Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 181

10月は、年末恒例のオーディオ各誌が行う、今年度発売のモデルから優秀機器を選定する行事があります。それに向けての我が社のエントリー商品は、MCフォノカートリッジ用ステップアップトランス T-2000 とメイン・アンプ MA-1500 の2機種です。今年も画期的な性能を以て臨んでおり、それぞれ入賞への手応えを感じています。
最初にステップアップトランスに付いてお話します。トランスの構造は、磁性体を介して一次/二次がカップリングされ、二次側に巻き線比に比例した電圧が出力されます。一次側磁束は、透磁率の高いコアーを経由して磁路が形成されます。ここで使用するコアー材が重要な働きを担います。当社では、当初よりEI型コアーを採用し、パーマロイ板材をラミネートして使います。この場合、薄いものほどオーディオ特性は良くなります。しかし、薄い材料の加工は難しく、以前はエッチング加工などで抜きましたが、今般抜き型制作に成功し、材料の広帯域化とコストダウンに繋がり、しかも従来品をはるかに超える高音質の商品化にこぎつけました。また、昇圧トランスは、微小信号が通過するので、制振構造に多大の影響を受けることから、この損失要素を徹底排除することにより、オーディオ信号の通過系の先頭であるトランスの性能を押さえる事により、システム全体の音質改善に大きく貢献する結果に至りました。新商品発表会場では、参加者より絶大な評価とご支援を頂いております。
次に、メイン・アンプ MA-1500 に付いてお話します。昨年インプット・トランス方式による300B パラシングルの MA-2000 を発売しました。発表当時は「これ、真空管アンプか?」と言われる程の評価で、JBL エベレストの低音駆動に余裕を持った制動力を実現しました。この性能を生かしつつダウンサイズを図り、売価を下げる事を考えたのが本機(MA-1500)であります。
我々は、常日ごろ「シンプル・イズ・ベスト」を標榜しています。パラシングルよりもシングル回路がよりシンプルであることから、制振構造や漏えい磁束問題の解決が容易となり、コストが下がる分を部品の高品質化に向けました。パラシングルに比べて、パワー減となりますが、その分高音質に移行し、初期の目標通り JBL エベレストの30畳程度のスペースへの設置では、駆動力、低域制動力を充分に発揮し、直熱3極管の良さをより高度に表し半導体アンプには求められない高音質再生を可能にしています。特に、シナヤカさ、生らしさの表現は、プレゼンテーション会場にて絶賛を博しておりました。
当社の次期商品計画にある、チャンネル・デバイダーの実用に際し、メイン・アンプのラインアップが揃うことになります。そのメイン・アンプ・シリーズは、全て3極管シングル若しくはパラシングルで、NON-NFB の回路で統一されます。その系譜を負ったアンプは、あらゆるタイプのスピーカー・ユニット(コーン型 コンプレッション型 リボン型 等々)に対応します。これぞ「ザ・フェイズ・メイション」のシステム構築の神髄であり、当初からの「思い」でありポリシーであります。

何故当社は、3極管NON-NFBに拘るのかを考察します。オーディオ・アンプの原点は、米国WE 社の映画館用トーキーアンプで、そこに使用された、300B/91型アンプが有名であります。当時、映画館のサービスエリアを広くする為にアンプのパワーアップが強く求められました。当時の技術レベルやパワーのインフラ状況では実現が容易でなく、音響効率を上げるべくホーンスピーカーなどが多用されていました。その環境の中で、音響パワーアップを目的に開発されたのが、ビーム管でWE-350や 後にKT-88 等に進化して行く管球が開発され、音質向上よりもパワーアップを目的としていました。
当時、WE社の商品は、高価で映画館需要が増すなか、需要に応えるべく登場したのが、JBL、 アルテック、マッキントッシュ 等でありました。マッキントッシュ・アンプは、見事にこの波に乗り、アンプの275などは未だに人気が持続されています。しかし、今となってはHi-Fi オーディオとは隔世の感があり、我々の求める「生らしさ」とは別物といわざるを得ず、アンティーク以上の価値は無いと言うのが私の考えです。つまり、映画館の経営合理化が目的であったと考えます。斯く言う私も275 や C-22 には特殊な愛着があり、大切に保持していますから、偉そうな事を言う資格は有りません(この275、C-22は昔と同じ品名で広告されていますが、本品に付いて私は聴いていません) と言うことで、直熱3極管は、最もシンプルな構造です。その良さを生かす、引き出す、だからシングル回路であり、NON-NFB なのです。
ここで一端、過去歴をリセットして、「良い音とは何か」を考え、音楽再生に向けたスタンスを構築し、再スタートするのがフェーズメーション・マインドであります。
結果として、アナログ・オーディオの音は益々進化し、新しい「音」の境地を開いたと自負しております。「アナログ・オーディオ」は、未だ極め尽くされていません。ハイ・リゾ音源も結構です、何と言っても便利さは抜群です。この点アナログは、勝てませんが生音楽を身近に体験したいのが、我々の求めるオーディオ機器であります。デジタル機器は刻々と進化していますが、アナログは忘れかけているところに問題があり、アナログを極めることがデジタルの「音」の進化に繋がると考えます。
ご存知でしょうか、当社が「フェーズ・テック」ブランドでデジタル・オーディオ機器に新風を吹き込んだことを。半導体技術は時々刻々と進化し続けています。1年ごとに新技術が搭載された商品開発競争には、我々中小企業はフォローしきれません。ディスクリート技術で商品化を考えるしかありませんが、今はアナログを極めることが先で有ります。
当社のデジタル技術は温存され、別の業界で活躍しています。再度宣言しますが、今我々が考えることは、アナログを極めることなのです。

