会長のコラム 225
5月のコラム 225号です
新型コロナ発症件数が止まりません、何が如何して ? 些か行政サイドも困惑気味、しかもオリンピックが控えている。世情に逆らうようですが、昨年のこの時期に延期でなく中止を宣言しておけば、今の苦しみも無かったと思うのです。オリンピック関係者は、本気で開催できると思って居るのだろうか。不審に思うのは私だけではないようで、有力選手からも出場辞退の発言が出ていたり、感染予防対策にも自治体からの苦情も有ったりで、行政サイドも一枚岩とは言えないようです。開催キャンセルは、IOC から罰金も有るとか。
私は、予防注射の先行権があり、仕事柄から早い時期の接種を希望し、インターネットと携帯のリピートモードを併用して予約獲得に成功しました。大勢の人が、同時にこの手をやるからNTT 回線がパンクするとの事で、横浜市の場合も初日は早々にパンクし、途中で受付受信中止となりましたが、翌々日の再開で接続に成功しました。
今月は、コロナ禍で音楽ライフが少なかった。その分オーディオ・ファンの方々に是非とも知って貰いたい、トランス式パッシブATTの技術の話をさせて貰います。本件は、コラム072号に記載済ですが、より広く皆様に知って頂くことでオーディオがより楽しいものになる事、請け負うことお約束致します。決して難しい内容にならないよう努めますので、お付き合いのこと宜しくお願い致します。
何故トランス式パッシブATT が良いのか、「トランス式はダメなもの」と悪者説が過去から有り、マニアの方々にトラウマとして引き継がれている実態があります。その間違った常識を正し、オーディオの面白さ、音楽鑑賞の面白さに更なる深さを知って貰いたいとの思いから、シンプル・イズ・ベストを実践するポリシーの下で、トランス式ATTのCM シリーズを世に出し続け、その集大成がCM-2000でした。
何故、トランスに悪者の過去歴であるのか、ここから、お話します。発電所から家庭に電力を送る場合、家庭で使用する電圧は100ボルト(以後Vで表示)です。電力はワット(以後Wで表示)です。その電力は電圧Vと電流(以後Iで表示)の積で成り立ち、W=V×I で表され、電力W、電圧V、電流Iの3要素で遠距離送電の基本理論が成立します。我々のオーディオ信号系の伝送も同じ理論で成り立っていることを先ずご理解下さい。
発電所から町中へ送電する場合、その送電ロスを下げる為に、高電圧で長距離を送電し、消費地の街中で100Vに下げて、家庭に配電します。その「上げ下げ」の操作にはトランスの介在が必須です。
オームの法則から、電圧「V」を下げるのは V=I×Rの式から、抵抗器Rの値を可変する事が理解出来、一般のオーディオ機器では音を絞る手段として、この「R」を可変して電圧Vを可変します。と言うことは、電圧を下げたときは電力Wが熱として消費されるので、電力送電時にこの手段はご法度、トランスを使用して電圧Vを下げます。すると先の式W=V×Iから、Wのロス無しに最終ユーザーの家庭に配電されます。
さて、我々のオーディオでは如何しているか。抵抗器によるポテンショ式音量調節器(ATTと言う) を使用します。すると、電気信号化された音信号のWは、W=V×Iの式から変質することが読み取れます。ここ迄ご理解頂けましたでしょうか。だから、音を絞るとその後のメインアンプで増幅しても音が痩せるのです。電力W が変質すると言うことは、オーディオ機器にとって、有ってはならない重要事項である事をご理解下さい。
では何故オーディオ界ではトランス悪者説が流布され、良いと言われるトランスの実用化が一般化しないのか。この事実は、技術に携わる者の常識として既知の事実でありますが、トランスに関わる電気磁気学の理論と実用面での乖離が大きいからです。理論と技術の乖離は、本件に特化した問題では無く、学問が先行して技術が後を追う、理論の実用化における、社会の理と言うものです。
我が社は、嘗ての本業であった磁気記録の事業実績から、電気磁気学が身近に有ったと言う事情があります。そして、近年の磁気材料の進化と相まって、結果に結びついた貴重な実績であります。
