Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 182

11月のコラムです。今年発売の新商品2機種(10月のコラム181で紹介)は、各誌の今年度優秀賞表彰にて高位の賞に抜擢されました。MCカートリッジの昇圧トランス「T-2000」、メインアンプの「MA-1500」であります。
昇圧トランスをオーディオ機器として考えると商品の所属するジャンルは何か、感覚としてアクセサリーの様な気もする、と言う事で各誌の選者も「う-ん!」と思ったようです。
MCカートリッジの微小信号をキャッチアップするには、トランス程に優れたデバイスは有りません。半導体でも真空管でも能動素子は、微小レベルの帯域で直線性を確保するのは原理的に難しいのです。その点、パッシブ素子であるトランスは原理的に直線性を完璧にクリアーします。
微小信号レベルでの直線性が悪いと、例えばピアノ演奏時の打鍵後その消え行く響きなどは、生らしさの表現に大きな影響を与えます。試聴時などでは、この点にだけ注力してみるのも、音質判断の参考になるものです。
微小信号のキャッチアップにトランスが最適とは言うものの、微小信号を扱うことから、外部から受ける微小雑音や内部の微小なミスマッチの影響を受けやすいと言う瑕疵が生じます。これを嫌って「トランスはダメ!」との烙印を押すマニアの方が多くおられる事は、事実であります。
その点に改善を施したのが「T-2000」であります。改善策は、尋常な手法では解決しませんでしたが、必ず策はあるという強い思いから、開発を進め続けたのであります。その点を各誌の選者の方々から認められ、ジャンルの拠り所が難しかったにも関わらず、賞に報われたものと思います。とにかく一度聞いてみて下さい。ステップアップトランスとしては、少し大きいのが難点かも知れませんがアンプ程に大きくも無く、重くも有りません。
メインアンプのMA-1500に付いても各誌の選者の方々から絶賛を頂いております。本器は再度のご案内になりますが、WE-91Aアンプの呪縛から解きほぐされた無帰還回路の採用であり、パワー増幅部へのドライブはインプットトランスを使用するトランス結合回路であります。
トランスほどに優れたインピーダンスマッチングのデバイスは無いことに付いて、先にも触れましたが、理論的解析と受ける阻害要素を徹底排除することが成功の原点であります。

私ごとですが、今年7月に不整脈の手術として「カテーテル・アブレーション」と言う手術をしました。施術前の医師の話によると一度で治る確率は50%と言われましたが、今のところ何も後遺症は有りません。成功したかどうかは手術後の観察診断が必要との事で、11月には24時間観察の携帯心拍計を付けての観察を受けました。結果に異状は有りませんでしたが、データーの解析が必要と言うことで最終結論に至っていません。が、以前の様な自覚症状は無く極めて良好であり、オーディオ機器開発に、コンサート詣にと意欲満々であります。

