会長のコラム 203
7月のコラムです。
7月1日から4泊5日の予定で沖縄に行ってきました。私の知人で、現役引退後に沖縄三線にあこがれ、現地の女性と再婚して定住した方が居られ、この方のガイドで、家内と共に訪れ、強烈な刺激を受けて帰ってきました。
私の周囲に、沖縄ご出身の方は結構多く居られ、現地の事情は話に聞いていましたが、国内旅行の気軽な気持ちは、直ぐに吹っ飛びました。市内の看板文字、言葉使いなどは全く違和感が無いものの、現地の方々同志の話は全く分からない、食文化の違い、音楽、色使い、デザインなどの違いを強烈に感じ、強い刺激を受けました。沖縄の綺麗な海の印象は想像通りですが、それ以上に受ける刺激は、言葉に変えられません。「今頃、何を言ってる」、と言われそうですが、何分、初めての訪問でもあり、明治になっての日本への統合歴などを考えると、諸事、不思議でなりません。
さて、チャンネル・アンプ・システムの話をします。写真は、開発の先陣を切る拙宅の現状です。当初のWE-22Aホーン(コラム189掲載の写真) をはずしました。この22Aホーン・システムは、オーディオ研究家の池田 圭さん宅の15Aを聴いて以来、憧れていたことからです。しかし、「生らしさ」を求める、音場空間の表現には、時間軸の調整が欠かせないことから、22Aホーンを外しました。
ホーンの音源位置は、ウーファーと1.7mの遅延が生じるので、拙宅の試聴室が、13畳と狭いので、1.7mホーンを前に出すことは出来ず、音場定位から来る舞台の見通し、「生らしさ」の表現が不可能なことから、22Aホーンの設置を断念し、遅延時間の短いショート・ホーンに変えました。
既成スピーカーには、低音、中音、高音の各ユニットに信号を分岐するL、C、Rで構成されるネットワークが組み込まれます。これに対して、ユニット毎にメインアンプを接続し、そのメインアンプの前段で周波数を分岐するのがチャンネル・デバイダーで、スピーカー・ユニットとのインピーダンス・ミスマッチングが生じない、チャンネル・アンプ方式です。
最近のスタジオ・モニター・スピーカーは、このチャンネル・アンプ方式が主流であることからも、この方式の合理性がご理解頂けると思います。
この方式では、低音、中音、高音のスピーカー・ユニットがそれぞれ独立しているために、時間軸を合わせて設置する必要があり、部屋の広さを考えると大きなホーンの使用は難しく、写真のようなショート・ホーンに治まったのであります。
そのスピーカーシステムの構成は下記のようになっています。
Low.ch : ALTEC 416A、音研型のボックス
Mid.ch : WE-555+フォスターH300ホーン、
Hi.ch : ゴトーSG-16BL、
そして、拙宅のシステムは、写真のように、L、R スピーカーの間にスーパー・ウーファーが設置してあり、俗にいう2.1チャンネル対応のチャンネル・デバイダーとなっています。
一般的にチャンネル・デバイダーのフィルターは、バターワース型フィルターが使用され、本器もこのフィルターを使用しています。そして、フィルターのロールは、6dB/octを固定して設定しています。このロールをシャープに設定すると、デジタル式であろうとアナログ式であろうと、カットオフ点を中心に広範囲に、位相回転が生じることから、6dB/octのロールも本器では固定としています。
このロールはシャープに設定すべしという説を強く主張する方か居られますが、バターワースフィルターでは、カットオフ点を中心に位相回転が生じます。弊害は、他にもあり、ヴァイオリンのように音域の広い楽器では、帯域に依って再生するスピーカー・ユニット間を「音」が上下に移動し不自然感が生じます。
本器のように、6dB/oct と、ブロードに設定すると全帯域で位相は、リニアーに再生され、帯域間のスピーカー・ユニットによる音質差も混ざり合って、心地良い効果を生み出します。この混ざり合う現象は、オーケストラの楽器構成からも納得できる現象と考えます。
再生系で起こる位相回転は、「生らしさ」の再生にとって天敵でありますが、位相など音に関係無いと言う御仁には、あまり声を大きく発言なさらずに、お一人でお愉しみ頂きたいものと思います。
低音用ユニット、中音用ユニット、高音用ユニットの選定では、メーカーや型式が異なることが普通ですし、設置するお部屋の状況も一定ではありません。だからこそ、ここで構成される「音」は、「俺のもの」なのです。相性合わせには、アンプを含めるとその組み合わせは無限となりますが、先ずデバイダーに絶対的信頼を置いて貰うことを前提に構築することが成功の要と確信しております。
私の手持ちユニットも実験中に増えてしまい、石井式試聴室は3つも作ってしまいました。チャンネル・アンプの導入に当たっては、スピーカー・ユニットの選定と部屋の選定に全精力をお使い頂く覚悟が必要です。「俺の音作り」に総力を注いで貰いたいとの願いから、本デバイダーをご信頼頂き、我々商品化を急いでおります。
余談になりますが、斯く言う、私にも先入観があって、リボン型へのあこがれ、大型ホーンへのあこがれ、満足できない既成品、部屋への不満から「生らしさ」の追求に焦点を絞って今に至っています。その過程で生じた問題は、ユニットごとの位相差、部屋を含めたシステム全体のF特性、などの調整が必須であり、感覚頼りだけでは「俺の音作り」には不十分で、航海に南十字星が必要であると同様に、「俺の音作り」は測定器による計測作業が必須であります。
