会長のコラム 193
9月のコラムです。
気持よさを感じる風、初秋となりました。毎年のこと各オーディオ雑誌社が行う、今年発売の商品から優秀作を選ぶ選考の季節となります。今年も、当社らしい新商品の計画を以て対応する予定で、プレゼンテーション活動に追われる季節を迎える準備に忙しい昨今です。皆様方には請うご期待であり、今年も宜しくご支援をお願いする次第です。
私事ですが、昨年の7月に不整脈の手術をして、1年間の経過診察を継続して来ました、おかげで、不整脈は改善され通院無用を言われ無罪放免となりました。代わりに、先のコラムに書きましたが、固焼きの美味しいバケットを食べて歯を欠いてしまい、歯の主治医曰く「これどうにもならないよ、覚悟決めて任せろ」のご託宣に週1度の通院が取って変わっています。その他、脊柱管狭窄症で月一回のペインクリニック、血圧調整の診察に月1回循環器系の医者に、と言う事ですが、年寄りの定番たる糖尿、前立腺、癌と言う疾患が無いだけハッピーであると感じつつ、恵まれた生活環境に感謝であります。
最近のデジタル・オーディオ商品には、デジタルならではの特性を生かしたものが発売され大変良い傾向であります。たとえば、デジタル・ウォークマンなどは入院した時など欠かせませんね。アナログでは絶対出来ない用途の商品です。このような傾向は、歓迎すべきことであり、「デジタルだから音が良い」とか「ハイレゾだから音が良い」と言ったようなキャッチフレーズも少なくなったように思います。
デジタルにはデジタルの長所があり、デジタルだからとかアナログだから、と言う言い方は、音楽芸術の表現ツールとして、音楽を楽しむファンの機器選びに誤解を招く結果となり、売り手の都合ばかりの主張は良くないと考えます。「友達が言っているから」と言うのを鵜呑みにするのも同じで、自分の体験からその友達と議論する、これもオーディオの楽しさを助長するのではないでしょうか。
私は、人間の作る工業製品に生の音楽を再現する事など出来る筈は無く、如何に「らしく」表現するかが使命と言い続けています。ならば、何を以て「らしく」なのか、それは聞く人の感性であり、人生感であり、哲学と考えます。だから音楽を表現するツール選びは、自分の感性が大事であると言うこと、音楽家の楽器選びと同じと考えます。それに手を貸さない行為は、我々の事業発展を自縛する行為と思うのです。
良いオーディオ機器の選定に当たっては、購入目的で自室に借用し、自分の部屋で聞いてみることが肝要であります。特にスピーカーは、部屋との相性が避けられません。借用したら最低1週間はいろいろなソフトを聞き、自分の感性と相談することです。ちょっと聞かせて、勧めて、すぐに持ち帰るようなセールスマンは問題です。
この点については、我々もお客様のご要望に従うべく努力していますが、過去にこんなことを経験しました。試聴にお貸しした機器に勝手に手を加えたり、貸出中にご本人が突然ご逝去され、ご遺族が売却してしまった、と言う事例が有りました。それでも、機器の選定には試聴と言うプロセスは欠かせませんから、我々は事故を未然に防ぐべく対応に努め、納得していただく努力を続けています。
さて、今月の音楽ライフです。
9月8日土曜14:00 開演でみなとみらいホールに神奈川フィル定期演奏会へ行ってきました。当日の指揮者が 小泉 和裕 、コンサートマスターが﨑谷直人、演奏曲目が、前ステージがブラームス交響曲3番、後ステージが R.シュトラウス 交響詩「ドン・ファン」と「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」の2曲でした。
指揮者の 小泉 和裕 は既にお馴染みであります。カラヤン国際指揮者コンクールの第3回に1位入賞し、ベルリンでデビューして、国際的に活躍している指揮者です。
