会長のコラム 131
9月11日は、私の誕生日で喜寿となり、パーティーをプレゼントされたり、ゴルフの誘いなどが有って楽しかったのですが、残暑厳しい折に身体に厳しい状況でありました。
9月になると「芸術の秋」の始まりです。私の場合、早速に松本のサイトウキネン・フェスティバルが9/3からはじまります。
そして、9/6の上野文化会館でのミラノスカラ座引越し公演「オペラファルスタッフ」、9/11のNHKホールデ「オペラリゴレット」と続き、9/27の神奈川フィルの定期となります。
そして、幸いにも新国立劇場の新シーズン1回目公演が10月3日で、これまた「オペラリゴレット」と言うのがお誂え向きでして、今シーズン2回目公演がモーツアルト/「オペラフィガロ」で10月となります。
9月のサマリー
1.サイトウ・キネン・フェスティバル
2.ミラノスカラ座公演ヴェルディー「オペラ・ファルスタッフ」
3.ミラノスカラ座公演ヴェルディー「オペラ・リゴレット」
4.神奈川フィル定期演奏会
5.チャンネル・アンプ・システムのいよいよ最終段階、そして結論に至るか
1.サイトウ・キネン・フェスティバル
9月3日(火)18:00開演で行ってきました。1人乗りヘリコプター設計製作の柳沢さんに毎年このチケット購入でお世話になっています。今年は、前日の9/2に松本の美ヶ原高原の高原宿に前泊しませんか、とのお誘いで、コンサートの前日に出かけてきました。
運悪くこの日は曇りで、高原はガスで何も見えませんでした。ここの宿は、もともと山小屋だったものをホテルにしたもので、温泉が有るわけでも無く、景色だけがご馳走ですから、残念でありましたが、ここの涼しさは格別で、山の気まぐれ天気のご褒美と言うものでありましょう。
翌日は、山を下って途中の三城で蕎麦を食べて松本に帰ってきました、当日の宿泊宿が話題の星のリゾートが運営する浅間温泉の宿でした。
星のリゾートは、超高級なリゾートホテルを運営する事で有名で、食事の旨くないのも有名であります。ここ松本にも星のリゾートホテルがあると言うので、ものめずらしさが先行して行ったのですが、結果は過去に経験した域を出るものでは有りませんでした。
さて、今年のサイトウ・キネン・フェステイバルです。
今年のオペラ公演は、ラベルのオペラ「こどもと魔法」、「スペインの時」でした。私はオペラに対する理解度は、プアーでして、R・シュトラウス以後のオペラは理解の範疇ではありませんので、今年はやめまして、オーケストラ・コンサートのみとしました。
演奏曲目は、モーツアルト/交響曲33番、リゲティ/「フルートと管弦楽のための2重協奏曲」、R・シュトラウス/「ツアラトゥストラはかく語りき」でした。
何れの演奏も指揮が大野和士、会場がキッセイ文化ホール(旧長野県松本文化会館、当初のサイトウ・キネン・フェスティバルのメイン会場)、何故キッセイと言う名に変わったのか不明であります。
そして、小澤征爾は客席にて終始鑑賞していました。コンサートマスターが曲毎に変わっていました。私が好きな矢部達哉はメンバーに居ませんでした。
当日の曲目の、R・シュトラウス/交響詩「ツアラトゥストラはかく語りき」に付いてですが、このコンサートホールにはパイプオルガンは有りません。私の経験でパイプオルガンの無いホールでのこの曲の演奏を聞いた経験は有りません、冒頭のオルガン演奏はどうするのか大変興味があり期待しましたが、どこからともなく、それらしき音、つまりあくまでもそれらしき音が聞こえてきました。
この音一体何だろう、帰ってから、音楽仲間にも聴いてみましたが、そのような経験者はいませんでした。世界的な音楽会での「これ」て、何だろう不思議でたまりません。
この冒頭の有名なオルガン演奏は、シュトラウスの長調・短調の境を曖昧にする作曲者の意図があると言われるのを聞いたことがあります。多分、曲の構成上重要な意味があると思うし、この有名曲のパイプオルガンは、我々オーディオマニアにとって極めて重要なものなのです。
2.ミラノ・スカラ座公演 ヴェルディのオペラ/「ファルスタッフ」
上野東京文化会館にて、9月6日(金)18:30開演で行ってきました。ファルスタッフは、ヴェルディー最後のオペラです。
指揮がダニエル・ハーティング、演奏がミラノ・スカラ座管弦楽団、キャストはファルスタッフを演じる(歌う)適任者は、この人以外に居ないと言われるバリトンのアンブロージョ・マエストリ、そして、アリーチェ役にソプラノのバルバラ・フリツトと、言う事無しのキャストで、公演中は舞台に引き込まれ通し、過去のヴェルディー作品らしからぬ面白さにアッと言う間の3時間でした。
このオペラ創作時期は、ヴェルディーにとって名声が成り、金持ちになり、人生全てに成功し、既に何も求めるものは無かったと我々は思うのですが、それでも、天才芸術家は悩みがあったようです。
過去のヴェルディー作品からは想像できない、このコメディーオペラは優れた作品でありますが、ヴェルディーとしては過去の作品に拘る事無く自由奔放に作曲したのでしょう。しかし、専門家はこの時期のヴェルディーはワグナーを意識し創作に苦労したといいます。
言われてみると、確かにそうと思われることも感じますが、後世の我々に優れた作品を残してくれたものだ、とつくづく思うのみです。
3.ミラノ・スカラ座公演 ヴェルディー・オペラ「リゴレット」
私のオペラ入門時に良く聞いたオペラです。リゴレットが歌う「女心の歌」は、とり分け有名ですが、このオペラの中にはこれ以外に素晴らしいアリアや4重奏があり、内容といい曲と言い素晴らしいオペラであります。
