会長のコラム 049
毎年スイスのルッツェルンで開催される音楽祭に行って来ました。スイスには何度か訪れていますが、ルッツェルンは初めてで、素晴らしい景観の町と言われており心ときめくものが有りました。
ここルッツェルンは、国際空港のチューリッヒから70kmくらいのところで、車で一時間程度のところです。チューリッヒから鉄道で行く事も出来ますが、私の場合は時間の節約と不慣れな土地感もあって車での移動でした。町中に音楽祭の会場を示す看板と言うかモニュメントが点在しており、音楽に限らない催し物があったりで、音楽祭の雰囲気が煽られます。
9月5日にここルッツェルンに入りますが、当日は市内探索です。ここは、ドイツ語圏で私がイタリアから継続してアテンドをお願いしている、ソプラノ歌手の由子さんは一寸戸惑い気味でした、イタリア語を話す現地の人がいると急に元気になる様子からも、スイスと言う国は本当に不思議な国で、イタリア語、フランス語、ドイツ語、の3カ国語が公用語だそうですが、これ程までにこの地でイタリア語が通じない不思議さを感じます。
私の音楽祭は、翌9月6日のマチネの「DEBUT-7」と言うセッションから聞く事になります。この日は、このマチネと夜の協奏曲の二つのセッションがありまして、マチネの方は石坂団十郎のチェロ演奏、夜が諏訪内晶子とフェスティバルオーケストラによる協奏曲が催されます、まるで日本デーのようなこの日ですが、諏訪内の協奏曲コンサートは選曲がマニアックな現代もので私は敬遠しました。
石坂団十郎は、ご存知、今、正に人気が沸騰しつつある奏者です。当日の演奏曲目はシューベルトのアルペジオーネソナタとベートーベンのチェロそなたでした。会場はカジノで、なかなかの良い音響効果と良い雰囲気で、音楽祭期間中に此処で行われるコンサートはいくつか有ります。収容人員は400人程度でしょう、じっくりと音楽を聞かせる雰囲気で、マチネにふさわしい会場でした。
ここでの団十郎の演奏は実に素晴らしく、その音量は伴奏に使われたシュタインウエイのフルコンサートを圧倒していました、流石にストラディバリウスの名機と彼の演奏力によるものでしょう、会場は興奮の渦で鳴り止まぬ拍手に何度も舞台に呼び戻され、アンコールのサンサーンスの白鳥の選曲も絶妙なタイミングで素晴らしいものでした。ピアノ伴奏は、Markus Schirmerで私の知らないひとです。ちなみに、このストラディバリウスは日本音楽財団から貸与されたものと聞いています。
何時までも心に残る演奏の後に会場を出ると、そこには雪を冠したアルプスの山々を背にした白鳥の遊ぶ湖が迎えてくれると言う趣向です。
この絶妙にバランスはルッツェルンならではのものでしょう。日を浴びたテラスレストランで遅い昼食を採り、今夜のワインを考えつつ優雅な時間の経過は何にも変え難いものでありました。
さて、翌9月7日は、私にとっての「ザ・ルッツェルン音楽祭」です。ダニエル バレンボイムの指揮ウイーンフィルハーモニーのコンサートです。演奏曲目がモーツアルトの交響曲5番、そしてブルックナーの交響曲4番でした。会場は当音楽祭のメイン会場であります、ルッツェルンコンサートホールです。
入り口正面の写真を撮りました。普段は、ニコンのD-200を持ち歩くのですが、世界に冠たるコンサートにこのでかいカメラを首に提げるのは流石に気がひけまして、コンサート周りの写真はパナソニックのルミックスでの撮影です。
コンサートホールは、ルッツェルン中央駅の隣で湖と駅に挟まれた場所、湖に面しています。会場に隣接する桟橋には、湖畔のホテルや別荘から特別に仕立てられた船で来場する観客がぞろぞろと、この写真はコンサートホールのポワイエから採りました、見て下さい、正装した金持らしき聴衆が続々と舟を降り立ってホールに入ってきます。私はと言えば、ホテルから歩いて来ました。
これ程のコンサートです、切符を手に入れるには随分苦労をしたようです。と言うのも私の場合、アテンドをお願いしている由子さんの音楽関係のコネでチケットの手配をお願いしていましたが、やはり平土間席は無理で、3階の正面ガレリア席だったわけです。しかし、前にもお話しました様にこのガレリア席は抜群の音響で特に今回は正面と言うことでしたので、またまた新しい事を発見しました。
前に、イタリアのベッリーニ劇場でのガレリア席で経験したと同じ「音」に出合いました。それはレコードで聴く音やNHK3チャンネルのN響アワーで聞く音に含まれている聞き覚えのある「音」です。よく考えてみると、オーケストラの床は演奏時には大きく鳴っています。これはオーケストラの練習場所で経験することですが、通常コンサートホールの平土間席ではこの床の鳴きは聞こえて来ないのではないかと云うことです。
録音時のマイクの設置場所は、人間が聞く事の出来ない場所に設置されます。しかしガレリアでの音は正しくこのマイクの設置位置に限りなく近いと言うことが言えるのではないでしょうか。
ルッツェルコンサートホールの私の席から採った写真です。
如何にもストレートに良い音が飛んでくる気配を感じませんか。当日は、ウイーンフィルの音が実に良く響き、此れがウイーンフィルの「音」だと改めて思い知る事でした。しかし、コンサートマスターが誰であったか、この席からの確認は無理ですが、キッヘルさんでなかった事は確かです。
「よこはまみなとみらいホール」のガレリア席は如何なんだろうか、興味の湧くところですが、コンサートマスターの表情を見ながら演奏を聴く楽しみは、このガレリア席では無理です。それには、やはり高いブレミア価格を払うかかコネが必要です。演奏者の表現を観つつ、と言うのも、コンサートの楽しみの一つである事も改めて知り得ました、しかし、ガレリア席の音の良さには改めて納得するものがあります。「今更何を、そんな事判っている」と仰る方、どうかお聴き流し下さい。
さて、10月は大変です、ベルリン国立オペラ劇場の引越し公演が3演目、チェコ国立オペラ劇場の引越し公演が2演目、国産オペラの新国立劇場がシーズン開始のタンホイザーとフィガロの結婚の2演目で都合7本のオペラ観劇、更に神奈川フィルの定期と石川雅子さん主催のパノハ弦楽四重奏団の演奏会と続きます。何とその費用が家内と二人で60万円近く掛かるから大変です。そこにNHK音楽祭で海外オペラ劇場の來日です。日本程オペラ公演の多い国は無いのでは、こんなにオペラファンは金持ちなのか、或いはファンが多いから問題ないのか。せめて、均等化しての来日を願っています。
次回以降は、今回の旅行でルッツェルに入る前にフィレンツェを中心にトスカーナのワインヤードを巡って来ましたので、その様子や、10月のオペラ観劇のレポート等、コラムの材料が豊富です。お楽しみにお待ち下さい。