我々も販売するからには、顧客への計測作業は、仕事として覚悟をしています。お客様ご自分が納得に至るまで、お付き合いを覚悟の上であります。
しかしその際、お客様のマインドに口を挟む訳には行かないことにも、ご理解頂かなければなりません。それは、「俺の哲学だ、俺の音作りだ」を無視することは出来ません。
拙宅のシステムをそのまま会社の視聴室にセットすると如何なるのか。多分スピーカーシステムと部屋の相性によって、A さんは、良いと言うであろう、またB さんは、悪いと言うかも知れない。拙宅の現状以上に、試聴環境は良くなるはずですが、はずが通用しないのがオーディオであります。
良い音のコンサート・ホール、悪いホール、オーケストラは同じでも、この現象はオーディオルームに於いても同様であります。この点の検証を続け、ノウハウの蓄積に努めて、これからもレポートして参ります。
今月のコンサートライフです。
7月6日 神奈川フィル定期演奏会 音楽堂シリーズの、モーツァルト・プラスと題したコンサートに神奈川県立音楽堂へ15:00開演で行ってきました。
曲目が、ブリテン/シンプル・シンフォニー、ヒンデミット/組曲「気高き幻想」そして後ステージがモーツァルト/交響曲第38番でした。
この演奏曲目が、何故モーツァルト・プラスと副題が付くのか、開演前に指揮者の鈴木秀美のレクチャーが有り、それによると、ブリテンもヒンデミットも「古い音楽に強い興味をもつ」と考える作曲家。この2曲も簡素な古典的形態を持ち、いずれもモーツァルトと相性のいい音楽だ、と言っていました。
しかし、私には全く別物との感じが残っただけでした。音楽の勉強をしていない私であります、余生を送る修行と考え、鈴木秀美の言葉を考えてみるのも面白そうだと悟りはしましたが、何れその内と言うことで。
当日は、15:00開演で17:00終演でした。桜木町のもみじ坂に在る響きの良い県立音楽堂で聞くモーツァルトに癒され、終演と同時にいつものすし屋にTel。 「鈴木さん悪い、満席だよ」とおやじの声。少し遠いが、元町のウナギ屋にTel。「早い時間ならいいよ」と店主の声、この店は客の顔を見てからウナギをさばくこだわりの店、やはり昔馴染みの店で、女将が亡くなってからその息子一人でやっている店、愛想は無いが兎に角美味い店です。
7月13日 神奈川フィル定期演奏会 みなとみらいシリーズのコンサート、ハイドン/オラトリオ「天地創造」に14:00開演で、みなとみらい大ホールへ行ってきました。私が、この曲の全曲を一気に「生演奏」で聞くのは初めてでした。
全曲演奏に約100分、途中20分の休憩が入りますが、結果として2時間10分と長丁場でした。癒される良い曲で、バッハのマタイのような凄さは無いものの、安らかな気分で全曲を聴くことが出来る、良い曲ですが「良いとこ、のつまみ食い」には適さない曲と感じました。
当日の指揮が、鈴木 優人、ソプラノ/澤江 衣里、テノール/櫻田 亮、バリトン/ドミニク・ヴェルナー、合唱/バッハ・コレギウム・ジャパン、ソロ・コンサートマスター/崎谷直人、オーケストラは鈴木 優人と相性の良い神奈川フィルでした。
終演が16:10で、馬車道の馴染みのすし屋まで、家内と夕刻の横浜を散歩気分で徒歩、この穏やかな時間の流れ、何時まで続けられるのか、老いを感じつつ、「歳」を考えてしまう昨今であります。
7月18日 新国立劇場へ、オペラ/プッチーニ「トゥーランドット」に18:30開演で行ってきました。
この公演は、2020に向けた文化関連事業「オペラ夏の祭典2019-20 Japan-Tokyo-World」の第一回として東京文化会館と新国立劇場による共同製作として行われるもので、オペラの分野で東京都と国の連携は初めての試みと言うことです。この企画は、バルセロナ交響楽団の音楽監督を務める大野 和士ならではの選択であろうことは、疑いの余地はありません。
当日のオーケストラは、そのバルセロナ交響楽団、指揮が大野 和士、出演者は、今ヨーロッパで旬と言われる歌手、日本で活躍する実力歌手を集めた優れた公演でありました。
当日のキャストです。
トゥーランドット : イレーネ・テオリン
カラフ : テオドール・イリンカイ
リュー : 中村恵理
ティムール : リッカルド・ザネッラート
以下村上敏明など全て日本人
合唱 : 新国立劇場合唱団
藤原歌劇団合唱部
びわ湖ホール声楽アンサンブル
指揮 : 大野 和士 バルセロナ交響楽団
当日の演奏は、素晴らしかった。イタリアと言いたいが、寧ろヨーロッパの風とスメルと言う事でしょうか、特別な気合を感じる出来栄えに、しばしカーテンコールに付き合いました。
終演後は車で帰宅、例によって、オペラシティーのバケット、オペラシティー内の石井で買った白ソーセージの湯せん、そしてお気に入りのワインですが、このパターンは文鎮職とは言え、翌日に利きます。オペラ鑑賞は、歳のせいでマチネでないと身体が持ちませんので、今後の席の確保に何か戦略を考えねばなりません。
寄付も試みましたがパッとしません。今のところプルミエ公演しか手が無いとなればどうすれば良いか、ホテル泊も疲れるのです。オペラ鑑賞をあきらめる ? あり得ませんね。