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colums会長のコラム

会長のコラム 191

 7月に入ってからの気象も変ですよ。異変は日本だけではないようですから、地球温暖化現象かも知れませんね。梅雨明けを宣言した気象庁もバツが悪いなどと言っている場合で無い、何とも言いようの無い西日本の状況には唯々お気の毒で、頑張ってくださいとの声掛けだけ、毎度、策の無いのが悲しい。
さて、前回のコラム190で取り上げたスピーカーに付いての続きであります。私がチャンネル・アンプ方式以外にアマチュアの求める究極は無いと言う結論に至る過程を述べるのですが、その前に私のスピーカー遍歴に触れなければなりません。しかし本件は、私の自慢話でも無く、誇張の表現でもないことご理解ください。
高校時代は、親のすねかじりで小遣いだけの買い物です。シングル・コーンの三菱P-610 を自作の箱に入れたもの、それもみかん箱の様なものでした。当時は、やがてステレオ放送が始まる前夜で、このP-610がステレオの威力を発揮します。今聴いても、音場定位に優れ、ステレオ再生に優れたスピーカーであった事を改めて思います。しかし6.5吋(6半と言う)ですから帯域は狭くパワーは入らない、問題は多いのですがノスタルジアの感情は抜けずに、未だに大切に保管しています。
社会人になって、アルテックのA-7、A-5、タンノイのオートグラフ、そして現用でもあるマッキンのXRT-20へと遍歴しています。そして、現在の試聴環境は、XRT-20を設置したAV兼用の試聴室、ハーベスHL-5を設置した30数㎡弱の小部屋、フランコ・セルブリンのアッコルドを設置した書斎、会社試聴室の B&Wの 800D3(昨年JBLエベレストから替えた)、そして拙宅の12畳-石井式試聴室には、このチャンデバを擁した3.1チャンネルのチャンネル・アンプ式システムをセットしてあります。このシステムは、音楽再生に向き合う、私の哲学に極めて近いものであります。
現状に至る間は、只々音楽を聴くことによる、自分流の音を求めてスピーカー遍歴を続け、周りの人たちは呆れていました。スピーカーとは、そう言うデバイスだと思い込んでいたのです。それが後年、光悦(武蔵野音響)の故菅野社長の仕事に関わるようになって、音創りに自覚してからと言うもの、音楽鑑賞に追われる私のスピーカー遍歴に、深く反省させられることになります。
カートリッジの特性測定で関わる事になった故菅野社長は、物理現象に付いての疑問を浴びせて来ます。その菅野社長も、チャンネル・アンプ方式以外に術は無いとのお考えをお持ちで、後年はこの面でもお手伝いするのですが、常に進化を目指して居られました。
私もチャンネル・アンプ式しか術が無いと考えるに至るきっかけとなります。
電子回路技術者として私の意見は以下であります。スピーカーの構造は、ボイスコイルに信号を加えてコーン紙を振動させて音を出します。シングルコーンスピーカーは、一つのコーン紙を一つのボイスコイルで駆動し、低音、中音、高音の全ての帯域を一つでカバーしますから、アンプとボイスコイルの間は1対1で、ダイレクトに接続されます。しかし、シングル・コーンで広帯域をカバーするのは難しく、帯域毎に低音用、中音用、高音用のユニットを持った、マルチスピーカー方式へと進化するのは自然の理です。
一つのアンプで3つの帯域毎のスピーカー・ユニットを駆動するには、音楽信号を帯域毎に分ける必要があり、その働きをするのがネット・ワークであります。
このネット・ワークが、問題である事を前号で述べました。本号191では、これが物理現象に反する大きな問題であることをお話します。しかし、説明には、数式を持ち出さなければなりませんが、それではこのコラムを読んで貰えなくなるので、分かり易い言葉で説明することにしますが、内容には嘘でもない、誇張でもない、只々物理学の真実であることを信用して頂かなければなりません。
再生帯域を低音、中音、高音の3 Ch に分けるデバイスがネット・ワークです。スピーカーには必ずインピーダンスが表示されます。それが8Ωとしたとき、その8Ωという値は音楽信号の低域、中域、高域を受け持つユニットの帯域内の全てに当てはまる値ではないのです。
もうお分かりと思いますが、ここに矛盾が存在するのです。8Ωとして計算しネット・ワークを作るのは、アマチュアだけです。プロはどうしているのでしょう、その仕事はノウハウを駆使して、「カット&トライ」の仕事となり、そこには物理理論式は、成立しません。
加えて、ネット・ワークには位相変位と言うステレオ再生に致命的な問題要素もあり、それ以外にも難しい問題を秘めています。
前号でも記しましたが、最近市販されているフルレンジ・スピーカーは、技術的な矛盾に対応しつつも、各メーカーの明かせないノウハウの塊を持って対応し、それは我々の理解出来る範疇では無いのです。
前号で述べたように、最近のスピーカーの縦型傾向はアート・デザインの流行ではありません。音場定位を確保する手段の一つです。この形状は、キャビネットの容積を攻めますから、低音再生時の特性改善としてポート位置を色々工夫します、それによる弊害も当然出て来るのです。と言うことで、チャンネル・アンプ方式を推す意味を多少なり、ご理解頂けたと思います。
チャンネル・アンプ方式は、理論に適った手法であり、理論的に極めて素直に理解できることが私の推す理由であります。私のライフワークとして、そのキーとなるチャンデバの開発に取り組み、今年こそは新商品として発売に漕ぎつける予定であります。本コラム長くなってしまいました。ここらで、続きは次号とさせて頂きます。

