会長のコラム 078
1. 最近見つけたお勧めCD
2. オーディオの新しい潮流
3. 8月のコンサート
1. 最近見つけたお勧めCD
今月紹介するCDは、ブルックナー/交響曲7番 ハンス=マルティン・シュナイト指揮
ジャパンアカデミーフィルハーモニック(有限会社ミュージックスケイプ)です。
指揮者のシュナイトさんは、神奈川フィルハーモニーの音楽監督をされる傍ら、東京芸術大学の教授でもあられました、その関係で、学生のオーケストラを指導し指揮されておられましたが、このCDは、その内の一つであります。オーケストラのパート毎に、指導役のプロの奏者が入っていて全員が学生ではありません。
この熱い音を聴いて下さい。情熱の無いプロのオケや社会人アマチァオケが沢山ありますが、この演奏は、明らかにそれらと一線を隔しており、聴く人に感銘を与えること間違い有りません。しかも、録音が大変素晴らしく、聴くところによると、シュナイトさんの肝いりの技術者によるものとの事です。ここでの学生達のバイオリンは20万円台ぐらいのものが大半だそうで、信じられない様な素晴らしい音を創っています。若い人達への寄付のつもりでお買い頂いても結構だと思います。
2. オーディオの新しい潮流
CDフォーマットが世に出て以来、今では音楽のパッケージメディアとしての地位を確立し、LPレコードは完全に駆逐されてしまいましたが、一方でアナログの良さと言う事でLPレコードが見直されている事実は見逃せないのであります。それは、懐かしさも含めての事も有ると思いますが、カートリッジやアンプなどのアナログ技術の進歩に見るべきものがあるからであります。一方のCDフォーマットの方は、技術の古さから、デジタル技術の優位性が発揮出来ていない事が大きいのであります。
CDフォーマットに付いては、最新の技術を以ってより大きな器(ウツワ)として発展させるべきと、CDに変わる新しいフォーマットの動きが出て来そうなものですが、それには誰も手を上げない。それは、過去β対VHS、最近ではブルーレイディスクのように、或いはSACDの様に妾の連れ子扱いされ、寄って集って叩かれる、その上莫大な費用が掛かると言うのだから割に合わないのでしょう。
技術の古いCDフォーマットなのですが、元の音源つまり音楽の録音現場は、CDの16Bit/44.1kHzに対して、より高レベルの24Bit/96kHzで収録していると言う有難い実態があるわけです。つい最近まで実施されていた、NTTのデータ通信契約にパケット30と言う月額3000円のものが有りましたが、それはHPの表紙を取り込むと3000円はおしまいと言う時代遅れのデータ通信体系でありまして、この遅れた通信体系から考えると、PCMのデータ量は膨大なもので、天文学的数字に例えられてしまいそうですが、近年では、この高レベルのデータを我々民生レベルに持ち出すことが容易になりつつあります。これが実現すると音楽ファンにとって有難い時代になるはず。
さて、この新しい潮流ですが、この録音現場で使用しているフォーマットと言うのは、リニアPCMと言い、音楽情報をコンピューターのデータと同じように扱ったもので、音楽として聴くには難しい形になっています。もっとも、DVDフォーマットでは既に先取りして標準化していますが、これを最新の技術でローコスト化し音楽の再生をしようとするものであります。既に一部のメーカーから商品化されたものが出ていますが、コストの面でとても我々の手の出せるしろものではありませんが、近い将来必ず身近なものになる事請け合いであります。
そうなると、これに増した優れたパッケージ、或いはアーカイブの方式は今のところ思い付かないので、これ以後は技術の進化に伴うメディアの興廃は無いと思われます。そして、コンピューターが介在する事で色々な利用方法が考えられますから、我々音楽愛好家にとって理想の環境が構築されることになります。
コンピューターに馴染みの無い人たちは、音楽にコンピューターが介在すると、MP3とかiPodのような圧縮オーディオを連想しますが、コンピューターの得意とする複雑で大量のデータを処理する能力を考えると、圧縮オーディオの逆も可と考える事によって、高音質化への発展が容易に理解して頂けるでしょうし、また一方で録音現場ではデジタルオーディオの草創期からコンピュータが利用されていた事も理解して頂けるでしょう。
