会長のコラム 172
今年の正月は、私が横浜の介護付マンションに入居して10回目を迎えることになります。そして、今年の年末年始も都心のホテルで過ごすことになりました。マンションのレストランも世間並みに年越し、おせちなどが用意されていますが、数年前までは美味しいとは言えませんでした。年を経るうちに施設側も食の改良に努めており、有名レストランのシェフをスカウトしたりで、味が良くなってきていて、正月料理も以前とは比べ物にならないほどに改善されたようです。「ようです」と言うのは、私は食べていないからですが、ここに入居して施設側の真摯なる改善に将来に安堵しつつ、やがては私も正月食の世話になる筈です。
私には、孫が居ないためか同世代の爺さんが孫に目じりをさげる姿を醜く感じつつ、正月の都心のホテルで過ごす金持ちヂヂイ連、彼らが連れてくる孫ガキ、そこではチビ餓鬼の運動会もどき煩さに嫌気がさして、都内の一流ホテルには行く気がしません。大人を対象にしたホテルもあるのでしょうが、一流ホテルは、大方この手のガキを対象に正月ホテルライフを企画しています。これが、ホテルとしてイージーにカネになるのは容易に想像出来ます。
行くところのない私としては、毎年のこととして私向きのホテルを探すわけで、今年は新宿の京王プラザホテル、それと言うのも、年越しのカウントダウンショーに「つのだ・ひろとトランペットの桑野信義」が出演すると言う企画、そして1月1日の夜のショーに、アルゼンチン・タンゴの小松亮太のオルケスタにゲストとして姿月あさとが出演するとあったからで、それではということで、行くことにしました。
「つのだ・ひろと桑野信義」のカウントダウンショーは、日本の高度成長時代を担った企業戦士ともなれば、当時繁栄したキャバレー文化のフルバンド演奏があります。当時、新宿のクラブに毎晩出演した「スマイリー小原とスカイ・ライナーズ」、この演奏を彷彿とさせるスイング演奏、当然ながらフルバンドの演奏ではなかったものの、当時を偲ぶリズムを聴くだけで、なつかしさがこみ上げる感覚に酔ってしまいました。
一方の小松亮太のオルケスタ演奏は、歌手に「姿月あさと」の出演が「売り」のようでしたが、この人がアルゼンチン・タンゴの歌手としては、些か無理でありミスマッチと言うしかなかったのが私の感じでした。小松亮太ともあろうバンドネオンの名手には、考えられないミス選択肢でしたが、正月だからご愛敬と言うことにしましょう。
このホテルのイベントは、ガキを意識させないところが気に入っていたし、食もそれなりに良いのですが、ホテル内の専門店は普段ではあり得ない客数をこなすわけで、当然人手不足、ウエイターは一丁前のタキシードが良く似合う、何を聞いても知識が薄弱で、にわかウエイター丸出しのアルバイト、それは、興覚めどころか笑ってしまう。一方ホテルが主催するバイキング形式の夕食会は、流石と言うものでした。当然ながら給仕は有りません、これだけの質の食事で給仕が無いと言うのも、勿体ない思いでしたが、正月の特殊事情だからそれ以上の贅沢は言えませんね、日本社会も安倍総理が言うほど不景気ではありませんよ。
安倍総理の話が出たところで苦言を一言、先の無い年寄にもう少し余裕を以て優しくして貰いたいものです。我々世代は、企業戦士としてパールハーバーの負債を背負いつつ、北米に出稼ぎと技術の習得を目指し、今日の日本経済を立ち上げたとの自負があります。今の厳しい時代に貿易黒字を稼ぐ日本国、その元を造ったのは、我々企業戦士なのです。それが、介護費、医療費増大とかで生活費の厚生年金まで削ると言う。食えれば良いと言う発想は止めて貰いたい。せめて懐かしのフルバンドの生演奏ぐらい聞かせてもらいたいが、その文化の素も消滅してしまい、その内オーケストラの文化も消滅するかも知れない。孫のいない者のひがみかも知れないが、孫に目じりを下げて満足している爺も情けない。昭和の企業戦士の姿を思い起こし、もう少し「ビリ」として貰いたいものだ。加えて言わせてもらう、福祉も大事だがベンツに乗った生活保護者もいると言う、補助金が出ると競輪に駆けつけると言う輩も知っている。文化の保存は社会的価値が低いのか、昭和企業戦士の生活も、10把一からげに食えれば良いと思っているとすれば情けない。
