会長のコラム 105
9月5日から1週間の予定で中国に行ってきました。この旅行は、私の父親が逝ったとき世話になったお寺「一行寺」の住職の提唱で行われたツアーでした。お寺の宗派が浄土宗でして、法然上人が修行に行った寺、中国西安の「香積寺」を訪問する事目的でした。
この「香積寺」は、中国の北西都市、西安市にあります。そして、ここ西安はシルクロードの始点であり、三蔵法師がここから出発しここに帰ってきた地、そして持ち帰った経典を翻訳した地であります。また、空海が密教の教えを請いに訪れた寺「青龍寺」がある事も特筆すべきであります。日本の仏教の原点となる地を訪問する事に、お寺「一行寺」住職の目的でありました。
我々参加する檀家一同、折角中国に行くのだから、桂林に寄ろうと言う事になって、旅程を延長して観光旅を織り込んでの旅立ちでした。
私の中国訪問は、神奈川県との友好都市である、瀋陽を県の関係部署の方々と訪問して以来のことで、そのときは上海空港が出来たばかりのやっと運営している状態でした。それ以前のこととして、上海や青島に測定機器の納品、設置、メンテナンスのために中国を何度か訪問していまして、その時の人々は、民服を着ていた時の事でした。
ここ10年の中国の近代化のスピードの凄まじさは、仕事を通じ、また現地に法人を作った人達の話から、想像はしていたものの、この度実際に目の当たりにしてみて、その発展ぶりに恐ろしさを感じ得ませんでした。とくに、前回行ったときは上海の新空港が出来たばかりで、新しい設備に似合わない旧態然たる非効率な空港運営が印象でありましたが、今回の訪問では先進国並の運用となり、その管理体制に何か不自然さを感じつつも、それなりに形を成すものになっていました。
その様な背景での印象をお話します。今回の訪問で驚いたのは、バッテリー・自転車と称するオートバイそっくりの電動バイクの存在です。日本で見かけるバイクからエンジンとマフラーを外して、バッテリーとモータを載せ変えたようなもので、見たところ区別が付きにくいです。ドライバーがヘルメットをかぶっていないのが一つの特徴でしょう。聞いたところでは、このバッテリー自転車は、所謂自転車と同じ法的扱いとのことだそうです。ところが、このバッテリー自転車は、馬力があるためか2人乗り禁止ですが、5人ぐらい乗っていることもあります。しかも時速35kmほど出るそうで、これが雲霞のように移動する様は恐ろしい限りでありました。以前は、雲霞のように人が移動する様に驚いたのですが、これがバッテリー自転車に変わっていたと言う、時代の推移なのでありましょう。
今や我が国の産業界は、中国を抜きにして語る事は出来ません。桂林も西安も市内は自動車を意識した立派な道路が整備されています。しかし、道路は激しい渋滞によって、駐車場内を運行しているようで、自動車の機能を果たせない情況に至っておりました。
桂林は、観光によって経済が成り立っており、市民の60%は観光業に携わっているとの事でしたが、市内は観光客ではなく、現住民で溢れています。その観光業も何かピントが外れている様にみえます。雲霞が沸き出すようなバッテリー自転車、これほどまでの住民を養う行政も只事では有りません。観光業が豊富と云えども、この住民の為に仕事を作ってやる必要があります。その結果、客へのサービスは全てが非効率です。考えてみると、この人達が効率よく働いたとすれば、それに見合う観光客が今以上に増えて、この町はそれこそ立錐の余地も無くなります。世界の観光地に劣らない道路整備がなされていてもこの情況ですから、これ以上増えたらどうなるのか。この問題は、ここ桂林に限ったことではなく、中国全体の事のようです。この国の将来を予測するのは難しいし、我々企業人にとって中国を無視出来ないから厄介です。
観光地、桂林に付いてお話します。ご承知のように、ここ桂林には世界的な観光ポイントがあります。その景観を船による河下り(漓江くだり)をしながら眺めます。ガイドがここは20元札に印刷されたポイントですとか、サントリーのウーロン茶の広告に印刷された場所です、などとポイントを言ってくれます。この景観は墨絵そのものでありまして、つたない私の採った写真からも充分に想像して頂けると思いますが、これがこの世のものかと思うぐらいに素晴らしい景観であります。