当日演奏のブラームス交響曲3番は、第三楽章に映画に流用された銘旋律がありますが、全体的に難しく感じる曲で、勉強不足の音楽好きの私には、積極的に聞きたくなる曲ではありません。しかし、専門家筋には極めて評判が良く、優れた作品として評価が高く、私もレコードはあれこれと能書付きのレコードを持っていますが、癒しを求めて聞くことは滅多にありません。所詮、勉強不足の音楽好きの域であり、定期演奏会ででもなければ聞くことは稀です。時間的に余裕が出てくる筈の私の近い将来、夢中になる気配を感じています。
後ステージの R.シュトラウスの曲は、素人受けもするし、専門家の受けも良い、これぞクラシック音楽の定番でありましょう。しかも生演奏ならではの曲であります。
話はそれますが、定番と言えば、ベートーベンの右にでる作曲家は無いでしょう、専門家にも素人にも圧倒的な支持を受けています。しかも、クラシック音楽の入門用としても適材であります。一方のブラームスですが、メロディー・メーカーとしての作曲家であることは間違いありません、バイオリン協奏曲やクラリネット5重奏などにその優れた面を伺い知ることが出来ます。しかし、あまりにもベートーベンを気にし過ぎた結果、近寄りがたい存在となったのではないか、素人の私にはそう思いつつも音楽の面白い側面を感じます。
9月12日水曜 15:00開演で上野東京文化会館にローマ歌劇場の引っ越し公演、ヴェルディー/椿姫の公演に行ってきました。そして、9月20日にはマノン・レスコーの公演がここ文化会館にて行われ行ってきました。
引っ越し公演と言うのは、建物だけの違いで公演の内容はすべてローマ歌劇場であると主催者のNBSが言っております。正しくその通りで、新国立劇場で公演される「椿姫」とは一味 二味の違いを感じるものでした。
ヴェルディー/椿姫の公演募集の開始当時は、父ジェルモン役に レオ・ヌッチの出演とうたっていましたが、早い時期とは言え出演キャンセルとなりました。NBSは、3年単位に公演目を企画し、私はこの3年分の席を纏めて購入します。チケット購入時は、当然にレオ・ヌッチの出演を期待し、早い時期に支払を済ましていましたから、これには、面白くない気分が走りました。ヌッチは、イタリアの人間国宝的な人なのです。そして、このローマ歌劇場の現在は、往年の実力に及ばないとの声も聞こえていましたから、余計な心配が浮かぶと言うもの、しかしキャンセルはオペラ公演に付き物、そこからドラマも生まれる事度々ですから仕方ない。
さて、当日の演奏です。序曲から第一幕の終わり迄の間、約30分で休憩となります。この最初の幕は出だしがスッキリしない。しかし、第2幕になるとオケも歌手もすっかり様子が変わり、別人のように乗って来るのです。「これは新国立劇場とは違うぞ」との思いが走ります。まずもってイタリアの風、スメル、気迫、言うなれば空気感、が違うのを感じ取り、これには説明のしようも有りません。
当日の出演者です。指揮が、ヤデル・ビニャミーニ、 この人はミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディー交響楽団のクラリネット奏者からレジデント・コンダクターになった人で、スカラ座、ローマ歌劇場などイタリアを中心に活躍している指揮者で、骨の髄までイタリアオペラの人です。そしてローマ歌劇場管弦楽団、ローマ歌劇場合唱団、バレエ団であり舞台装置に至るまでローマ歌劇場製であります。
当日のキャストです、ヴィオレッタがフランチェスカ・ドット、この人はイタリア生まれ2012フェニーチェ歌劇場でプッチーニ/ボエームのムゼッタでデビュー、現在ヴェルディー歌いとしてイタリアでの人気歌手です。容姿と言い、声と言い、椿姫にはうってつけ、舞台栄えは見事でありました。問題の父ジェルモン役は、アンブロージョ・マエストリ この人はヴェルディー没後100年の公演でムーティーの指揮のもと絶賛を博してブレイクした人、ヴェルディー歌いとしてイタリアで人気の歌手で、聞きなれたレオ・ヌッチよりも良かったように思います。