当日の演奏は、指揮が今話題のドゥダメル、演奏がミラノ・スカラ座管弦楽団でした。加えて、リゴレットを演じたのが、当代切っての当たり役、バリトンのレオ・ヌッチですから、もう言う事有りません。
このレオ・ヌッチはサービス精神旺盛で、第2幕の終わりのカーテンコールで、2幕終曲の2重唱をアンコールしてくれました。
4.神奈川フィル定期演奏会
9月27日(金)みなとみらいホールにて19:00開演で行って来ました。
7、8月は休みだったので、久し振りのみなとみらいホールでした。演奏曲目は、ストラビンスキー/詩編交響曲、クラズノフ/ヴァイオリン協奏曲、そして後半の舞台が R・シュトラウス/アルプス交響曲でした。
ストラビンスキー/詩編交響曲は、バイオリンセクションが全く無いと言う変わった編成でして、そもそも、ストラビンスキーの曲は私にとって馴染めないものが多いのですが、この曲は全く理解の外でした。
グラズノフ/バイオリン協奏曲ですが、グラズノフは同じロシアの作曲家であり、ストラビンスキーよりも16歳年上と言いますから、同世代ともいえますし、しかも両人ともにリムスキー・コルサコフに師事したといいます。
しかしながら、その作曲技法は全く違っており、このV協を聴く限りその違いの大きさに驚きます。当日は、この美しいメロディーをコンサートマスターの石田康尚が彼独特の素晴らしい音で聞かせてくれました。
後半の舞台が、R・シュトラウスのアルプス交響曲、これは説明の余地の無いお馴染みの曲であります。この曲こそ生演奏とパッケージ音楽の差を強く感じる曲は無いでしょう。生を聞かずして、この曲の良さを語ってもらいたくない、この曲こそ生とパッケージの違いを大きく感じる曲は有りません。
当日の演奏は、指揮が沼尻竜典、石田康尚コンマスの神奈川フィルでありました、実に素晴らしい演奏であり定期演奏会ならではのものでした。
5.私のライフワークであるマルチ・アンプ・システムについて
私の目指す全段パッシブ方式によるマルチ・アンプ・システムも市販されているチャンネルデバイダーでは不可能な領域まで完成度の高い状態に至っていると思います。
しかし、中音域を受け持つWE-22A+555の音がウーファー、ツイターよりも1.7mの遅れがあると言う問題で、ステーシーの見通し、音場定位に不満が残ります。
この解決のために、ウーファーとツイターに1.7mのデジタル・ディレーを挿入してみたり、また全帯域をデジタル方式による音場補正機器を導入したりしましたが、音質がデジタル臭くなって、私にはとても受け入れられる代物でないのが昨日までの状況でした。
私の考える全段パッシブ方式でも、中音域にショートホーンを使い、スピーカーユニットの位置を物理的に合わせれば、出てくる音は素晴らしい仕上がりとなり、私の理想とするマルチ・アンプ・システムとなります。しかし、私はWE-22A+555の導入を諦めるわけには行かないのです。
この歴史的名機の音は、現代のスピーカーでは再生出来ない音なのです。経済効率を優先する、現代社会では、作ることが出来ない名機なのです。
現代のパッケージメディアは全てデジタルによる物です。それなのに、何故デジタル技術を使った音場補正はデジタル臭い音になるのか。これは、アナログ信号をA/D変換してデジタル音場処理を施し、その後またD/A変換してアナログに戻す、つまり本来無用のA/D,D/Aを繰り返す操作によるものなのです。
CDにパッケージされた音楽ソフトは、デジタルです、CDプレーヤーからこのデジタル信号を直接出力するためのS/PDIF端子から直接このデジタル信号を取り出し、デジタル音場処理を施すと、本来必要の無いA/D,D/Aを繰り返さずに済む事になります。
一方、LPなどのアナログ信号に付いても、スタジオで使用するレベルのA/D変換器を使用し、このS/PDIF出力信号を使うとデジタル臭さは解決する筈です。もっとも、その機器は100万円以上するでしょうが、今の状況は我慢できません。
今市中にあるデジタル音場補正器は、数十万のデジタル機器でありそこに組み込まれているADCですから、その性能はお里が知れると言うものです。そのスタジオで使用するADCのS/PDIF信号を受け付けるデジタル機器の存在を遅まきながら最近知りました。
私の悩みを聞いたオーディオ評論家の三浦孝仁さんがそれを紹介してくれました。
この機器は、カナダのメーカーで「DEQX」といいます。本器は、デジタル式の信号処理機器、特にオーディオ機器としてその機能のあり方を充分に承知した設計であり、チャンネルデバイダーの機能は300dB/octと言う理想的なカットオフ特性でありながら、ほとんどデジタル臭を感じさせないし、アナログ式では絶対に不可能な音響理論を追求していると言えましょう。
私のような、音道の長いホーンを使用する場合には欠かせないツールであると予感しますが、泣きどころが無い訳では有りません。
マルチ・アンプ・システムの今後のありかたとして、ショートホーンによるシステムであれば、設置の位置調整によって物理的にユニット間の時間軸をあわせる事が出来ますから、シンプルなアナログパッシブ方式を提案します。
そして、音道の長いホーンを使用したスピーカーでは、物理的に時間軸を合わせる事が難しいですから、このデジタル音場調整器を使用するのがベターと思います。
しかし、本器の泣き所を含めて、不充分な試聴体験を補いつつ、もっと多くの人の試聴やご意見を参考にしつつ、次回に、或いは次々回かも知れませんが、その可能性は計り知れないものを感じるので、レポートを続けて行きます。