーカーとアンプが固定されれば、調整箇所は固定され何の問題も無いのですが、汎用器となると帯域周波数、帯域毎のレベル、位相関係と調整箇所が多く、加えて、帯域分割に使用するフィルターに計測機器に使用するオペアンプ・フィルターを使用することで音質を悪くしていました。私は、これを排し6dB/octの抵抗1本とコンデンサー1本から構成される単純なフィルターを使用する事で、位相の問題も同時に解決しました。しかし、単純であればそれに伴う問題が伴い、性能上重要なポイントとなります。
周波数帯域分割の回路素子は抵抗とコンデンサー1本づつです。その常数設定には供給側のインピーダンス「ゼロ」、出力側の受けインピーダンス、「無限大」と言うこの世に無い条件が必要です。この近似値を可能にする為に、当社の特許であるハイブリッドATTの使用が成功の「ミソ」なのです。詳しくは長くなるので割愛しますが、誠文堂新光社の編集部のご理解を頂き、MJ誌 '15.12月号に私のシステムが紹介されました。私のここに至る遍歴と理論的根拠を詳しく述べさせて頂きましたので、是非記事にお目通し頂き、参考にして頂きたいと願っています。但し、出版社は、スポンサー企業との関係もあって記事内容に制限がつき、デジタル方式への苦労話など「それは止めてくれ」との要請があり、私個人としても特定の方々に傷を負わせる事は趣旨で無いので、記載を避けた箇所が有ったりで、些か消化不良の点を本コラムにて少しづつ加筆したいと思います。
11月は、新国立劇場のオペラ「トスカ」と神奈川フィルの定期演奏会の2つのコンサートに行きました。
11月17日火曜 18時30分開演でプッチーニ/オペラ「トスカ」に行ってきました。
指揮が、エイヴィン・グルベルグ・イェンセン、オーケストラが東京フィルハーモニー、でした。指揮者のエイヴィン・グルベルグは、北ドイツ放送フィルハーモニーの首席指揮者で、ベルリン・フィル、パリ管弦楽団などヨーロッパを中心に活躍する人で、オペラはイタリアでも実績の多いひとです。当新国立劇場の音楽監督の飯森さんとは、指揮者としてのレベルは大違いの人です。
主役のトスカ役のソプラノ、マリア・ホセ・シーリ、カヴァラドッシ役のテノール、ホルヘ・デ・レオンは、日本人でもこの程度の歌手はいると言う程度でしたが、演奏と舞台の出来は最高、プッチーニの傑作、いやオペラ界の傑作を堪能しました。
このトスカと言うオペラは、オペラ中のオペラ、まさしく「ザ・オペラ」でありまして、私がオペラに目覚めた当時NHKの招聘によるイタリア・オペラに夢中になり、当時学校を卒業し社会に出て間もない時期でしたが、無理して行った記憶があります。このオペラは素晴らしい音楽とストーリーがぴったりであり、そのストーリーも良く有りがちな、つじつま合わせ的な部分も無く、極めて理解しやすいものですから、これぞ「ザ・オペラ」と言って人に薦めています。この手で、オペラファンに引きずり入れた友達もいます。
是非、お試しあれ、であります。
11月27日金曜 神奈川フィル定期演奏会に横浜みなとみらいホールにて19.00時開演で行ってきました。当日の演奏は、首席客演指揮者のサッシャ・ゲッツェル、ピアノがドイツ・ピアノ界の重鎮ゲルハルト・オピッツでした。ようこそ、ヨコハマにおいで下さいましたと言う感覚です。
演奏曲目が、ブラームス/ピアノ協奏曲2番 でした。私が、音楽を聞き始めた当時、ケンプのピアノレコードを四六時中聞いていた(実はケンプしか無かった)、その香りが漂う懐かしさを感じるものでした、過去日本での演奏会でも絶賛を博しています。当日は、多くの聴衆がアンコールを期待し、拍手に精を出しましたが有りませんでした。
そして、後ステージがコルンゴルド/シンフォニエッタでした。この人は、モーツアルト以来の天才と言われ、特にR.シュトラウスが自分の後継とばかりに支援した事は有名な話です。私、初めて聴く曲でしたが、R.シュトラウス以上にローマン派的な音楽で素敵なメロディーの連続でした、15歳の時の作曲と言いますから、その若さ故かも知れませんが、米国への亡命が無ければ映画音楽の世界に入っていなかったかも知れません。とすると、現代のクラシック音楽への影響も大きかったのではないでしょうか。
ゲッツェルさん、定期演奏会には珍しくアンコールで、ウインナ・ワルツを演奏してくれました、みなとみらいホールに大太鼓が良く響き、観客は大喜び、楽友協会ホールよりも良い響きではないか、いや、思いがけない幸運のせいかも。