Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 155

例年、松本市で行われるサイトウキネン・フェスティバルは、今年から「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」と名称が変わり、例年と同じ運営方針で開催されました。私は8/28のオーケストラコンサートAプログラムと8/29のオペラ公演に行ってきました。
毎年、チケットの取得でお世話になっている松本在住の柳沢源内さんが、脳梗塞で倒れられたとの知らせを受けましたが、多少の言語障害が残るものの日常生活や氏のライフワークである、タケコプター(実用1人乗りヘリコプター GEN H-4)の開発には支障が無いとの事で、今年も例年並みにお世話になってしまいました。しかも、我々現役時代の経営者仲間もこの機会に松本に集まり、柳沢源内さんを励ます会が開催され、総勢14名の集会となり、地元の源内さんは本来お客様である筈が、奥様を交えてすっかり幹事役を演じられて、我々が逆にお世話になってしまいました。私は当初、音楽鑑賞の為に8/28、29 の2連泊を予定していましたが、結局3連泊となり、経営者仲間との上高地観光が追加されました。
上高地には何度か行ってましたが、地元の柳沢さんの案内は初めてでした。上高地には帝国ホテル以外に好みのホテルは無いと思っていたのですが、今回は上高地に素晴らしいホテルの存在を知り、流石地元の人の情報は凄いと思いました。残念ながら、当日は雨で寒い天候のうえ、山並みはガスで見えませんでした。ホテルの名は伏せますが予約の取れにくいホテルで、ビーフシチュウが極めて美味しいレストランが有名との事、ここを知る地元の人はシーズンの終わり頃の観光客の少なくなった時期を見計らって来るそうです。これだけ美味しいビーフシチュウは、銀座や広尾と言えども私の知る限り有りません。その味は絶品であります。観光シーズン・オフの直前の時期に行く、そのタイミング、是非実行したいと思っています。そして、松本から沢渡に行く途中に地元の人が買いに行くと言う「おやき」の店も知りました。
さて、「セイジ・オザワ松本フェスティバル」に付いてです。毎年の事ですが、このフェスティバルの臍は何と言ってもオーケストラ・コンサートとオペラ公演と言えましょう。私は、オーケストラ・コンサートAプログラムとオペラ公演が28日、29日と続く予定で、当初より2連泊の予定で計画していました。
オペラ公演は、久々に小澤自身が振ると言う事で、期待していましたが、マエストロ小澤は、公演間際に風呂場で滑って転び腰の骨を痛めたとの事で小澤の指揮はキャンセルとなり、代役が ギル・ローズ に代わって演奏されました。交代が確定した時期は、全ての段取りが完成していた時期で、既に小澤によって演目は完成の域に達していたと思われ、当日の演奏には支障が無かった様に思います。しかし、小澤とギル・ローズでは格が違います。確かにこのギル・ローズと言う人はヨーロッパで活躍する中堅と紹介され、当日の演奏も異議を感じる様な事は有りませんでしたが、多くの観客は小澤を期待している訳で、チケット代金の一部5,000円が返金となり、之で一件落着と言う事で収まったと思います。
考えてみると、ここでのオペラ公演は、毎回、小澤の飛躍への実験劇場的な場と言われており、小澤色の強いものです。小澤不在は我々にとっても残念でありますが、それ以上に小澤の無念を考えると、成功の達成感を味あわせたかったと思うのは私だけではないでしょう。
オペラ公演は、ベルリオーズ/オペラ「ベアトリスとベネディクト」で演奏機会の少ないオペラです。その理由が、今回の公演でなるほどと分ったような気がします。音楽はベルリオーズですから悪い訳が無いし、ベルリオーズはメロディーメーカーですから各所に名旋律が散りばめられ素晴らしい作品です。しかし、ストーリーが全く面白く無いのです。要約すると、好いた男と女が、お互いに気位が高く意固地で中々結婚にこぎ着けない、この二人が「あゝでもない、こうでもない」と理屈を並べなかなか結婚しない、と言うのが筋書きの中心で世間に良くある話です。プログラムにある評論家の解説によると、破壊から始まる美学などと解説されていますが、私からすると素晴らしい音楽が先行して、音楽にストーリーを付けたと言う様なものに感じて、あれこれ言われても素人はそれ以上考えられません。だから、小澤の企画した思いなども聞きたいと思いますが、小澤にしてみれば、最高の環境で素晴らしい音楽をファンに聴かせたかったと言う事かも知れません。まあ、素人の嫌味とお聞き流し下さい。
公演順序と記述が逆になってしまいました。8/28のオーケストラ コンサートAプログラムは、キッセイ文化ホールにて19時開演で、ハイドン交響曲82番、マーラー交響曲5番でした。
このキッセイ文化ホールと言うのは、元々が、サイトウキネン・フェスティバル発祥のコンサート・ホールで、オペラもこのホールで公演されていました。
前ステージが、ハイドンの交響曲でチェンバーオーケストラ規模。後ステージは、大編成のマーラー交響曲5番でした。前ステージから後ステージに変わるとオーケストラメンバーはコンマスも含めて変わりました。一般のコンサートもそうですが、サイトウ・キネン・オーケストラに付いて言うとメンバーは大幅に変わり、豊富なオケ・メンバーを有しその規模を誇示しているかのようです。演奏は、何れも超一流でした。指揮は、お馴染み小澤カンパニーの副社長格ともいえましょうか、ファビオ・ルイージであります。
このマーラー交響曲5番は、生演奏で聴く機会の多い曲です。生演奏を聴くたびに新しい感動を受ける曲ですが、この日の演奏は格別凄かった。鳥肌が立ち通しで疲れましたが、心身共にリセットされ、新たな刺激で元気の回復でありました。生音楽は素晴らしい、なかでもこの日の演奏を聴くに及んで、オーケストラの演奏は無限の感動を生み出すものと改めて感じました。我々オーディオ機器の技術者は、この現実を骨身に染みて感じて貰いたいものです。そして、一地方都市の松本で、これだけ豪華なオーケストラが聴けると言う事を改めて有難くも不思議に感じるのです。ここ松本のインフラは、良いとは言えません。終演と同時に大勢の観客と車でごった返す様は、異状です。上野の文化会館などはアッと言う間に、人ごみが消えてしまいます。この豪華な公演を松本で開催する意義は、何かと考えてしまうのですが、高原の温泉地での音楽家の休養を考えての事か、環境の違いで受ける音楽の楽しみの味わい方か、私の場合は松本の友人に会える楽しみもあり、難しい事は考えない事にして、健康と経済的環境が許されるまで、続けて行きたいと思う昨今であります。
これで、コラム155を〆させて頂き、9月は芸術の秋であり、英国ロイヤル・オペラの日本公演、「オペラ/マクベス」と「ドン・ジョバンニ」が続きます。このレポートをコラム156としてこの後すぐにアップしたいと思います、続けてのご高覧宜しくお願いしつつ、ほんの暫く時間を頂きます。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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