正月9日は、オペラ歌手の岡村喬生さんが主幹するNPO法人の新年会に行ってきました。青山のレストラン・サバティーニでの昼食でしたが、肝心の岡村さんは風邪を召されたとの事でお休みされました。寂しさは拭えませんが、スタッフの方々の機敏な行動で楽しい会となりました。アトラクションとして岡村さんの関係する音楽教室の有志の方々の独唱などが有って、私も男性4部合唱に熱中した時代を思い出し、テノールは無理だからバリトン歌手として再チャレンジしようと思ってしまうほどに勇気付けられました。
当日のメインアトラクションは、日本のギター奏者の大御所 福田進一 の友情出演で、これはもう感動しました。レストラン・サバティーニの客席の空調音を切っての演奏、クラシックギターの微妙なニュアンスが良く聞き取れ、コンサートホールとは別の感動を覚えつつ会場を後にしました。
1月19日木曜 新国立劇場にオペラ ビゼー/カルメンの公演を18.30開演で行ってきました。
当日の演奏は、イヴ・アベル指揮による東京交響楽団、イヴ・アベルは北西ドイツ・フィルハーモニーの首席指揮者を務め、メトロポリタンを始め世界の主要オペラ劇場にて指揮を務める中堅実力者です、新国立劇場には度々出演している人です。カルメン役が、エレーナ・マクシモア この人もメトロポリタンをはじめ世界の主要オペラ劇場に出演している人です。ドン・ホセ役がマッシモ・ジョルダーノ この人も世界主要歌劇場でタイトロールを務める実力派テノールであります。そしてエスカミーリョ役ですが、このオペラでは重要に役なのですが、出番が極めて少ない役柄で人材選びが難しいのでしょうか、容姿から言うと日本人には適当な人は難しいです。当日の出演者は、ガボール・ブレッツと言う人で、些か小ぶりの感は免れませんでした。
ミカエラ役が、砂川京子で小さい身体が役に良く似合う、その割に声量もあり頑張って前2者の外国人に負けずの出来栄えでしたが、何かが違うのですね日本人歌手は。そしてス二ガ役が、妻屋秀和でした。この人は、外国人歌手に負けない声と体格で素晴らしい出来だったと言えましょう、最近の新国立劇場には毎公演に出演しています。この日本人離れした歌手がテノールやソプラノにも現れて欲しいものです。
当日の終演は22:10で、ホテル宿泊も考えましたが自宅に帰りワイン、バケット、チーズ、まさにドイツ人式の食事で済ませました。帰宅したのが23時ですから仕方ありません。自宅でこの手の食事と言うのも落ち着付くことが出来、オペラ観劇の余韻を楽しむのには最適です。こう思うのも歳のせいで、外食での非日常を味わうのは徐々に向かなくなっています。老後の生活環境を改めて考えた事に正解を感じてしまいます。私の場合は、改めて考えた訳でなく4人の親の面倒を見て来た反面教師のお蔭もあっての今であります。
1月21日土曜 神奈川フィルハーモニー定期演奏会に行ってきました。演奏された曲は、J.S.バッハ(エルガー編曲)/幻想曲とフーガ、ハチャトゥリアン/ヴァイオリンとフルート協奏曲、そして後ステージがラフマニノフ/交響曲3番でした。
当日は、専任のソロ・コンサートマスターと第一コンサートマスターが不在で、ゲスト・コンサートマスターの松浦奈々が代わりに入っていました。ハチャトゥリアンの協奏曲では、コンサートマスターのソロが入りますが、この松浦奈々さんは、中々見事な演奏をしてくれました。
当日演奏された曲の J.S.バッハの曲は、エルガー編曲で私の知らない曲でしたが素晴らしい曲でした。癒し系の曲で手元に置いておきたいソフトでこれから探しますが、定期演奏会ならではの出会いでありました。そして、後ステージは、ラフマニノフ/交響曲第3番です。最近この第3交響曲が見直されてコンサートプログラムに載っているのを見かけます、私も生演奏をきくのは初めてでした。印象に残ったのは、第二楽章が大変綺麗で「やはりラフマニノフだ」と感じるものでした。ハープにのせてホルンが主題を奏で、ヴァイオリンによるカンタービレの主題とフルートによる神秘的な主題が続き、甘美なヴァイオリン独奏から木管へ続き、そののちに、主題を奏でる弦楽器のピッチカートで終る、そして第3楽章に続くこの辺りは、何故か後々まで耳に残るものを感じました。
当日は、新年と言う事も有って演奏終了後に会員の新年交流会が行われ、指揮者の川瀬賢太郎以下、楽団員や役員 事務職も出席しての交流会で、舞台でしかお目に掛かれない奏者との会話は楽しいものでした。