7月の音楽ライフです。
7月1日 日曜 午後2時 開演でプッチーニ/オペラ「トスカ」の公演に新国立劇場に行ってきました。このオペラは、昭和45年前後にNHKが招聘したイタリアオペラの看板演目で、当時の旬の歌手達の出演には、今思うと、歴史に残る名歌手揃いの来日で貴重な公演であったことが思い起こされます。
若き日の「意気」盛んな時に観劇出来たことは、生涯の思い出となり、オペラ人生の基礎となっています。今回も、不思議と鳥肌の立つ思いに至ったのであります。
この作品は、オペラとしての出来映えが良く、オペラ史上最高のものと思います。劇中には、3つの名アリアがあり単独で演奏される機会も多いのですが、それ以上に全編に渡っての音楽とストーリーにスキが無く、オペラ入門として絶対的にお勧めの作品であり、生涯に渡って楽しめること請け合いです。
当日のトスカ役は、ソプラノのキャサリン・ネーグルスタッド、このひと米国生まれですが、ドイツ宮廷歌手の称号を授与され、現在ヨーロッパを中心に活躍するトップレベルの歌手であり、新国立劇場には初出演、よくぞ日本公演に出演してくれたと思うのであります。
カヴァラドッシ役は、テノールのホルヘ・デ・レオン、この人はイタリアで活躍している人気歌手でヴェルディー、プッチーニなどイタリアものを得意とする人で新国立劇場には、15年のトスカ公演にも出演しています。
スカルピア役は、バリトンのクラウディオ・スグーラ、この人もイタリアで活躍している人気歌手ですが、ヨーロッパやメトロポリタンにも出演し幅広く活躍している人です。このキャスト構成は、新国立劇場でなければ実現出来ない組み合わせと思います。
当日の演奏は、お馴染み東京フィル。指揮者がロレンツォ・ヴィオッティ、新国立劇場初登場であります。この人は、スイス・ローザンヌの出身、22歳でライプツィヒコンクールに優勝と言うキャリアで、現在ヨーロッパを中心に活躍している人です。

7月5日 木曜 横浜のライブハウス バーバーバーにて北村英治クインテットを聴きに行ってきました。北村英治は、2ケ月おきにここバーバーバーに出演します。前回コラムに5月のライブを載せましたが、その時よりは元気な様子で、まだまだ往年の北村さんでした。
当日は、会社のオーディオ事業に関わる社員を連れての観賞で、何時ものように PA をひかえたライブに好感を抱き、オーディオの音創りに参考になりました。
余談ですが、ここのステーキとパスタは美味しいです。それにワインが美味しくリーズナブルな価格、ライブ演奏も良いし食事も良いし、この幸せは何時まで続けられるのか、自分の加齢に、不安を感じる昨今であります。

7月7日 みなとみらいホール にて神奈川フィル定期演奏会に午後2時開演で行って来ました。指揮が尾高忠明、演奏曲目がプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲2番、ショスタコーヴィチの交響曲5番でした。
ヴァイオリンの演奏が、スヴェトリン・ルセフ、この人は世界的コンクールで優勝を重ね現在スイス・ロマンド管弦楽団のコンサートマスターを務める人です。プロコフィエフは20代の半ばに横浜経由でアメリカに渡り、30代にパリに移ってモダンな作曲で、時代の寵児となり、後年祖国ロシアに戻り1935年にこのV協2番を作曲したといわれます。
このV協2番は、ロシア風の歌謡調の哀愁を帯びたメロディーなどが感じられる曲ですが、時代の先端を行く作曲技法に変わり無く、若き奏者にピッタリであり、定期演奏会ならではの考えられた演奏会でした。
そして、尾高忠明の指揮するショスタコーヴィチ/交響曲5番、お馴染みの曲であります。何と言っても最後の晴れやかなコーダは、尾高の指揮も素晴らしいのですが、何と言ってもこの部分の曲の素晴らしさ、晴れやかさに心躍るのです。がしかし、ショスタコーヴィチの心境は如何に、意図は何か、謎は残るものの、文句を言う筋は全くありません。

7月19、20 の両日 午後7時開演で横浜みなとみらいホールの小ホールに、鈴木優人のチェンバロ弾き振りによる、神奈川フィル・メンバーの演奏会に行ってきました。
当日の演奏は、バッハのブランデンブルグ協奏曲を二夜連続、全曲演奏と言うものでした。大変ポピュラーな曲で、レコードも豊富に存在します。なのに、気がつくと、生演奏を聴くのは初めてでした。
この協奏曲は、全6曲からなります、そして全ての曲で楽器編成が異なります。それも全く種類の違う楽器ですから、それぞれの奏者を用意することになり、出演者も多くなるうえに、難しい技量も要求されるので、二夜で全曲演奏と言う公演は尋常でないことが良く理解出来ました。神奈川フィルのメンバーには、技量を備えた奏者が揃っていることと、指揮者の鈴木優人がそれを認識し、敢えて、演奏にこぎつけたと言うことと思います。
当日は、本番前のリハーサルを見学しましたが、奏者と指揮者のコラボレーション、奏者の技量などとの絡みを調整する過程を見ると、音楽が見えてくるのです。見慣れない楽器なども有って、なるほど、公演の少ない理由を納得しました。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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