今月のコンサートライフです。
11月16日 木曜19時開演で新国立劇場にてヴェルディ/オペラ「椿姫」の初日公演に行って来ました。当日は30分の休憩を挟んで、ほぼ22時の終演でした。オーケストラは、東京フィルハーモニー、指揮がリッカルド・フリッツアでした。この人は、主にイタリアを中心に活動していますが、メトロポリタンを始めとし、ヨーロッパの主要オペラ劇場で活躍しているベテランであり、新国立劇場には過去3度ほど出演しています。
このオペラは、主役であるヴィオレッタが中心であります。美声でスタイルの良い美人でなければ「サマ」にならない役処を求められる演目であります。  そしてそのヴィオレッタ役は、イリーナ・ルングです。この人はロシア出身ながら、スカラ座に所属しムーティ―に認められ主要キャストとして活躍の傍らイタリア国内はもちろん、メトロポリタンやヨーロッパの主要劇場の常連で特に椿姫が当たり役のようです。新国立劇場には初登場であります。ヴィオレッタ役の現役一任者と言えば、デヴィーアを推すのですが、未だ健在とは言え既に60才を過ぎています。イリーナは、今旬のソプラノ歌手と言えましょう。
相手役のアルフレード役が、アントニオ・ポーリで、イタリア生まれ、ローマで研鑚をつみ主にイタリアで活躍している人ですが、ヴィオレッタ役のイリーナ・ルングとは実力の差を感じてしまいます。このオペラの性格から役の重さ選びとして仕方ないところでありましょう。ジェルモン役のバリトン/ジョバンニ・メオーニ、この人もイタリア生まれでローマセチーリアに学び、イタリアで活躍していますが、メトロポリタンやヨーロッパ各地の有名劇場への常連であります。新国立劇場には初出場で、この3人の主役以外は全て日本人の歌手でした。テノール歌手が弱かったと言ってもソプラノとバリトンが出来過ぎなのです。公演は、所詮[生]ものですからこの程度の瑕疵は有って当たり前、生演奏のスリルというものです。だから生演奏の観劇は止められない、何時まで体が付いて行けるのかが問題なのです。
話は違いますが、毎回初日公演に来る観客の方で、可なりのお歳を召した方ですが、失礼ながらよたよた歩きで、弁当をザックに背負って毎回最前列の同じ席に付かれる方を見かけます。この方、サスペンダー丸出しにサンダル履きのくだけた衣服で目立ちます。新国立劇場のみならず私が行くオペラ公演では必ずと言っても良い程にお見かけするのです。たぶん私以上に観劇に通っておられるのでは。オペラ観劇とはそれほどまでに素晴らしいもので、私は家内共々の観劇ですが独りになってもそう在りたいと望んでいます。

11月18日土曜 14時開演で神奈川フィル定期演奏会にみなとみらいホールに行ってきました。当日の指揮はマックス・ボンマー 、この人は1936年ライプツィヒ生まれと言いますから、私と同じ歳で、育った時代の背景が感じとれます。カラヤンの薫陶を受けているようで、演奏活動もさかんに行っていますが、教育者として、また楽団の創設や音楽監督としての活躍が多く、日本にも名古屋フィルや札幌フィルの常任に就任し、日本に度々訪れています。氏のディスコグラフィは、古典から現代に至り幅広く存在することから、音楽界への貢献に熱心な人と見受けました。
当日の演奏曲目は、J・シュトラウス/皇帝円舞曲、シェーンベルク/浄められた夜 の2曲が前ステージ、そして後ステージがメンデルスゾーン/交響曲第3番 でした。
シェーンベルグは、初めて聞く曲で、眠くなりそうな曲相なのですが、何か魅かれるものを感じて引き込まれて行くのです。やはり定期演奏会ならではの選曲なのでしょう、私の様な中途半端なファンには良い薬でした。そして、メンデルスゾーンは言う事なしの名演で気分爽快の帰路となりました。

11月26日火曜 新橋イイノホールにて 日本タンゴフェスティバル が行われ行ってきました。
1部がタンゴ演奏早慶戦、2部がプロバンドの部で日本の5つのバンドが交互に演奏するステージでした。
 早慶戦と言っても学生バンドは早稲田のみで、慶応のバンドはOBによる編成でした。今やアルゼンチンタンゴも我々の若き時代と異なり、すっかり下火になってしまいました。当時は、ライブ専門のお店が新宿に数店と上野にもありました。常時タンゴ演奏が行われ、バンドと言えばグランオルケスタの編成が当然で、バンドネオンが4基 バイオリンが4基 そしてピアノ、ベースと言う編成が当然でしたが、今のプロバンドでは殆ど聞くことが出来ません。ところが、早慶戦ではどちらもグランオルケスタの編成で、若き時代を彷彿とさせられるものでした。
しかし、プロバンドの演奏技術は我々の知る時代よりも遥かに向上し、レコードで聞く本場アルゼンチンのバンドに聴き劣りしないものでした。特に平田耕治五重奏の平田のバンドネオンは素晴らしい演奏でした。我々の学生時代は、皆が貧乏しアルバイトで稼いだ少ない資金でライブ喫茶に通うから、聴くのも唯々一生懸命、演奏する人も世に出る為に一生懸命だったのです。今は、恵まれた環境で世界が狭くなり情報過多であります。逆に難しい時代になったと言う事でしょう。贅沢が過ぎて昔が懐かしくなる、何か複雑な感情になりますが、このようなことを考える、これ歳のせいかも知れません。

