会長のコラム 187
3月のコラム187です。以前に、本コラムに書いていたチャンネル・デバイダーはどうした? との問い合わせを度々受けるので、至極当たり前のご質問にハッとしているところ、実は悪銭苦闘の最中で書くことを忘れていたのが実態であります。
実のところ、商品化が大変難しいことが解って来ているのです。既にご紹介したように拙宅のシステムは、納得の行く状態に完成していますが、商品化に至る戦略が纏まらない状況に至っています。
ハイエンド・オーディオ機器としてのチャンネル・デバイダーの商品化を狙っていますが、この商品の市場状況、過去歴を振り返ってみると、まずアナログ時代のチャンデバは、オペアンプの台頭と共に、フィルターの形を理論的に整えることに専念したものが市場を占有しました。このオペアンプを用いる手法では、納得する音を望めませんで、ファンの方々は苦労する結果となりました。その後、デジタル技術によって位相問題も含めた理論上の理想特性が可能になり、アナログ式チャンデバは影をひそめました。
しかし、如何でしょう、マルチ・アンプ方式の音は納得出来る状態には至っていません。原因は、信号系でAD/DAを繰り返すのが主な理由ですが、他にも理由が有って、未だに納得のいく機器が無いと言うことで、ファンは悩み続けています。(苦労するのもファンの楽しみかも知れませんが) 私もライフ・ワークと位置付けて楽しみ半分と言う状況で始めたわけです。
さて、我々が商品化に向けて悩む事に付いてです。考えてみるとこの現象は、至極当たり前のことに気が付くのであります。「オーディオ信号の系は、物理特性が良くても、良い音になるとは限らない」と言う昔から言われ続けられた格言のようなものが有るのに、技術に溺れて忘れてしまったと言うのが実態と言えましょう。この現象については、都合上(ビジネス優先の都合と考える)黙視していたのか、発展途上であったのか、マルチ・アンプ方式に疑問符をつける結果とも言えましょう。
私が常々主張している「シンプル・イズ・べスト」をチャンネル・デバイダーに反映したい、これが私の趣旨であり、求め続けて来たテーマです。それが実現してみると、今まで鮮度に影響していたマスキング要素が解ける、すると何が起こるか。
当たり前の事ですが、使用するユニットの自己主張がストレートに表れてくるのです。ウーファー、ミッド、ツイッター それぞれの自己主張です。自己主張の激しいのが名機と言われる所以であります。その自己主張が激しくぶつかり合い、我々の面前でバッティングし合うのです。
過去に、良いチャンデバが無いと言われ続けてきました。技術に溺れた回路に依って音楽信号がマスキングされ、その自己主張なるものが、薄められて程々に収まっていたのが過去の実態で、聞く者に何か割り切れない感じを与えていたと考えます。マルチ・アンプ方式にチャレンジするファンの方々の使用するユニットは名機揃いが普通です。ホーンロードの掛かった音には特別な魅力を感じるものです。私がライフ・ワークの積りで始めたこともそれが原点でありました。
原因が解り、問題が解明されてくると解決の方向が絞められ、可能性が見えてくるのが理と言うも、しかし、「音」に対する思い、主義主張、もっと言うなれば哲学が違うオーディオファン諸氏を対象に考えると、私の頭は混乱を極めるのです。しかし、拙宅のシステムで成功しています。かくあるべき、との自信が有ります。個人的な知り合いのファンの方にモニターをお願いし、ご意見を聞きつつ着々と商品化へ向けて完成の域に到達しつつあります。
チャンデバの商品化への近道として、既成のスピーカー・システムのマルチ・アンプ化を検討しています。我々の求めるシンプル・イズ・ベストをチャンネル・アンプ方式として、既成スピーカーに導入することが考えられます。
さて、我々の求めるチャンデバ、そこに求められるコアー技術は何か。我々の持つ特許権を拠り所とする、ハイブリッド・パッシブATT にあることを申し添えて、この場を留め置くことにします。
2月28日 新国立劇場にてオッフェンバック/オペラ「ホフマン物語」を18:30開演で行ってきました。30分休憩の2回を含めて、3時間40分の公演時間でした。開演が18:30と少し早めでしたが終演時間は22時予定で、カーテンコールを入れると22時を過ぎていました。イタリア人であれば、これから日付が変わるまで飲み続けるはずです。
演奏が東京フィルハーモニー、指揮がセバスティアン・ルラン、この人はヨーロッパで活躍しているひとで、ルッツェルン音楽祭等に招聘されており、新国立劇場初登場です。
作曲者のオッフェンバックは、100曲以上のオペレッタを書いた作曲家であり、社会風刺の内容が多く晩年は時代の変化が激しくなり社会風刺の扱いが難しく、オペラを書き始めたと言うことですが、そのオペラ「ホフマン物語」は、数少ないオペラ作品のひとつであり、しかも未完で終わっているために、大量の草稿が存在すると言われ、本公演では演出家のアルローが代表的な2版を組み合わせたと言うことです。
ストーリーは、ホフマンの3つの失恋歴を3つの物語としたもので、3つのストーリーから構成されます。音楽は、流石のメロディーメーカー、オッフェンバックであります、よく知られたメロディーが随所で聴くことが出来て楽しめるものです。
