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colums会長のコラム

会長のコラム 056

今回は、コンサートを離れて、オーディオ機器を評価するときの部屋の大切さに付いて考察してみます。
一般的に、頭で理解していても体験的に理解している人が案外少ないのではないでしょうか。かく言う私もプロのくせに試聴室が完成し、改めてその思いを噛締めているところです。

私が以前、ステレオサウンド誌、MJ誌でお馴染みの石井伸一郎氏が設計監修された、松下電器PAS社の試聴室で「部屋」の影響力を目から鱗ほどに体験して以来、念願としていた試聴室が今月完成しました。それは、昨年秋に当社の横浜市池部町本社1Fに建設場所を定め、そこに石井氏にお越頂いて調査、設計をお願いした時から始まることになります。
石井式オーディオルームの設計パターンは、部屋の縦横高さの比から部屋の面積が決まります、この計画は社内の既設社屋の改造なので天井高さは一番高い所を選ぶしかありませんでした、その為、私の希望していたフロアー面積を確保出来ませんでしたが、完成してみると、先に経験した感動を損なう事の無い出来栄えに大満足しています。写真1をご覧下さい。

この部屋で試聴を体験すると、世間で言われているオーディオの名言、常識などは、真実であったり、嘘であったり、色々なことが昼日に晒される様であります。スピーカーボックスの下に10円玉を入れたり、ケーブルを変えたりすると「音」が変わる現象は、多くの方が経験していると思いますが、その小さな現象がこの大型システムと謂えども手にとる様に解るのです。それは、この大掛かりなシステムが部屋の定在波や反響に影響されずに、ろうろうと鳴る事態から感じとれるのです、これはオーディオ機器の性能について拡大鏡を通して隅々まで覗き見しているとも言える様です。
この事は、部屋に相応しい大きさのスピーカーをセットしないと、部屋の空気が飽和してしまい、優れた特性のオーディオ機器と言えどもその能力を発揮し切れないと言う事実を如実に現わしていると言えます。部屋を含めてのオーディオシステムとするなら、大きく変わる要素が部屋であり、だから、部屋を基準に考えるべきでしょう。何が良くて何が悪いのか解らなくなり、気が付いたら元に戻っていた等と言う笑えない現象を経験する事になるでしょう。
当社も部屋と言う基準が出来て開発業務がやり易くなりました、商品開発スピードが上がり商品のラインアップの充実にスピードが上がる事でしょう。
私にも思い当たる経験があります。アマチュアにとって基準となる部屋を持つことなど容易なことでは有りません、私の場合も変遷に次ぐ変遷で、最初は当時評判であった機種に拘って設置したのがA-7、次に同じ理由で設置したのがタンノイオートグラフ、何れも名機の誉れ高く、購入価格よりも高く売れての機種交換体験だったわけですが、何れの機種も何かピント来ない、納得出来ない、言葉で表せない不満が有ったわけです。
その後、家の新築と同時に18畳の試聴室を作ったのですが、その結果としてタンノイオートグラフが以前より悪い結果になってしまいました。今度は、有名評論家の真似をしてマッキンのXRT-22へと変遷します。何とかタンノイよりましな音に自己満足していましたが、ちょうどその当時、オーディオを商売として立ち上げた時期で、有名評論家先生のお宅を訪問するようになり、同じマッキンのスピーカーでも先生のお宅の音と我が家の音の違いをみせつけられました。そして、写真2をご覧下さい、これが現在の自宅の試聴室です。

スピーカーのバックは米松の5cm厚の板を張ったものですが、新築当初は部屋全体が吸音加工壁でした、これを昨年の夏に工事をして改善を図ったわけです、未だ半年しか経過していませんが、可也の改善に繋がっています。しかし、基本的には石井式の理論に比べると天井が低く未だ感動は得られていません。
過去を振り返ってみて、部屋に付いての知識が全く希薄であったため、余計な回り道をして機材とカネをかけてしまい、今に至りますが、その間楽しんだのかも知れませんが禍根を残す事になっています。
写真3をご覧下さい、これは私の職住接近の便と言うより、横浜で酒を飲む都合で用意したマンションの部屋です。

当社の技術者が普段ツールとして使っている装置が、2A3シングルアンプと三菱のP-610で、大変良い音を出していまして、私もこれにあやかってセットした物です。大変素晴らしいバランスと音像定位、音楽表現は自宅のマッキンに負けないキャラクターで活躍しています。
結論として言えることは、本論旨である、部屋にあったスピーカーが効を奏していると考えています。
余談ですが、このマンションのセットも始めのうち、どうしても良い音が出ませんでした、ケーブルを変えたり、足を変えたりの過程で少しは良くなりましたが、基本的には会社のツールに及びません、部屋の環境は会社の実験室よりもマンションのほうが良い筈です。
当初より気になっていたのが、スピーカーのボックスでした、仕上げが綺麗で作りも良く部屋に合っていたので家内も気に入っていましたから、手を入れたくないとの思いが有った訳です。気掛りな点は会社の物より奥行きが少し小さい事でした、思いきって同じサイズで自作したものと入れ替えて見るとこれが全くの図星であったと言う事です。

当たり前の結論ですが、オーディオは好みの世界と言え良い悪いははっきりしています。その基準を認識しない論客や、好みに走って結論を見失うマニアなど多々おられます。一方では、好き嫌いを大声で話し合うのも趣味のオーディオかも知れません。しかし資金を有効活用し回り道しない勉強も必要と思います。
オーディオはことほど左様に難しいと言う事でしょうか。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

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