今月の音楽ライフです。
10月1日日曜 新国立劇場14:00開演でワグナー/楽劇「神々の黄昏」初日公演に行ってきました。ワグナー/楽劇「ニーベルングの指輪」第3日神々の黄昏、これを以て4年続いたニーベルングの指輪4部作を終わることになります。本公演は、2回の休憩をはさんで5時間55分の公演であります。午後2時に開演し、終演が8時ですから2回の休憩はあるものの些か疲れを感じてしまいます。
当日の演奏は、初回から続いた飯守泰次郎の指揮による東京フィルハーモニーの演奏が、読売日本交響楽団に変わっていました。新国立劇場での「読響」演奏は、私初めてでありました。しかも「読響」のオペラ演奏と言うのも初めてであります。「読響」と言えば、日本に於ける実力派のN響、都響と並ぶ名門であります。しかし、オペラ演奏にはあまり熱心でない様な印象を持っていたので些か驚きました。そして、オーケストラピットからの音は如何に?と期待します。可なり大きな音量に吃驚、演奏は「聞かせるゾ」の意欲が先行し何処か荒っぽさを感じてしまいます。その為かどうか「神々の黄昏」に合っているのか凄い迫力でありました。何はともあれ、オペラは楽しい生演奏は素晴らしい、つくづく生きている有り難さを感じるもので有ります。海外では、病院のベッドに横になったままの状態で、オペラ劇場に入場する客の姿も見受けます。以前は訝しく感じましたが、これとて納得する昨今の心境であります。

10月11日水曜 19:00開演で 西村 悟 テノール・リサイタルに東京オペラシティーコンサートホールに行って来ました。このリサイタルは五島記念文化財団の文化賞受賞者に贈る目的で開催されたコンサートです。当日の演奏は、山田和樹指揮の日本フィルハーモニーによるもので、一流指揮者とオーケストラをバックとする若い新人歌手にとってこの上無い価値ある財団からのプレゼントと言うものでありましょう。
テノール歌手の 西村 悟 は、日本人離れした体格が功を奏し、テノール音域を怒鳴ることなく楽に発声していて、まれにみる日本人離れした才能の持ち主とみました。東京芸大大学院オペラ科修了後イタリアで研鑽し、イタリアで数々のコンクールに優勝しています。日本でのオーケストラをバックとしたリサイタルは、初めての様で聴衆の拍手に涙を流して喜んでいた、この初々しい姿には、擦れたオペラファンの私も何かホロッとするものを感じてしまいました。今後の活躍が大いに期待できる歌手であります。

10月14日土曜 神奈川フィル定期演奏会に午後2:00開演でみなとみらいホールに行ってきました。指揮は常任の川瀬賢太郎 コンサートマスターが 﨑谷 直人 で、演奏曲目が武満 徹 の系図、そして後ステージが R・シュトラウス の交響詩「英雄の生涯」でした。
R・シュトラウスの曲は、曲中にコンサートマスターのバイオリンソロが演奏され、オーケストラの編成が大きく聞きどころの多い曲です。何か、ワグナーの後期作品を思い起こすものを感じ、たまらなく好きな作曲家であります。土曜午後のゆとりの環境に極めてマッチしたものでした。
終演後は、予め行くことを予定した何時もの寿司屋で、昼食を抜いてコンサートに臨みましたから、この日は久しぶりの至福を味わいました。

10月15日 日曜 御宿の高級ケアー付きマンションのラピドールに付属するコンサートホールにて、黒沼ユリ子さんのピアノトリオの演奏会に行ってきました。演奏曲目は、ハイドン/ピアノトリオ 第25番、メンデルスゾーン/ピアノトリオ 第1番 でした。ピアノ演奏はかのラファエル・ゲーラ、チェロが宮澤 等 でした。宮澤 等さんは、現在、国立音楽大学の教授をされて居られます。この錚々たるメンバーによる演奏会が行われたこのホールは、ケアーマンションに付属するものですが、実に立派なホールで100人そこそこの収容にも関わらず、天井が高く立派なステージを構えた、本格的なコンサートホールでした。室内楽の演奏には打って付け、しかも100人程度の収容人員ですから贅沢この上もない、これ以上の環境は見当たらないと言うものでした。
奏者は黒沼さんのコンマス/バイオリン、気の合った実力者メンバーで、商業ベースを超えた仲間同士の気の競り合いでもあり、楽しみながらと言うコンサートでありまして、私如き、一介の企業人では経験出来ない貴重なコンサートでした。
翌日は、同じコンサートが行われるので、私達はこのマンションで一泊させて貰い黒沼さんと別れて横浜に帰ることとします。たまたま、私の入居するケアー付きマンションのレストランに勤務していたシェフとウエイターのご夫妻が、隣町の勝浦にレストランを開業したと言うので、寄って行くことにしました。
行ってみると、懐かしいご夫妻が喜んで迎えてくれました。沖縄料理専門のお店でお酒のサービスは準備中とのこと、開業したばかりで何かと不手際と言っていましたが、お2人とも有能な職員でしたから、これからが楽しみです。何と言っても黒沼さんのお住まいと隣町ですから、これから何かと便利になると期待したいものです。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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