この河下り観光は、昼食を挟んで行程が組まれており、昼食が出される時間には、主だったポイントを既に過ぎ去った時間帯に組まれています。前を行く船の船尾に厨房が見えます。多分、私達の船にもこの厨房があるのでしよう、見ていると食欲を削がれます。
その昼食が済むとお土産のセールスが始まるのですが、なにせ、観光船の中ですから逃げるわけには行きません、実に巧妙に仕組まれた行程に唖然であります。
大鍾乳洞への通り道メインストリート | 乗船場の物売り |
乗船場に居合わせた鵜匠 | 前を行く船の船尾の厨房 |
サントリー烏龍茶の景色 | 20元札に刷られた景色 |
観光船を降りると、ホテルへの帰り道お土産店に寄りながら、駐車場と化した立派な道路をチンタラとドライブであります。この交通渋滞は、観光バスが多いからではありません。現地住民の交通マナーの悪さと雲霞の如く湧いてくるバッテリー自転車によるものであります。
もともと、ここ桂林は水の都といわれ、湖の多いところでその面影が随所にあります。この湖を利用した、夜景観光船ナイトクルーズが観光コースとして仕組まれており、ディナーの後はこの夜景観覧のクルーズに案内されました。多分、船下りの観光客は全てこのコースに乗っ取って案内されるのでしょう。このクルーズですが、なんとディズニーランド的ショーでありまして、自然景観の鑑賞でも無く、パリのセーヌ川の歴史建造物をライトアップしたものでも無く、全くディズニーショーそのものでありまして、世界名所のレプリカショウであります。これは、昼間の感激が一瞬にして萎えてしまう企画、これまた中国流と言うものでしょう。「成金」丸出しのお粗末ショウには「ザ・中国」を感じ得ません。
ついでに、もう一つお粗末ショーを紹介しなければなりません。「雑技団」のショーであります。中国雑技団と言うから一瞬喜んだのですが、「それ本当か」との疑問が過ぎります。
このショウは確かに雑技団の演技が入ります。しかしそれは一部でありまして、バレーで綴るショーであります。そのバレーがお粗末、「トゥー」によって立てる踊り子が半分ぐらいしか居ない実にお粗末ショーでして、レコードによるアテレコは田舎芝居より粗悪、少なくとも「じんた」は生オケでありました。看板の雑技団は内容的に1割程度ではなかったでしょうか。この部分は確かに見応えがありました。
ここを訪れる観光客は、世界に二つと無い素晴らしい桂林の景観を鑑賞するために訪れた観光客です。ナイトライフは、大人を演出した洗練されたショーが欲しいところです。
せめて、中国の良質なお酒とツマミにて、そして飲めない人には、中国自慢のお茶で、しんみり過ごす場所の提供などが良いと思うのですが、彼らの文化に対するキャリアでは無理かも。せめて、この桂林の景観を末永く守ってくれる事を期待するものであります。
次に訪れた西安に付いてお話します。桂林空港から西安空港までの国内線を利用します、流石に、嘗てのようないい加減なフライトスケジュールではありませんで、先進国のそのものであります。多分、完成された運用ノーハウを含めて導入したものでしょう。新幹線のような事は無いようです。
日本仏教の原点を訪ねる事が、この中国旅行の主旨であります。しかし、何と云ってもここまで来て兵馬俑を見学しない手は有りません。西安到着日は、法然上人縁の香積寺を訪問して終わります。そして、翌日は午前中に兵馬俑を見学し、午後にお寺訪問と言う計画でありました。と言う事で午後は、お寺への表敬訪問となります。
中国のお寺は、過去、宗教弾圧の歴史なども有って潰されたお寺が多いと謂われますが、法然和尚が修行をしたここ香積寺は珍しく災難に会っていない数少ないお寺です。一行寺の副住職を伴っての訪問は、香積寺住職の歓待を受け、住職の自筆の経文を頂き参加者一同感激致したしだいでした。法然和尚を慕う信者にとって、和尚の足跡を偲ぶ事はこの上無い喜びと思うのであります。縁あって、興味本位で参加している私でさえ、法然和尚の尋常ならざる修行、そして、この時代に船に乗り、そして長い陸路の苦行を思うと胸の熱くなるのを覚えるから不思議です。