出演者が多いのですが、外国人が3人で残りはすべて日本人の歌手でした。オランピア役が安井陽子、アントニア役が砂川涼子、ジュリエッタ役が横山恵子、と3つのストーリーの主役を務めており、これだけの日本人キャストを同時に集めるのは新国立劇場だからこそと言えましょう。合唱他すべて日本人でした。
オッフェンバックのオペレッタは、軽薄なものとの印象もありますが、決してそのようなことは有りません。大分前の事ですが、メゾソプラノのテレサ・ベルガンサ、テノールのホセ・カレーラスと言う、願っても無い2人が共演している「ラ・ぺリコール」と言うオッフェンバックのレコードを何の知識もなしに歌手を目的に購入したものでしたが、これが中々のもので、ストーリー解説にも日本語一切なしのEMIの原板です。ストーリーは未だ理解出来ていないものの、音楽は素晴らしくオペラそのものの味がして、以来オッフェンバックに注目していました。
当日の終演は、予想通り22時を回っていました、以前ですと近くの京王プラザホテルを定宿として利用したのですが、最近ではホテルでの睡眠が浅く疲れるようになり、そのまま自宅に帰ることにしています。夜の道路は空いていて23時前には自宅到着、それから食事となります。
オペラ・パレスの隣のビルがオペラシティービルと言い、武満ホールと言うコンサートホールがあり、オフィスビルでもあります。ここに美味しいパン屋があり、バケットが飛び切り美味いので、開演前に購入し車の中に放り込んでおきます。帰宅しての食事は、ドイツ人みたいにチーズ、仕込んでおいたスープ、バケットと共に購入したローストビーフ、そして海外旅行の次いでに購入した銘柄ビンテージ・ワインです。オペラの余韻冷めやらず、明日の務めは気にしなくとも良い身分になったことで、これはホテル食より素晴らしい、癒しの時であります。人生ますます要領よく過ごすコツと心得るようになりました。
3月14日水曜 新国立劇場にてドニゼッティー/オペラ「愛の妙薬」を19:00開演で行ってきました。ドニゼッティーは、オペラ作曲家のベッリーニとは4歳年上の同時代の作曲家で、スタートはドニゼッティーの方が早かったのですが、作曲家として評価されるのはベッリーニの方が早く、お互いに意識し合うライバルであったようです。
オペラ「愛の妙薬」はオペラ・ブッファのカテゴリーと言う事になっていますが、立派なオペラと思います。ベッリーニがオペラ「夢遊病の女」で大成功した後、ドニゼッティーはこの「愛の妙薬」で成功し挽回したと言われます。イタリア・オペラ界の黄金時代の始まりともいえる古き佳き時代の作品であります。
当日のオーケストラが東京フィル、指揮がフレデリック・シャスラン、この人はウイーン国立劇場をはじめとしてヨーロッパで活躍していますが、メトロポリタンなどにも出演している今旬の指揮者で、新国立劇場には4度目の登場となります。主役アディーナ役がルクレツィア・ドレイ、この人は今イタリアで最も人気のあるソプラノ歌手と言われています。新国立劇場初登場であります。テノールのネモリーノ役がサイミール・ビルグで、この人もウイーン国立劇場をはじめヨーロッパの主要劇場の常連、新国立劇場には初登場であります。人気歌手を集めたあたりは、新国立劇場 開場20周年記念公演の面目にかけてのことと思います。
見慣れたオペラであり、東京フィルの手慣れたオペラ演奏に、旬の歌手揃いと、言う事なしの公演に演奏時間も25分の休憩時間を入れて2時間35分と言う夜の演奏時間には適当な長さで、帰りはルンルン気分、例によって帰宅してからのドイツ人流の夕食で充実の日でありました。
神奈川フィルハーモニーの定期演奏会は、4月から新シーズンとなり、3月の公演はお休みでありました。それでも3月は何かと気忙しく、恒例の高輪オペラの会、評論家の加藤浩子さんのバッハツアー同窓会、蓄音機で聞くアルゼンチン・タンゴの会、その他書きたいことが山積でしたが、長くなるので省略しますが、1件だけ書かせていただきます。
「ひらまつ」の株主優待で、箱根仙谷原「ひらまつホテル」の宿泊に行ったことが気になるので、書くことにします。先般、熱海の「ひらまつホテル」に行きましたが、いずれも同じコンセプトでホテルの構造もそっくりでした。ここも宿泊付き高級フランスレストランのコンセプトで、我々後期高齢者には飲み切れず、食べきれず、勿体ない思いが残るものでした。もう行くことはないでしょうが、ここ仙谷原にはポーラ美術館、ラリック美術館、ガラス工芸美術館と価値ある美術館が極めて近い距離に点在する場所で、一度は訪ねたい地域でしたから無駄ではありませんでした。印象深かったのがラリック美術館で、ここの展示品は、どれもが煤けて見え、写真とは大違いなのに少し期待外れ。フランス・デザインの先駆者で時代物ですから当たり前なのですが、これは写真を見て現物は見ないことが肝要などと品の無いことを口走ってしまい、家内は「大むくれ」これ事実だから仕方ないのであります。
次回のコラム188は、拙宅のチャンネル・アンプ・システムについて書かせて頂きます、ご期待ください。