Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 179

8月は、全ての定期演奏会関係が休みです。その分、オーディオに付いて存分に触れたいと思います。
当社も世間並みに8/11から8/20迄の10日と長いお休みを頂きました。ご不便をおかけした方も居られたようですが、ご勘弁のほどお願い申し上げる次第です。
この休み中に帝国ホテルで開催されたジャズ100周年を祝したジャズフェスティバルに行ってきました。8/15、16日の2日間に渡り、14:30から20:00迄の間、今活躍中の有名ジャズバンド、奏者をホテル内会場に集めてジャズの演奏を繰り広げるイベントです。
私が、この公演に引かれたのは、スインギー奥田こと奥田英人が率いるフルバンドの演奏です。このひとは、嘗てのブルースカイオーケストラを率いた奥田宗宏の息子で、父親の後をついで活躍しており、今では、世界的にも貴重なフルバンドの存在であります。そして奥田自身は、ドラマーでもありますが、親から譲り受けたオーケストラの指揮と音楽プロデューサーを務め、恵まれた人的資源を生かして、このフェスティバルのプロデュースを毎回務めています。
その舞台は、熱狂に続く熱狂で、奥田のプロデュースはパーフェクトと言えるでしょう。中でも、日野皓正の出演は見事でありました。この人のジャズ演奏に向ける熱意はいつもの事ながら流石と言うもので、奥田のプロデュースと相舞って、聴衆の乗りに乗じて、益々乗ってくる演奏はとても75才とは思えぬ情熱を感じ、好感のもてるものでした。
フェスティバルの1コマとして、こんなこともありました。バイブラホーン奏者、宅間善之が乗りに乗っての演奏最中のこと、我慢できずに傍のドラムセットに日野皓正が突然座り込み、宅間のバイブラホーンに付けてドラムを叩くのです。観客は大喜び、奏者の宅間も吃驚、世界のトランペット奏者が感極まって、ドラムを叩くのですから宅間は恐縮しながらも、更に乗ってくるのです。この興奮はたまりませんでした。
その場をつくる演出ともいえますが、ドラムセットは奥田のものです。アドリブもいいところ、日野皓正の個性と言うか世界に名を馳せるミュージシャンとはこう言うものなのですね。
来年もまた来るぞ!
会場は、天井も高く舞台も確りしていますが、座席数は1000弱程と思います。だから会場にはギンギンのPAです。私の席は、SS席で舞台から5列目、PAなど不要なのですがそうは行きません、PAの強い音の影響で、生音は聞き取れません。ほとんどPAの音を聞いている状態で、生音を求めることは叶いません。
昔キャバレー文化の華やかな時代のことですが、新宿の「クラブ・リー」に出演していた、スマイリー小原のフルバンド「スカイライナーズ」などは、ベース、ボーカル以外にPAを使っていた記憶は在りません。当時、有名キャバレーにはフルバンドの演奏は付き物で、バンドの特色を競っていました。今の業界の変わり様は寂しいかぎりであり、PAの進歩? でジャズ演奏では、生音の体験が遠くなってしまいました。

チャンネル・デバイダーによるマルチ・アンプシステムの構築に当たり、チャンネル・デバイダーに良いものが市場に存在しないことから、ライフワークの積りでチャンネル・アンプシステムの開発を進めてきました。
もともと、WE-22Aホーン+WE-555を中心にシステム構築を進めていたのですが、ステレオ音場再生が難しい現実に遭遇していました。それは、低音用のコーン型416ユニット、高音用のコンプレッション・ユニットとWE-22Aホーンの音源位置に1.7mの差があることが原因と解り、デジタル技術によるディレーなどを試みましたが、AD/DAの繰り返しは、求める「音質」には程遠いものでした。
結局、音源の距離合わせは、ユニットの設置位置の調整以外に今のところ術がないことが分かって、WE-22Aの大型ホーンのチャンネル・アンプシステムへの導入を諦め、位置調整の容易なショートホーンの使用にしたのですが、今でも心残りが有ります。

写真は、試聴室の現状です。WE-22A+WE-555は、フルレンジとして使用し蓄音機を想定した音創りを試みています。SPレコードの再生やSPからの復刻盤などに限った演奏と言う事になりますが、これがまた素晴らしい効果を発揮し、オーディオは楽しいものです。

