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colums会長のコラム

会長のコラム 114

コラム114号は、5月の大形連休号と言うところです。歳をとると、人出の多い場所を敬遠しがちになります。
それでも、現役を勤めておりますので、大型連休ででもないと、普段はなかなか行けない神田神保町の中古レコード屋を漁りに行きました。たまには、愚妻の面倒も見ないと、との後ろめたさがありますが、「俺は現役だ」とばかりに、この時ばかりはルンルン気分にのって行ってきました。
その成果は、10万円ほどの出費となりましたが、我々世代では行くにも行けない事情の仲間も多く、早速「見せろ」との声がかかります。しかし、そこは現役の強みで、「忙しい」の理由も自然形でありまして、未だに誰にも見せていません。これからの楽しみと言うところであります。
折角の都心への行脚です、休養と思考の構築を目的に都心ホテルに宿泊しました、この時ばかりは愚妻と同伴です。そのホテルたるや、なんと金持ち爺ちゃんが孫を連れての混雑であります。これにはがっくり、折角の大人の余暇には程遠いものでした。
なけなしの時間とカネをはたいての結果がこれです。世の中カネの使い方間違っていると思うのでありますが、ここで又苦言の一言、この国の将来を憂う苦言であります。
結果として「楽しく無いバカンス」を過ごすことになってしまいました。
連休明けからは、3演目を携えたウイーン・フォルクスオパーの来日公演、そして恒例の神奈川フィルの定期演奏会と続き、この5月は4つの公演を鑑賞しました。

5月のサマリー
1. ウイーン・フォルクスオパー オペレッタ/シュトラウスⅡ「こうもり」
2. ウイーン・フォルクスオパー オペラ/ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」
3. 神奈川フィル定期演奏会
4. ウイーン・フォルクスオパー オペレッタ/レハール「メリー・ウィドー」

1.ウイーン・フォルクスオパー オペレッタ/シュトラウスⅡ「こうもり」
5月14日(月)14:30開演のマチネ、東京文化会館での公演に行って来ました。
ウイークディのマチネでしたが、席は満席で有りまして、この時間帯の観客は流石に老人が多くこの現象はなかなか良い傾向と思いました。
私が、この公演日をえらんだのは、鑑賞希望者が少なく良い席に当たると考えたからです。従来、NBS主催公演はロイヤル・シート会員を選んでいた為に、絶対確実に良い席が確保されていました。しかし、今年から費用の事もあってS席会員を選んだので、今までのようなロイヤルシート会員程に良い席では有りませんでした。
このオペラは、過去何度も見ており、新たな感動を求めることは期待していませんでしたが、フォルクスオパーの定番であり、看板でもある演目です。毎年、恒例のウイーン・国立劇場との違いなどにも興味がありました。
このフォルクスオパーには、ウイーン国立劇場の様にその時々の話題スター歌手は出演して居りませんが、専属歌手陣とオーケストラ、指揮、舞台装置、演出などの専属が醸すパフォーマンスを提供するのが、このオペラ座の特徴であり、売り物です。
当日の公演は、始めのうちは何かギクシャクしたものを感じましたが、やがて舞台が進むにつれて、本領が発揮されて、これぞ、「ザ・フォルクスオパー」なるものを見せてくれました。
私は、ウイーン・フォルクスオパーを現地で観劇した事があります。劇場の側を走る路面電車の響きがかすかに響くあの劇場、格上のウイーン国立劇場以上にカメラの持ち込みを厳しく監視され、「この田舎劇場が」と気分を害したものでした。その懐かしい劇場が、ここ上野文化会館に引越公演と言う事で、何か不思議と郷愁のようなものを感じました。