今回の引っ越し公演は、ヴェルディー/椿姫がここ文化会館で4回の公演です。そしてプッチーニ/マノン・レスコーが、ここ文化会館で2回、改装なった神奈川県民会館で1回の計3回の日本公演となります。大変豪華なNBS の企画公演であったと言えましょう。チケット料金の高いのは仕方無いか。
次に、9月20日木曜 15:00開演のローマ歌劇場引っ越し公演、プッチーニ/マノン・レスコーの公演についてです。
プッチーニが、このマノン・レスコーと言うオペラの作曲に取り掛かるとき、既にマスネの作曲により、オペラ/マノン・レスコーとして、パリで人気を博していたと言います。プッチーニを支援していた楽譜出版社のリコルディーは、危険が伴うから止めたほうが良いと忠告したと言います。しかし、プッチーニはこの作品に惚れ込み、忠告を無視して進め、その後に起こる問題解決などに、リコルディーが取り纏めたと言います。プッチーニにとって、3作目の作品であり、成功作品の1号となります。リコルディーは、プッチーニの経済支援を含め相当に惚れ込んでいたと思います。
ヴェルディーもリコルディーに支援されていましたが後輩のプッチーニにもその支援が及ぶのが面白くないと感じたのか、プッチーニにはいろいろ嫌味を言っていたようです。
このオペラ題材には、プッチーニはよほど強く惚れ込んだようで、あまりにも曲が美しく観客を魅了し続けます。しかもそのストーリーは極めて悲惨なもので、この美しいメロディーが一層その内容を昇華しますから、見終わったときには疲労感が残りました。
トスカ、ボエーム、トゥーランドット、マダム・バタフライとプッチーニの名作オペラは、全てハッピーエンドでは在りません。このマノン・レスコーは中でも極めつけの悲劇と言えましょう。
当日のキャストです、美人でなければならないタイトロールのマノン・レスコー役は、クリスティーネ・オポライス、この人はヨーロッパとアメリカの世界中のオペラ劇場に出演するソプラノ歌手で、特にプッチーニのようなスピントを求められる役に最適な人であり、何といっても美人でスタイルが良い、打って付けの役柄にこの人は欠かせません。
騎士デ・グリュー役がグレゴリー・クンデ、米国生まれながら米国をはじめヨーロッパと世界的に活躍するひとで、今回の来日直前にはこのデ・グリュー役をバルセロナで演じていたと言います。
このトップクラスの歌手たちが演じるオペラ/マノン・レスコーです、これ以上の悲劇は無いであろう、その上、更に追い詰める歌唱と演奏、これはもうたまりませんよ、疲れと痺れを同時に感じる、当然かもしれませんね。
9月17日みなとみらいホールにて、華麗なるコンチェルト・シリーズと題した長谷川陽子と神奈川フィルのコンサートに行ってきました。
チェロの長谷川陽子は、桐朋学園大学音楽部の准教授を務めるひとで、コンクール入賞歴の多い人です。当日は神奈川フィルとの共演で、ブルッフ、ドヴォルザークのチェロ協奏曲を演奏しましたが、大変なテクニシャンと見ました。満席のみなとみらいホールの聴衆をしっかりとらえて、定期演奏会には無いリラックスしたコンサートでした。
当日の神奈川フィルのメンバーは、定期演奏会の構成と違っていて、コンサートマスターも外部からの招待コンマスであり、各パートの首席も殆ど不在、指揮者も神奈川フィルの前任副指揮者でした。
長谷川陽子のチェロをフューチャーする、チェロ・コンチェルトですから、これで良いのでしょう。確かに超絶であり、郷愁であり、チェロ奏者の実力を知る良い機会を体験しました。