会長のコラム 171
12月に入ると私のコンサートライフも静かになります。それと言うのも何処を向いてもベートーベンの第九だからです。この第九交響曲と言うのは、本当に素晴らしい曲だと思います。特に第三楽章の綺麗な癒し系のメロディー、その後に続く第四楽章でお馴染みの合唱で、この辺りは聴く者にとって至福の時を感じるのではないでしょうか。その第四楽章の前半に合唱が静かに消えて行くと大太鼓が地底の囁きの様に響く場面があります。この大太鼓の響きは、この交響曲に大変重要な要素と思います。コンサートホールの音響が悪いと大太鼓が小太鼓と成り下がり「コンコン」と言う音になってしまいます。年の暮には、第九を演奏しないオーケストラは無いのではないでしょうか、神奈川フィルも当然ながら演奏会を行いますので、行かない訳にはいきませんが、大太鼓の「コンコン」現象は何とかして欲しいのです。この場面で大太鼓が風を思わせる鳴りは、我々聴衆に刷り込まれていますから、たとえ「コンコン」であっても元の音を想像してしまう、この想像は頭の中で音を作り出してしまう現象と思うのです。だから難聴の人でも音楽を聴く時は、補聴器を外すひとが多いのもそのためかも知れません。それと関連すると思うのですが、演奏家にはオーディオ装置に無頓着な人が多いですね。それと言うのも音楽の連続性の中でその「音」を頭の中に創ってしまう同じ現象と思うのですが如何でしょう。
12月は誰しも忙しい月ですが、その最中に風邪を患ってしまいこのコラムを書くのに苦労しました。ここ何年間は、風邪を患わずに過ごしていました。対策として、なるべく電車に乗らない、乗っても空いている車両を選ぶかグリーン車を利用する、そして移動には専ら車で移動するのですが、その車にどうも風邪を患っている友人を載せたのが原因である事に後で気がつきました。我々の歳になると肺炎を患うことで命に関わると言われており、風邪だけは注意しなければなりません。
今月の音楽ライフは、神奈川フィルの定期演奏会とドイツ・カンマ―フィルハーモニーの公演でしたが、神奈川フィル定期のレポートは時間の都合で省略します。
12月5日東京オペラシティーホールにて、パーヴォ・ヤルヴィ指揮によるドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団のコンサートに19時開演で行ってきました。演奏曲目は、シューマン/オペラ「ゲノフェーファ」序曲、ベートーベン/ヴァイオリン協奏曲、シューマン/交響曲第3番でした。そして、ヴァイオリンが樫本大進、パーヴォ・ヤルヴィは、ドイツ・カンマーフィルの音楽監督でありこれ以上望めないコンサートでした。
樫本大進はベルリン・フィルのコンサートマスターであります。説明するまでもありませんが、1996年ロン=ティボー、クライスラー両国際音楽コンクールにて最年少の優勝を得て大きくブレイクしたことは有名であり、2010年よりベルリン・フィルの第一コンサートマスターを務めています。これだけの役者が揃ったコンサートは今年の5本の指に入るコンサートだったと言えましょう。
手垢が付きかけたベートーベンのV協も樫本に掛かると緊張感を伴う別物となってしまうから凄いです。一方シューマンの交響曲3番は、比較的聴く機会の少ない曲です。この曲「ライン」と命名されていますが、作曲した時がクララとともにラインを旅した時期でそのように言われており、拍子が安定しない不思議な感覚から川面をイメージするのかもしれませんが、この曲のイメージはそれだけではなくクララとの感情によるもののようです。そして、この第3番と言う曲は、実はシューマン最後の交響曲なのに、本来3番である筈の4番が後に修正されたので、3番となって落ち着いたと言うのが評論家の舟木篤也の解説であります。私は、普段レコードなどであまり聴かない曲ですが、このコンビによる演奏の為か意味深いものを感じ、改めてレコードを引っ張り出して聴いて居ます。