スピーカーシステムは、我々回路技術者にとって異質技術でありますが、回路技術者の「サガ」でしょうか、ネットワークによるマルチ・スピーカーシステムは納得できないのです。だからマルチ・アンプシステムをと言う事になりますが、チャンネル・デバイダーに納得の行くものが市場に無い事を前記しました。
オーディオに携わる回路技術者は、理論先行し負帰還技術を駆使したアナログ回路やデジタル技術を駆使するから、音楽再生に適さない結果となっています。過去に言われ続けて来たことですが、物理特性が良くとも「音」が良いとは限らない、「音」が良いものは物理特性も良い、と言う格言を知らない者はいないはずです。それが何故繰り返され改善されないのか。単純に一言、携わる技術者は、生の音楽を知らないからです。
さて本題です、チャンネル・デバイダーに良いものが無い。この現状ではスピーカー・ユニットに何を持って来ても、それに寄ってマスクされ、優れたユニットに限って余計な音まで付加し、音色が付加されてしまいます。
我々の提案するチャンネル・デバイダーとメインアンプには、スピーカー・ユニットの音の差がマスクされずにピュアーに表現され、今まで体験した事の無い優れた音質を体験します。特にコンプレッション型ユニットは、反応が敏感であるために、前段から受けるマスク要素を極めて忠実に表現します。そのマスク要素が無くなるとユニットの特徴をもろに表し、構成する他のユニットとの相性が問題となり、手に負えない状況に立ち至ります。
チャンネル・アンプシステムに求める漠然と良い音の筈のものが、ユニットそれぞれの独自性をむき出しに主張します。
このユニットには、歴史的名機なるものが数多く存在し、神話をもつものが多々あって、その一つ一つが素晴らしい音質の特徴を主張するから堪りません。
我々の提案するチャンネル・デバイダーの開発は、マスキングのゼロを目指すものです。マスキングを除去すると、スピーカー・ユニットの自己主張が際立ちます、ウーファー、スコーカー、ツイター それぞれが優れた性能を主張して鳴り響くことを想像してみてください。我々にご協力頂いているモニターの方々からこのピュアーさに絶賛を頂いています。しかし、一歩間違えると「シッチャか、メッチャか」「何だ、これは」の状況となります。
例えば、ミッドレンジ用ユニットとして有名なものにJBL の375があり、ウエスタンにはWE-555 があります。どちらもウェスタン・エレが原点ですがこのコンプレッション・ドライバーは全く性格が違います。同じスピーカーシステムに組み込むことなど有り得ません。
と言うことで、我々がチャンネル・デバイダーを商品化するにもユニットによる組み合わせまで責任を負うことは出来ませんし、提案する程の経験を積むことも出来ません。我々が商品化を目指すチャンネル・デバイダーは、スピーカー・ユニットの特徴を際立たせる結果となり、システムの音質を決める、忠実なるデバイスとしての存在価値なのです。
と言うことで、我々は、パンドラの箱を開けてしまった心境であります。
コンプレッション・ユニットを帯域毎に重ねる作業の中で、私の求めるものは何か、「生音楽」などとは言いません。私の所持するユニットはウエスタン、ゴトー、エール音響、アルテック、JBL、フォステックス、パイオニア(TAD) 等で、その全ての機種では有りませんが、思い悩んだ結果の集積で、高価なゴミと化すものもあります。それでも私の知らないものや未経験のものが世に数多くあります。高価でなくとも、まだまだ優れたものが沢山市場には存在しますが全てを検証することなど出来ません。
つまり、我々の目指すチャンネル・アンプシステムのデバイスたるチャンネル・デバイダー、パワーアンプなどは、スピーカー・ユニットの性質をクリアーに、むき出しにする傾向があり、ここからが、マニア諸氏のスタートと考えるのです。
現用システムの写真を見て下さい。WE-22A ホーン+WE-555 スピーカーは、蓄音機の音を求めて、SPレコードの再生、SPレコード復刻盤再生用として使用しています。
そして、チャンネル・アンプシステムは、コンサートホールの「らしさ」を求めてサブ・ウーファを含めて4チャンネル・アンプシステムです。コンサートホールを彷彿とする再生音を奏でています。
チャンネル・アンプシステムは、マニアの期待が大きいものです。「生らしさ」を求めるとき、「らしさ」はその人の感性により決まります。だからデバイスを創る我々は、その感性を邪魔してはなりません。当社の目指す「ピュアー」は、第三者的価値を念頭に置いている所以であります。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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