2.ウイーン・フォルクスオパー オペラ/ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」
5月18日(金)東京文化会館にて18:30開演で行ってきました。このオペラは、序曲が大変有名で、演奏される機会も多いのですかず、オペラ公演となると公演の機会が少なく、私も初めて見るオペラでした。
作曲者のニコライは、プログラム解説によるとウィーン宮廷歌劇場(現在の国立歌劇場)主席指揮者としてドイツ語のオペラの作曲を契約していて、それに当たるこの曲はウイーンと関りが深いものでした。
しかし初演は、ベルリンだったとのことです。その理由は、序曲を聴いて頂いても感じることですが、当時のウイーンで流行であったフレンチ・カンカンを想起させるものがあり、この踊りを当時ウイーンでは、極めてみだらなもの、とうけとられ禁止されていたとの事、このあたりの事情で、初演はベルリン王立歌劇場だったようです。
このオペラ公演が少ないのは、私が思うに重要な役どころが多く、実力の揃った歌手を用意するのが困難な為と思います。特にこの演目は、駄目な歌手が入ると公演そのものが駄目な歌手以上にならないと言う事でしょう。
この難しい条件をフォルクスオパーは、全てダブルキャストを用意しての公演で、流石と思うものでありました。当日の公演で感じたことは、このオペラは素晴らしい作品で、ウィーンのオペレッタ黄金時代を担う作品として貫禄充分でした。
序曲に聴かれるように楽しい内容に加えて、音楽も隙がなく随所に入るアリアなども充分に鑑賞に価値するもので、改めてこの作品の価値に感じ入るものでしたが、日本語字幕のDVDは見つかりません。

3.神奈川フィル定期演奏会
5月25日(金)横浜みなとみらいホールにて19:00開演で行ってきました。
当日の演目は、前半がリストの交響詩「前奏曲」とピアノ協奏曲第一番で、後のステージが、ワグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」管弦楽曲抜粋、演奏が神奈川フィル、指揮現田茂夫でした。
リストのピアノ協奏曲は、後藤正孝の演奏によるものでした。後藤正孝は、オランダ・ユトレヒトで開催された第9回フランツ・リスト国際ピアノコンクールにおいて第一位を獲得したとのこと、プログラムに記されていましたが、私は事前の知識は有りませんで、もちろん、この人の演奏を聴くのは初めてです。
後藤正孝は、当ピアノコンクールにおいて審査員満場一致で1位であったとの事、その後コンセルトへボウ、オランダ放送フィルハーモニーなどと共演するなど国内外20カ国以上に招かれて演奏しているとのことであります。
演奏は、この若さで此れだけのことが出来ると言う驚きでありましたが、演奏家として特別に感激するような要素は特に感じ得ませんでした。
しかし、リストのP協として聴くなら、現田茂夫の手勢と言える神奈川フィルとのコンビは、週末の夜に聞くコンサートとして、充実した時間の流れを感じるのに不足はありませんでした。
ワグナー/楽劇「ニーベルングの指輪」管弦楽曲抜粋は、初めて聴く曲でしたが、4夜に渡る長編オペラの良いとこ取りで、50分に纏めたものですから悪い訳は有りません。しかし、ワグナーの凄さを感じるには及びません。
交響曲を聞く雰囲気と言えば怒られそうですが、ひとつには、現田茂夫の端正な佇まいから来るものと思います、オペラから感じる毒と言うか臭さが足りないと感じました。曲に瑕疵が有ろう筈は無く、改めて聞いてみると、やはりこの楽劇は素晴らしいものだとの思いが湧くのが収穫でありました。

4.ウイーン・フォルクスオパー オペレッタ/「メリー・ウィドウ」
5月27日(日)東京文化会館にて15:00開演のマチネ公演に行ってきました。
本公演は、今回の引越し公演最後の最終公演日でありまして、その最後に相応しい内容と雰囲気を醸す素晴らしいものでした。
兎に角、素晴らしかった。オペラ観劇を趣味にして良かった、生き甲斐を感じた一晩でした。今回の引越し公演3演目のうちで、これぞ「ザ・フォルクスオパー」と言うべき公演だったと思います。特筆したいのが、富豪の未亡人ハンナを演じるソプラノのアレキサンドラ・ラインプレヒトの歌唱力が抜群に素晴らしかった事です。
合唱の中から抜け出るソプラノ声が、後々まで耳に残ります。他の出演者たちも歌唱と容姿が、役どころと一致して舞台を盛り上げます、これぞフォルクスオパーと思わせるもので、これだけ、バランスの取れた舞台にはなかなにか巡り会えるものではありません。
よくある例として、歌唱力が優れていても、役どころにそぐわずに太りすぎであったり、痩せすぎていたり、背が高すぎたりと、兎角容姿は二の次と考えられがちです。その点、フォルクスオパーは流石と言うものであり、このパフォーマンスこそフォルクスオパーの売りなのでしょう。

5月の音楽ライフはここまでとなります。6月1日に新国立劇場のオペラ「ローエングリーン」の公演があり、本コラム114号を書いている最中の観劇なのでホットなネタでありますが、6月の公演ですから次回115号に回すことにします。8月にバイロイト音楽祭に行く予定で、その演目にも入っていますからしっかり観劇しなければです。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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