会長のコラム 062
・バッハ・フェスティバル その3 ファイナルコンサート
バッハ成長期の重要な地であるヴァイマルを後にして、私達は陸路ドレスデンに向かいます、バッハが始めてドレスデンを訪れるのは32歳の時で、ケーテンの楽長になった時期でもあり、既にオルガン奏者としてその名を馳せていた時期であります。私達の旅もここに至るまでバッハ成長に伴う町を回って来ましたが、詳しくは加藤浩子著「バッハへの旅」を見ていただく事にして、ここドレスデンに付いて記したいと思います。
私の記憶に残るドレスデンは、ドイツの頭脳と言われたドレスデン大学であります、それはバルクハイゼン博士や日本の八木秀次博士の現代電子技術の重要な技術が確立された地である事です。ドイツの頭脳と言われたドレスデンは第2次大戦で徹底した爆撃によって破壊され、東ドイツに組み入れられたのはご承知の事です、その後の統一ドイツとなったその年に、私はドレスデン大学を訪問する機会があり、立ち寄った思い出の地であります。
当時、瓦礫のまま殆ど手付かずであった町は、完全に復元され、聖母教会、王宮、そして国立オペラ劇場などが元の位置に、そして元の形に復元されており、ドイツ人のすごさを感じてしまいました。
その国立オペラ劇場ですが、昨年この劇場が日本に引越し公演し、話題の森真紀の出演などで記憶に新しく、今回この本拠地で観劇する意義は私にとって大きいものでありました。また、ここの音楽監督がN響でお馴染みのプロムシュテットであった時代に名演奏がLPレコードとして残されており、特別な想いも有ります。そんな訳でここでの、プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の観劇は特別な期待が有ったわけです。当日の出演者に付いては、私の知らないひとばかりでしたが、多分国立劇場の専属歌手陣によるものと思われ、この劇場のエキスの様なものを見せてくれるのではないかと期待しました。
さて上演されたオペラですが、私は、オーケストラと歌手陣の纏まりと言うかオペラとしての纏まりは流石と思います、安かろう悪かろうの何処かの国のオペラとは違いを感じ、私にとっては意義有るものでした。ちなみに、引率の加藤先生は歌手陣のレベルと出来栄えに不満を言っておられました。
そして、次の週の出し物はベルディーのオペラ「リゴレット」が予定されており、なんと今最大の人気テノール歌手のフローレスの出演が予定されていました。当初、私はこちらを観劇するツアーにも連続して参加を予定していましたが、6月のひと月の大半を費やす旅行には体力と時間の都合で残念な思いを残しつつ諦めましたが、ドレスデン・シュターツカペレの観劇は生涯の記録に残るものでありました。
ドレスデンに2泊して再びライプチッヒに移動し、フェスティバル最後の3日間をこの旅行の最終として過ごすことになります。私達は、フェスタのコンサートの合間に近くの都市「ハレ」と「ケーテン」に小旅行します、ここはバッハに縁の地でありますが、ヘンデルの生まれ育った地でもあります。詳しくは前出「バッハへの旅」をご覧下さい。ここでは、オルガンを弾かせてくれると言うサービスまで有って楽しいひと時でした。
さて、何といってもラスト・コンサートの「ロ短調ミサ曲」に付いて語らなければなりません。この曲は、バッハがここトーマス教会のカントールを勤めていた時に書かれたもので、このフェスタにおけるラスト・コンサートの定番であります。この曲がこの教会で、フェスタ・ラスト・コンサートとして演奏される事が如何に意義あるものかご理解頂けるでしょう。
しかもこの曲が、バッハの作品の中でもマタイ受難と並び名曲中の名曲である事は改めて言までもなく、それだけ、この曲が一般的に演奏される機会が多いし、名盤といわれるレコードも多く存在します。
当日の私の席は平土間で舞台の下から少し祭壇方向に寄った真ん中で、先にも触れましたように教会が求める効果が最も良く出る場所で、私流に言うと最もすり込まれやすい場所でした。とにかく、凄いです過去に聞いてきたロ短調はなんだったのか。この特殊な音響効果に付いて、私も含めて色々解った様な事を言ってみたくなります、しかし私は「だから何なんだ」と言ってしまいます。この効果を生み出す目的は大衆への布教の為のツールとして、発展して来た訳で、永い年月を掛けた宗教と芸術の結晶であると思います。
そして、その目的は、パーフェクトといわざるを得ません。過去に私が聞いた最高のロ短調は、松本のサイトウキネンフェスタに於ける小沢征爾サイトウキネンオーケストラによるロ短調ミサ曲でした、しかしここでのロ短調は次元が違います。バッハは教会での演奏を想定して作曲しているわけです。
コンサートホールで聴くロ短調はなんだろう、と思うほどの違いに当惑してしまいます。私の思うに、これはバッハは宇宙的な偉大な音楽家であったのではないか、後世の優れた音楽家たちがさまざまな解釈で演奏出来る抱擁力が有ったのではないかと素人的に思い至るのです。
また、機会を見つけてロ短調ミサ曲を聴きにトーマス教会に再度行きたいと強い希望を持って止まない病気になってしまいました。
そして、更に興味深いのは、マタイ受難曲です。この曲の合唱部はご存知の様に2重合唱と言う作曲構造になっていますが、これがこのトーマス教会の構造に合わせて作曲されたと言われていますから、想像するからに凄い麻薬なのではないでしょうか。
当日の演奏者を下記に記しておきます。
ソプラノ : | ドミニク・ラベッレ |
アルト : | アンネッイ・マルケルト |
テノール : | ジェームス・テイラー |
バス : | ヨルク・フェリックス・シンペール |
合唱 : | RIAD室内合唱団 |
管弦楽 : | ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン |
指揮 : | サー・ロジャー・ノリントン |
ドレスデン・スターツ・カペレ この右側にエルベ川、左が王宮庭園 |
トレスデンを流れるエルベ川 この左側がスターツカペレ、カメラの後ろ側が中心街 |
・旅行後記
ユーロが高くてヨーロッパ旅行は大変です、ホテルでの交換レートは0.53とありました、今後益々高くなるでしょう。
フライト料金が高くなったこともあって、費用を〆てみると私達夫婦の出費は300万円をゆうに超えていました、秋に予定しているフランスのトゥールーズオペラへの旅はもっと高くなりそうで憂鬱です。
この旅行記を書いている間に、東北方面の当社のお客様を訪ねる機会が有りました、この方はジャズを主に聞かれる方ですが、この地方はジャズが大変盛んで、一関にあるジャズ喫茶「ベイシー」がその中心的存在です。ここを含めて、次回はジャズとオーディオに付いて書いてみたいと思います。