そして、やがては我々オーディオ業界で禄を食む者にとっても革命が起こるはずです。
3. 8月のコンサート
暑い盛りの8月はコンサート開催も低調であります。神奈川フィルの定期演奏会も休みでした。そんな中での音楽ライフですから、今月はブルーノート東京でのラムゼイ・ルイストリオのライブと信州松本でのサイトウキネンフェスティバルの公演の2つだけでありました。
始めに、ブルーノート東京に付いてお話ししましょう。私は、ブルーノート東京には特別な想い出があります。今から可也前の話ですが、アートブレイキーの公演をここブルーノート東京で鑑賞し、その余韻が冷めやらぬ間、記憶では1ヶ月後ぐらいだったと思いますが、亡くなられたとの報道を聞いて、何とも言われぬ感傷を味わい、その後行く気力がなくなっていました。今回、知人に誘われて本当に久し振りに訪れたわけですが、以前と違って立派になったと言うかブランド化したと言うか、その変わり様に驚いた次第です。
ここブルーノート東京は、NYのライブハウスブルーノートを模して作られ、当初の私の記憶ではジャズファンのための大人の雰囲気を醸す良い雰囲気を記憶していました。それが、今回訪れてみるとラスベガスのショーホールを模したように改造され、ジャズの殿堂と言う雰囲気よりも、「はとバス」の観光ルート向けの様な感じになってしまいました。
当日の公演が「ラムゼイ・ルイス トリオ」と言う大物である事もあるでしょうが、2回のステージで1回ごとに総入れ替えするところなど、そのシステムはラスベガスやディズニーランドのショーそのものと言う感じです。そして高価なテーブルチャージとこの不況の最中に関わらず、観客の数の多さも半端では有りません。銀座のライブハウスなど問題にならない盛況ぶりに吃驚でした。此処の観客達は、本当にラムゼイ・ルイスを理解しているのか疑問を感じざるを得ない雰囲気でもありました。
当日の演奏に付いては、申し分有りませんでしたが、PAの状態が悪くベース奏者には気の毒な感じでした。ドラムと同じパターンでリズムを刻むシーンでは、ベースドラムの音に弦をはじく音が被さって聞こえてこない(抜けて来ない)状態で、所謂、我々オーディオ技術者の言う分解能の悪い音、その見本のようなものでありました。
次に、信州松本で毎年この時期に開催される「サイトウキネンフェスティバル」に付いてです。最近では、チケットの売れ行きも一頃の様な全く手に入らないと言う状況ではなさそうで、結構ネットでも良い席を手に入れる事が出来るようです。
今年の公演は、オペラ公演が無く、それに変わる公演として、ブリテンの「戦争レクイエム」です。この作品は、イギリスのベンジャミン・ブリテンが聖マイケルズ大聖堂の献堂式用の音楽を委嘱されて作曲し、1961年に完成したものです。平和主義者のブリテンですから、委嘱作品を戦死者への追悼とともに、戦争の恐ろしさと空しさを訴えるものにしようと考えたものです。
全体の形式は、ラテン語のレクイエム典礼文と25歳で戦死した詩人のウイルフレッド・オーウェンの反戦詩との対話形式で、典礼文をオーケストラがそしてオーウェンの詩を各パート一人づつの室内オケと独唱で構成されています。会場は松本文化会館でオペラ会場ではありませんでした。そのためか、舞台は大規模な楽器編成とこれまた規模の大きい合唱団で構成され、舞台上は殆ど満杯状態でした。そこに、児童合唱団が客席の高い位置にて演奏します。指揮者の前面にチャンバーオケのメンバーとソリストが陣取っており、そこには、バイオリンの矢部達哉やフルートの工藤重典など御馴染みの奏者が並んでいます。
サイトウキネンオーケストラも桐朋学園関係者以外のいろいろな人が参画するようになって、私の知る他楽団の主席クラスの方を何人かお見受けしましたが、性格が変わりつつあるのでしょうか。
この曲は、私にとって初めて聴く曲でありましたが、1時間20分の休み無しの演奏に関わらず、緊張しどうしで素晴らしい演奏でした。レクイエムですから当然なのかも知れませんが、私の苦手な不協和音も無くロマン派の音楽に近い解り易い曲でありました。これを機会に出番の多い曲になるのでしょうか。その様な気がしています。