翌日の午前に訪れた、兵馬俑見学に触れたいと思います。既に色々なところで紹介されている世界的遺産の一つであります。ご承知のように、ここは、秦の始皇帝の墓所で有ります。そしてこの兵馬俑は副葬品(物又は建造物)と言う事であります。そして、その始皇帝の墓所は発掘されずに、未だ手付かずの状態で保護されており、盗掘にも合っていないとの事です。今後に残された大いなる興味と言う事ですが、残念ですが、私の生きている間は発掘は無さそうです。この墓所が盗掘もされていない、発掘調査もされていないと言うのが不思議であると感じるのですが、ガイドの説明によると不信者の侵入に色々なガードが仕掛けられており、落とし穴とか、自動発射する弓の装置などが仕掛けてあって、墓泥棒が寄りつけないのだそうです。
何れにしろ、私ごときが語る筋のものではありません。私のつたない写真を見て頂き、一般観光客でもここまで見る事が出来るという事、これは大変な事です。何と行っても紀元前の出来事ですから、これを見ていると「ローマの全盛時代と比較するとどうなのか」などと疑問が湧いてきます。そして、またの訪問の期待も沸くもの思います。
軍隊の攻撃態勢を表している | 一つ一つの顔が違うと言う |
兵馬俑を見学し、昼食に刀削麺料理を食べに行きます。中国旅行の場合、レスランでの昼食は極めてスピーディーでありまして、ヨーロッパの様に確実に2時間を消費すると言う事はないのが有り難いです。昼食を済ませて、「青龍寺」を訪問します。
ここは、空海が教えを請いに訪れた寺で、香積寺のような建物の跡は残っていませんで遺跡のみでありますが、現在では中国政府と日本の仏教団体の支援によって昔の寺がレプリカとして再建されています。それ故か、見るからにお金持ちの寺との印象であります。空海が教えを請いに訪れた地、それも法然上人よりも数百年も前にと言う事を考えると改めてその重さが身にしみると言うものでありますが、遺跡がレプリカと言う事を思うと、何か香積寺のような重さを感じません。
最後に、この旅行で特に感じた事を記してみます。中国旅行のお土産と言うと、何と言ってもお茶ですが、ガイドさんにお茶を買いたいと言うと、今の中国では金持ちが多くなって、お茶の生産が需要に追いつかず高価になっており、日本人が求める質のお茶は手に入りにくいとの事。さもありなんですね。昔、雲霞のように多かった人人、その人がいまではバッテリー自転車に変わり、3車線の立派な道路を埋め尽くすのですから、さもありなんと思ってしまいます。
船の乗り場や博物館の入り口近辺には、物売りが寄ってきます。ガイドさんが言うには絶対に買わないようにとの事、彼らは物を売ることよりも財布の出所を複数の人間がみているとの事、万一財布を取られて警察に行っても、既にスリ達と出来ているから時間の浪費以外に何も無いとの事でした、世界の金持ち国がこれですよ。
堂々と信号を無視する車があります。ガイドさん曰く、官吏の偉い人だそうで先進国ではパトカーの先導無しではあり得ない事です。庶民は、役得を振りかざす官吏に相当の反感を持っているようです。
変化といえば、何時出発するか判らなかったような国内航空も国際基準となり、大きな進歩に改めて感じるのですが、それでも国際線への乗り換えなどは何か不自然さを感じます。帰国便での事です。西安空港から成田直行便と言うことで、西安にて出国手続き、セキュリティーチェックを済ませ、空港待合室には免税店なども在って、普通の先進国並みの国際空港でありましたが、何と、上海で機材の入れ替えと言うことで一旦機外に出るのですが、これが再び出国手続きとセキュリティーチェクを行うのですから、予想外の仕打ちとしか言い様が有りません。これには、大変不満でありました。しかも、免税店で購入した3本のスコッチにまで理解出来ない言葉で、クレームを巻くし立てられ、挙句の果てに、物欲しそうなその目つきを向けられのだから、これは何たる事か。これが、金持ち国になったこの国の実態なのか、当然知らぬ顔のドンベーであります。
この国の将来は、どうなるのかと思うのですが、世界第二の金持ち国ですから、余計な心配とも言えますし、大きな問題を孕んでいるとも云えます。行く先短い、我が身としては余計な心配と言う事であります。
コラム105の追記とお詫び
本コラムに付いての記事ですが、文中に誤りがありましたので深くお詫びいたします。(2012.2.8)
文頭から「お寺の宗派が浄土宗でして、」以降の文
誤:法然上人が修行に行った寺、中国西安の「香積寺」を訪問する事目的でした。
正:開祖法然上人に影響を与えた善導大師(中国の5世紀ころの僧)を祀った寺で、浄土宗のルーツとも言える中国西安の「香積寺」を訪問する事が目的でした。