Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 194

10月のコラムです。
年末恒例のオーディオ各誌による表彰制度が始まる季節であります。今年中に発売される新商品から、優れた商品を表彰する行事で、ここにエントリーする当社の新商品の発表を兼ねて、プレゼンテーションに忙殺される月でした。
早速、そのエントリー商品に付いてお話します。今年は2機種あって、内の1つがプリアンプを置き換える実力を持つ、コントローラー CM-2000 、もう1つがフォノイコライザー・アンプのEA-350 です。
始めに、コントローラー CM-2000 からご紹介しましょう。本器は、過去に発売されたコントローラーのCM-3、CM-1000、の上位機種です。因みに、型名のCM は、コントロール・マイスター を意味するものです。今般発売のCM-2000 は、旧作のCM-3、CM-1000と同じパッシブATT構造によるもので、平衡型入出力端子を備える事により、本来の意味するマイスターの性能を実現したものです。本器は、オーディオ機器として長い過去歴を持つコントロールアンプ(プリアンプとも云う)に対し、それに置き換わる性能を持つ、メインアンプの前置機器たるコントローラーに進化しました。従来の増幅回路を備えたコントロールアンプ(プリアンプ) では成し得なかった分解能と高鮮度を実現し、画期的商品として発売するに至りました。
考えてみると、このプリアンプなる従来機器は、10数dB のゲインを持つ増幅器を備え、内蔵のATTで絞った分を増幅器で補う機器でした。このことは、抵抗分割式ATTの高インピーダンスのものをメインアンプに低インピーダンス化して送り出すための機能が主だと言うことです。言ってみれば、余計なものと言うことです。これによる音楽信号のひずみは、その大小に関わらず「音」に影響します。
くどいようですが、主要機能である音量調節器たるATTは、音楽信号の電力(電圧×電流)を絞ることにより、スープの味を減量した鍋のようなもので、お湯(増幅器)で増量している様なものなのです。結果として、音量を絞ることで「音」が痩せる現象はこのことに尽きるのです。
吾々の提案するハイブリット・ATTは、電圧を絞り電力は絞りません。このATTを通過した信号は電圧が落ちた分だけ電流が増え、出力電力(電圧×電流)には影響なく、結果として音は痩せません。つまり、美味しいスープは薄まらないのです。
音量を絞る事による痩せた「音」を増幅器で補うと言う理屈を付ける人がいます。これ、とんでもない間違いと思いませんか。
こんな単純なことが、過去には何故実現しなかったか、それは極めて単純なことで、送電工学におけるトランスが、電力の送電に欠かせないデバイスである事と同じなのです。
トランスは、DCを通さないと言う理屈もオーディオ界に罷り通っています。DCは音に成りませんから何の問題は無い筈です。音にならないDCを奏でる楽器って有るでしょうか、楽器の奏でる最低音はパイプオルガンの16Hzと言われています。音にならないDCを通さないトランスは駄目と言う理屈は通用しません。
オーディオの技術分野では、トランスの原理原則を突き詰めていなかったと言うことに尽きるのであり、信号系のトランスも送電工学の変換と同じ利点を持ちます。トランス臭い音とか、DCを通さないとか、と言うトラウマに駆られてオーディオの独自ノーハウに手付かずであったと言えましょう。
ここで云う「ハイブリッド・ATT」は、当社の特許技術であり前作の商品である CM-3、 CM-1000 に搭載され、当時の技術資料にて説明しているので、ここでは省略させて頂きますが、前作の商品では平衡型が未完であったこと、今般この特許を基に技術開発に成功したその成果による商品化なのです。

次に、フォノイコライザー・アンプ EA-350 に付いてです。本器は、既成のEA-300 とEA-500 の間を埋める商品であります。EA-300 には、MC型カートリッジのバランス伝送対応入力端子は有りませんでしたが、本器には T-2000 のノーハウを盛ったステップ・アップ・トランスを搭載し、その入力端子を備えました。これで、性能と価格の面で両器の間を埋める商品となり、EA-500 の弟に位置付けされます。しかし、ここに搭載されたステップ・アップ・トランスは、T-2000のノーハウを受け継いでいるので、上位器に肉薄する音質を備えていますから、何れ時期を見て同じノーハウのトランスをEA-500にも搭載し(仮名EA-500Ⅱ) バージョンアップを考えなければなりません。因みに、このEA-500 は半導体アンプであり、上位のEA-1000 が真空管アンプとなります。
吾々は、半導体アンプよりも真空管アンプが優れていると考えるのですが、我々には半導体アンプを真空管アンプ以上に昇華させるアイディアを現時点で持ち合わせていません。
海外商品の半導体アンプには500万円と言う商品もあります。吾々の商品 EA-1000 は、私が常々主張する「らしさの表現」と言う観点から、感性と哲学の違いはあるにせよ、決して、負けているとは思いません。是非、試聴機などにてその実力をお試しいただきたいと願っています。