トランスには、漏洩磁束と外部誘導ノイズの対策に背反する解決策が求められます。これが中々の厄介問題で、電気磁気学をマスターした技術者の音楽再生に向けた、限りなき情熱を以て事に当たった結果の成果なのです。そこには、磁気記録技術の社歴を持つ当社の技術陣、そして音楽を愛する社風から生まれたものである事、当然ながら特許に保護された技術である事をここに敢えて主張させて頂く次第です。
未だに「悪者説」のトラウマに駆られた方々からは、聴かずして、その悪者説の独り歩きを信じる、残念な実態が有ります。その頑固な世情の存在をも合わせて、今月のコラム225号として述べさせて頂きました。ここに、トランス式パッシブATTの試聴体験をお勧めし、音楽の益々の楽しみを享受して頂く事を願う次第です。
今月の音楽ライフです。
5月22日に八ヶ岳音楽堂にて鈴木優人のチェンバロ演奏会が予定され、いち早く2ケ月前に予約を入れていました。その間に天敵のコロナは、解決する筈と思い早速に予約したのですが、コロナの雲行きは悪くなる一方で、緊急事態宣言の再発動等が加わって益々気が滅入り、結局キャンセルと言う結果になり、残念で堪らない心境に至っています。
この時点で、新国立劇場のオペラ/ドン・カルロは、開催に向け色々な葛藤は有ったようですが、無事開催され5/26 PM2:00開演で行ってきました。このチケットは、1年前にシーズン纏め買いしたものです。大掛かりなオペラ公演は、外国人キャストの問題も有り、開催準備には関係者のご苦労が知れると言うもの、今月はこの公演1件のみで終わってしまいました。
ヴェルディの代表作、オペラ/ドン・カルロ は、オペラの中の代表作でもあり、私如きが多くを語る必要の無い作品であります。しかし、コロナ禍の最中から得られる、異次元の感動と、受ける癒しは、何物にも代えがたい重みで、書かない訳には行きませんでした。
オペラの内容は事実に則っているものの、オペラに都合の良いように脚色されたストーリーであります。そのオペラ化したストーリーでは、ドン・カルロの父親フィリッポ二世が、息子ドン・カルロの許嫁を横取りして自分の妻にした、今流に考えると常識外れの惨い話が主題です。史実ではカルロにも悪い行為があるようですが、それはさて置くとし、ヴェルディのオペラにはイル・トロヴァトーレやリゴレットも、現代ではあり得ない惨い題材ですが、この惨い話に即した、音楽がヴェルディのメロディーに乗って、凄惨、悲しみ、愛、そして希望を3時間に渡って紡ぐのです。
最終場面では、ドン・カルロを歌うテノールの ジュゼッペ・ジパリと許嫁であった王紀エリザベッタを歌うソプラノの小林厚子のデュエットで幕となる場面、このアリアが後々まで耳に残り、余韻を残す素晴らしいオペラです。
主役のフィリッポ二世が妻屋秀和、ドン・カルロがジュゼッペ・ジパリ、エリザベッタが小林厚子、その小林厚子がひと際素晴らしかった。ジュゼッペ・ジパリは、出番が多いだけに最後のアリアでは疲れを感じた様子だったが、才能ある素晴らしい歌手と察した。新国立劇場初登場 コロナ禍の中での公演、本当にご苦労様でした。
そして、指揮者のパオロ・カリニャーニに率いられた東京フィルハーモニー交響楽団の演奏が冴えわたり、印象に残る公演に拍手であります。
当日の演奏とキャスト
指揮 | パオロ・カリニャーニ |
オーケストラ | 東京フィルハーモニー交響楽団 |
フィリッポ二世 | 妻屋秀和 お馴染み二期会会員のバス歌手、現代日本の名歌手です |
ドン・カルロ | ジュゼッペ・ジパリ アルバニア出身03年にドミンゴ・コンクール第2位獲得、以来国際的に活躍する テノール歌手 |
ロドリーゴ | 髙田智宏 海外を拠点に活躍 新国立劇場では紫苑物語で圧巻の歌唱を示す バリトン歌手 |
エリザベッタ | 小林厚子 文化庁派遣によりイタリアで活躍するソプラノ歌手 藤原歌劇団 日本人離れした体格に声量もあり素晴らしいソプラノ歌手と見た。東京芸大卒後藤原歌劇団 新国立歌劇場には02年以来2度目の出演 |