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colums会長のコラム

会長のコラム 007

最新号のオーディオベーシック誌の記事として、最近の10万円台カートリッジの代表機種に付いての記載があります。それによりますと、「各社の音の傾向が近接して来ている」と言ういささか気になる内容なのですが、この事は、現代の計測技術や材料の進歩を梃子として「音」の真相を突き進めて行くと、同じ結果に収斂されると云う事の証ではないでしょうか。

EMTに代表される昔の名門機器とは明らかに音の傾向が違って居り、この違いを色々な表現でマニア諸氏が誌上で言い表します。「最近のものは音が細く、昔のものは音が太い」です。しかし、「太い細い」は本当にそうなのか、科学的に解析してみると、古いものは余計な振動がまつわり付いていて、それが太く聞こえたり、独特の音色が附加される原因になっています。

回顧趣味と言われようと「らしさ」を求めると言う事であれば、その人の感性ですから他人がとやかく言うものではないのですが、そのまつわり付いた振動をすっきりさせて改めて音楽を聴いてみる、そして生音楽との差を聴き比べてみる。この探求心を持ち続けないと、趣味とはいえ進歩がありませんので、やがては、その趣味も萎えていく運命になるのでは無いでしょうか。

話しを変えます、先日コンサート形式ではありますが、ベルリーニのオペラ「ノルマ」を聴いてきました。このオペラは、ソプラノとメゾソプラノに相当の負荷がかかり、二人のプリマドンナが必要とまで言われており、公演の難しいオペラの一つです。

今回は、ソプラノにエディタ・グルベローバ、メゾソプラノにヴエッサーリーナ・カサロヴァと言う現代求められる最高の組み合わせでした。それに、会場が東京文化会館ですから言う事なしなのですが、オーケストラの東京フィルハーモニーが、今一、ピリッとしなかったのが惜しまれます。

私には、このオペラ「ノルマ」に付いて、色々と思い出があります。以前、NHKが招聘したイタリアオペラシリーズで、ソプラノがエレーナ・スリオティス、メゾがフィオレッツァ・コソットと言う当時最高のコンビが来日し、この「ノルマ」を公演した時の事です。この時は、残念ながらスリオティスの体調が悪く期待を裏切られましたが、来日記念レコードを耳に蛸ができるほどに聴いていましたし、一方のプリマドンナ、コソットが最高潮の時期でしたから、興奮の連続で、スリオティスの不調など眼中に無かった事を思い出しています。

オペラ「ノルマ」の公演史上では、カラスのものが名演として語り継がれていますが、現在では「生」を聞いた人は僅かではないでしょうか。一方このスリオティスは、当時カラスの再来との前評判で、その意味では貴重な公演だったと思います。

スリオティス、コソットによる「ノルマ」のレコードは、イタリアオペラ来日記念盤として、ロンドンレーベルで発売され、初版の売れ行きが良かったのか、後日再販されています。しかし、その再販版の出来は悪く、セット箱や解説書の出来が悪いだけでなく、音まで悪いのです。

このコンビによる「ノルマ」のレコードは、イタリアオペラ来日前に、既に英国デッカから発売されて居り、その音はロンドン盤(来日記念盤)の初版より遥かに良く、俗に言う英国デッカの真髄といえる音で、出てくるお化け(隣接トラックの漏れ音)もご愛嬌です。

因みに、この三組のレコードは、私の最大の宝物なので、機会ある毎に、色々な人に聴いてもらっていますが、世の中には、同じマスターから刻まれる良い音のレコードを求めてコレクションしている人が居られ、私などがこの程度で自慢するのもおこがましい事を承知しています。この種のマニアが言うには、オーディオ機器に投資するよりも安い、と言って憚りません、私にはそれ程とは思いませんが、趣味は色々有って楽しいものです。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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