Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 180

9月です、芸術の秋の始まりであり、今年度の新商品発表のプレゼンテーション作業の開始となります。これから忙しくなるぞ、「覚悟は良いか」と自身に言い聞かせているところです。
今年の新商品は、MCフォノ・カートリッジ用のステップ・アップ・トランスとWEに拘らない独自設計の300Bシングルアンプの予定です。「シンプル・イズ・ベスト」に更なる磨きをかけた商品の発売を予定しています。
当社の商品も信号系の入口たるカートリッジから始まり、ステップ・アップ・トランス、フォノ・イコライザー、プリアンプ、メインアンプとそれぞれに、シンプル・イズ・ベストを実践し、商品系列に無いものはスピーカーだけとなりました。
スピーカーは、電気信号出力と空気負荷インピーダンスのマッチングを計る、極めて難しいデバイスです。この負荷を音響インピーダンスと言いますが、オルソン博士の音響工学から理解するものであり、電子回路の実践のようには行きません。部屋とスピーカーの相性とよく言われます。これは音響インピーダンスのミスマッチと考えられ、等身大の音を求めるあまり、小さな部屋に口径の大きなスピーカーを選んでしまう場合の、低音の「ボン付」現象などの原因と考えられます。これを退治するのに信号系に音場補正なるものを挿入するのが昔からの思い付き対策です。対策機材としてグラフィック・イコライザーなるものが有りましたが、今では姿を消しました。それがデジタル式に変わってお化けのように再現しています。結果は、「音」にベールをまとう現象で、昔と同じ現象であります。やがて、嫌気がさすことでしょう。これは、我々のピュアーを求める「シンプル・イズ・ベスト」への努力が水泡に帰すと言うことで先人の轍を踏んでいます。
その改善に向かって、「生」らしさを求めるのが音楽好きマニアであり、それには、オルソン博士の音響インピーダンス・マッチングの改善以外に術は無いと考えます。確かにオルソン博士の実現性は難しい、でも必ず術はあります。「音」の良し悪しは、食の世界に通じる「粋」の世界と同じと考えます。先人の轍を踏まずに、それを極めると言う事、その「粋」は理屈では有りません。楽しみの内と考えるとオーディオの面白さが倍化します。その為に、我々は「シンプル・イズ・ベスト」を求め続けているのです。

今月のコンサート・ライフです。まずは、強烈な感激を受けたバイエルン国立オペラ劇場の引っ越し公演から記します。
 9月21日 NHK ホールにてPM3時開演にてワグナー/オペラ タンホイザーに行って来ました。この公演は、今年5月21日にドイツ・ミュンヘンにて新作上演した話題のオペラをそっくりそのままNHKホールに持って来たものです。カネの掛り具合も半端で無い事は見え見え、チケットも高額ですが、ミュンヘンに行く事を考えると安い。この見慣れたオペラでも日本語字幕は有難いです。このオペラの筋書は実に単純であります。40分の休憩を挟んで5時間の長時間に渡り、劇場に拘束されます。
筋書が単純で公演時間が長いと言うことは、音楽が長いと言うこと、それが、ただ長いのではありません。表示される字幕の内容は同じ言葉の繰り返し、でも音楽が違います。ワグナーが訴える思想をオーケストラと歌手が訴え続けるのです。
新作「タンホイザー」は、ミュンヘン公演で評価が大きく分かれたと言われている話題作です。私が見るとろ、これこそワグナーが表現したかったことを端的に表した作品と思います。そして、音楽監督の キリル・ペトレンコ は日本ではほとんど知られていません。ヨーロッパで高い評価を受けている人にも関わらず、初来日と言う、話題の多い公演であります。
ワグナーの作風は、後の作品「トリスタンとイゾルデ」から大きく変わるのですが、タンホイザーはこの過渡期の作品で全ての切り口から見ても興味の尽きないオペラなのです。不協和音の後に続く這いずってしまう美しいメロディーは、たまりませんね、延々と続くこの陶酔、加えて歌手陣がこれまた、今求められる最高のキャストです。特にテノールのフロリアン・フォークトは、パーフェクトとはこの事、加えてオーケストラの迫力、指揮者が音楽監督自らであります。
今回の引っ越し公演は、この後9月29日に、上野の東京文化会館にてモーツァルト/オペラ 「魔笛」の公演があります。今回この2作を引き下げての来日でした。と言うことで、バイエルン国立オペラ劇場に喝采であります。そうだ、休憩時間には、お馴染みのオーディオ評論家と顔を合わせました。

9月9日土曜 午後2時開演でみなとみらいホール、神奈川フィル定期演奏会に行ってきました。演奏曲目は外山雄三/オーケストラのための「玄奥」、シューベルト/交響曲未完成、そしてプロコフィエフ/交響曲第5番 でした。
未完成交響曲の生演奏は、本当に久しぶりです。この曲が演奏されるコンサートには、損する思いが走るから不思議です。何しろ中学生の時代にラジオにかじりついて聞いた曲であり、耳蛸と思っている。本人の未熟の結果なのですが、久しぶりに聴いてみると、知ったメロディーにはいろいろな音が付帯し「へヱー これ! 複雑な曲相だったのだ」、と些か恥ずかしい思いもしました。当日の指揮は、外山雄三でした。

9月16日土曜午後12時に会食オープン、続けてオペラ「椿姫」の開演と言う、毎度のグランドプリンスホテル新高輪にて行われる「高輪オペラの会」に行ってきました。このホテルの大掛かりなリニューアルが終わりすっかり変わって、更に高級感が増し、近寄り難い雰囲気に変身、会場のレストラン イル・レオーネ もリニューアルはないもののスタッフは全て入れ替わり料理も変り、サービスの行き違いなどもありましたが、演奏の充実した企画に大満足しました。
当日の公演は、今までに無い手間の掛けようと言うか、カネの掛けようというか、兎に角気合いの入った公演でした。何と言っても藤原歌劇団の音楽総監督として名高い折江さんが、バリトンパートとしてジェルモン役に出演したのですから、出演者は藤原のメンバーで構成され、しかも実力者を揃えての公演で素晴らしいものでした。ビオレッタ役の光岡暁恵、アルフレード役の藤田卓也、そしてジェルモン役に折江忠道で、広くも無いレストラン・ホール、舞台前方が私の席で、容易に経験出来ない素晴らしいものでした。
折江さんは、バリトン歌手でありながら大変なエンターテナーであり、組織の長であり、手勢を引き連れての公演は、滅多に経験出来ない印象深いものでした。

 バイエルン国立オペラ劇場の引っ越し公演、モーツァルト/オペラ「魔笛」であります。
9月29日金曜 東京文化会館にて午後3時開演で行ってきました。この公演も話題の多い公演でありました。1978年にアウグスト・エヴァーディンの演出によるもので、その元でユルゲン・ローゼが考案した舞台美術、衣装デザインがひと際優れ、今日に至るまで公演し続けられた作品でした。今回の公演では、エヴァーディンの優れた演出を生かし、使い古された舞台装置や仕立て直しされ続けた衣装をローゼ自身で作り直したと言うこと、これだけでも価値ある公演と言われています。
モーツァルトがドイツ語に拘って作曲したことや自身の信ずる宗教を題材にして居ることで、モーツァルトの格別な思い入れの作品でることは言うまでもありません。ドイツ文化の中心地たるバイエルン国立オペラ劇場で、しかも音楽監督自らの指揮による公演は、何物にも代えがたい経験でした。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

インタビュー掲載

コラムアーカイブ