11月30日木曜に新国立劇場にて、R・シュトラウス/オペラ「ばらの騎士」初日公演に行ってきました。
演奏は、東京フィルハーモニー、指揮がウルフ・シルマーでした。この人は
ドイツ・ハンブルグ音楽大学出身で、ドイツ、フランス、イタリア等のヨーロッパの一流歌劇場で活躍する今旬の指揮者であり、R・シュトラウス、ワーグナーの作品からモーツァルトに至る幅広いレパートリーを持つ人で、ライプツィヒ歌劇場の総音楽監督を務めています。新国立劇場には今回6度目の登場とのことです。
キャストは、元帥夫人がリカルダ・メルベート、ドイツ生まれでウィーン歌劇場専属歌手を務め、その後独立してドイツオペラを中心にヨーロッパ各地で活躍している今旬のソプラノ歌手です。新国立劇場には常連であり来年の公演予定にも出演が決まっています。
中心となるキャストでは、オックス男爵役がユルゲン・リン、オクタヴィアン役がステファニー・アタナソフ、ファーニナル役がクレメンス、ゾフィー役がゴルダ・シュルツ、この5人の主役が外国人で、ゾフィー役のゴルダ以外全てドイツ出身であり、新国立劇場には何度か出演しているヨーロッパで活躍する実力者揃いであり、新国立劇場の力量が伺えると言うものであります。
このオペラは、第一次世界大戦の直前に完成し当時の貴族社会をそのまま表現していると言われるR・シュトラウスの最高傑作であります。何よりもメロディーが素晴らしいのです。第一幕の出だし部分は、ドタバタ場面や、貴族社会の淫乱な生活環境が表現される部分があって、取りつき難いのですが、それは全体の進行過程で仕方ありません。そこを過ぎるとこの作品の真骨頂を発揮してくるのです。第一幕の終曲部分のメロディーなどは素晴らしいです、オペラの嫌いな音楽ファンの方、騙されたと思って聞いてみてはどうでしょう。
ストーリーは、やがて訪れる貴族社会の滅亡を暗示するもので、観劇する者も華麗な舞台と相舞った微妙な雰囲気を嗅ぎ取ることが出来ます。特に終曲部の元帥夫人のアリアなどは、良き時代の終焉を暗示するもので、今の我々の時代とは違った環境ですが、精神的にマッチしているように感じるのです。若き将校のオクタヴィアンとゾフィーが目出度く結婚する事でハッピーエンドで終わりますが、歴史では戦争時代に入ります。オクタヴィアンとゾフィーは幸せな生涯を迎えることにはならないでしょう。
当日の公演は、18:00開演で終演予定が22:00でしたが、進行の遅れとカーテンコールを含めると結局22:30でした。遅くなることを予測していましたから、近くの京王プラザホテルに宿泊予定していました。それでもレストランでの食事は不可能でホテルのルームサービスで済ませるのですが、その締め切り時間が23:00で注文したのがぎりぎりの時間でした。
家内とワインを飲みながらの食事が終わったのは2:00近くであり、現役サラリーマンの観客の方々如何されるのか。その為かどうか、この公演は4回公演で内3回がマチネであります。だからと言ってこのオペラのマチネ観劇は、一寸気分が合いません。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

インタビュー掲載

コラムアーカイブ