今月の音楽ライフです。
9月の29、30 日に、黒沼ユリ子さんのコンサートが、御宿のメキシコの家にて開催され、家内を伴って車で行ってきました。この日は事前に台風24号の襲来が予測されており、心配しつつ出かけました。29日の終演後は帰るかどうか、さすがに迷いましたが、やはり30日の朝は既にJR外房線が不通になっており、30日午後のコンサートは予定通り開催されましたが、残念ながらキャンセルし帰って来ました。
初日9月29日の演奏曲目は、ドボルジャーク/弦楽四重奏「アメリカ」とシベリュース/「我が生涯」の2曲でした。聴衆50人程度サロン風の会場での四重奏は、贅沢そのもの 黒沼さんの盟友である名手達の演奏は、しばしの間小宇宙の空間を体験する思いでありました。そして、この曲に纏わる黒沼さんのチェコでの体験と思い出などが、語られ大いに楽しませてもらいました。
今月の日本経済新聞のコラム「私の履歴書」にバイオリニストの前橋 汀子さんが書いておられました。黒沼さんとは同門の桐朋学園で4歳後輩にあたる前橋さんです。そして黒沼さんはチェコ/プラハでの修行、前橋さんはロシア/サンクトペテルブルグでの修行とのことです。この時代の東欧とロシアですから、我々の知る状況からも並みのご苦労ではなかったものをお二人は体験し、耐えてこられた方々です。前橋さんは、日経新聞にその状況を書かれています。黒沼さんは、書を上梓されていますが、後年メキシコで音楽教育に貢献する糧を会得して、平成皇后さまの篤いご信頼を得るに至っています。
この黒沼さんのメキシコの家には、微力ではありますが私の経営するフェーズメーションとして、音響設備と保守のお手伝いをさせて頂いています。御宿と言う土地は、メキシコ船籍の船が座礁し乗員を助けたと言う過去歴があり、友好都市の関係にあります。黒沼さんのご主人がメキシコ人であったとは言え、御宿への気の入れようは立派であります。
ここ御宿は、外房に突き出し千葉県の最南端で気候温暖、昔からの漁師町であることから、海産物が豊富で美味しいのです。黒沼さんのコンサートに是非お越し下さいと言いたいのですがいつも満席状態です。コンサートに関わらなくとも、メキシコの家と美味しい海産物を味わいに御宿への旅をお勧めします。昔ながらの作り酒屋が有り、これが絶品である事も付け加えておきます。
本記事の記載が1ケ月遅れましたが、台風の事情もお察し頂きご高覧のこと宜しくお願い致します。

10月3日水曜 16:30開演で、モーツァルト/歌劇「魔笛」に新国立劇場に行ってきました。今シーズン最初の公演であり、その初日公演でした。そして、今シーズンより音楽監督に就任された大野和士の最初の公演でもありました。本公演は、6回の公演が予定され新国立劇場としては最多の部類でしょう、流石にモーツァルトの作品と言うことと思います。
内容ですが、全体的に出演者が地味であり夜の女王を演じた安井陽子さんもこれと云った欠点は無い優等生的な歌唱で、全体的にもその流れに沿った演奏でした、これはどうやら、指揮者の性格、方針とも思えるのです。
指揮者のローラント・ベーアは、最近ヨーロッパで頭角を現している人との事ですが、大人しいと言うかパンチの無いモーツアルトに感じ、舞台も映像背景を多用していたあたりは現代的なのかも知れませんが、一概にはそうとも言えない側面も有って、素人の私には違和感の残る舞台でした。これは、新音楽監督の大野和士の意図なのか、初日だから大野が指揮台に立つと思っていましたが姿がありませんでした。初回公演ぐらい振っても良いのではないか誰しも期待した筈です。
当日のキャストです。ザラストロがサヴァ・ヴェミッチ、タミーノがスティーヴ・ダヴィスリム、パパゲーノがアンドレ・シュエン、そして夜の女王が安井陽子、パミーナが林正子、オーケストラは東京フィルハーモニーでした。

10月13日土曜 14:00開演で神奈川フィル定期演奏会にみなとみらいホールに行ってきました。演奏曲目は、前ステージが権代敦彦作曲の子守歌で横須賀芸術劇場少年少女合唱団の演奏にフルオーケストラのバックと言う何とも微笑ましい光景に目を見張ったのですが、子守歌と言うだけあって、眠くなるおまけ付、作曲者は「有限の生命、有限の音楽」「死と永遠、無限」との関係をカトリック信仰に基つく創作と言っています。これも公営コンサートならではの成果とすれば、意味は解らないものの、この試みは賞賛であります。
後ステージは、マーラー/交響曲第4番 55分の演奏時間の大曲であり、マーラー節の代表作品であります。
生き生きとした喜びに溢れる曲であり、そこには現世の苦悩を感じさせる何かが纏わりつく、このあたりは、前ステージの続きと言うか、指揮者の選曲戦略のようなものを感じますが、そこはメロディー・メーカーのマーラーに聴きほれて、眠る暇など全くない状況で、関連などの難しい理屈は如何でも良いと思うので有ります。

10月14日日曜 14:00開演で小川紀美代バンドネオンコンサートに港南区民文化センターに行ってきました。
小川紀美代さんの使用する楽器バンドネオンが、故アニパル・トロイロの使用していた、アルゼンチンの国宝と言われるものを借り受けての公演でした。
アニパル・トロイロは、アルゼンチン・タンゴの近代演奏の開拓者で、彼の楽団の初期には、かのアストル・ピアソラがバンドネオンの一翼を担っていたこともあって、アルゼンチン・タンゴ演奏の貢献者といわれるバンドネオン奏者であります。彼の愛用していたバンドネオンを借り受けての小川紀美代さんの演奏会は流石と言うもので、この様なコンサートにはクラシック音楽のファンの方も是非参加して貰いたいものと思います。
何と言ってもピアソラの先輩であり、タンゴ界きっての支援者であり、ピアソラが尊敬していた人なのです。
クラシック・ファンの方々にもアルゼンチン・タンゴなどと言わずに、まず聴いてみる事をお勧めします。手始めに、アストル・ピアソラ作曲の「アディオス・ノニーノ」など如何でしょう。彼の亡き父親を思っての曲であります。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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